世界規模の調査から読み解く「最強の営業組織」

日時:2018年10月11日(木)14:00~17:30
場所:東京ミッドタウン ホール&カンファレンス 4F

法人営業力に関する専門調査機関 CSOインサイトのグローバル調査「2018-2019セールスパフォーマンス調査“Selling in the Age of Ceaseless Change ~絶え間ない変化の時代を勝ち抜く営業戦略”」を元にした考察を報告しました。

今回の調査結果からは、急激なビジネス環境の変化に直面しているにもかかわらず、営業組織がなかなか変れない、変化に追いついていない、と苦悩する世界の営業組織の実態が見えてきました。昨年に続き、自社にとって重要な顧客との信頼関係の度合いがパフォーマンスに与える影響を振り返るとともに、米国およびアジアパシフィックから二人のスピーカーを招いて、「これからの営業のあり方」を考察し、Sales Enablementのしくみを含む今後着目すべき4つの領域について最新の動向を紹介しました。

【第一部】2018-2019年セールスパフォーマンス調査概況報告

wp-image-15401 マーク・グリムショー

講師プロフィール

ミラーハイマングループ チーフディストリビューションオフィサー
マーク・グリムショー

世界中にあるミラーハイマングループの販売ネットワークを統括し、国や地域を越えて、さまざまなバックグラウンドを持つパートナー、代理店、個人コンサルタントなどの育成と更なる協業体制を構築することに尽力している。前職のマッキンゼー社で新規ビジネス開拓を担当。それ以前には、ケーブル&ワイアレス社にてセールスからセールスマネジャー、GMを歴任し、その後ヒューレットパッカード社でグローバルアカウントのマネジメントに従事。20年あまりのキャリアの中での同氏の強みは、新規ビジネスの開拓に関するコンサルティング力とビジネスの立ち上げから軌道に乗せていくビジョンと実行力である。

1. 営業力の現状

私たちは20年にわたってセールスパフォーマンスに関する調査を毎年行っています。2018年は世界46ヵ国、23業種における886名のセールスリーダーを対象に調査を実施しました(注)。今回はその調査結果報告とともに、2019年の営業組織が何を重点課題とすべきかについてお話しします。

最初に2018年の調査結果の要点を申し上げます。まず売上目標を達成した営業組織の比率は3年連続で増加し、今回は約94%に達しました。しかし、個別のセールスに目を向けると、売上目標を達成したセールスの比率は前年から微増したものの、54%に留まり、ここ2、3年は低いレベルでの推移が続いています。もう一つ言及すべき要点は、セールスの能力の低下です。16項目の営業能力のうち15項目(例、意思決定者にアクセスできている)において5年前よりも低下していることがわかりました。

ここでセールスリレーションシッププロセス=SRPについて紹介します。SRPは顧客に対してセールスがどれだけ有効性を発揮できているかを評価するフレームワークです。縦軸は顧客との関係性レベルを示し、最も低い「認定ベンダー」から最も高い「信頼できるパートナー」まで5段階で分けています。一方、横軸は営業プロセスのレベルを示します。プロセスが場当たり的か、あるいは形式的か、さらにそれが継続的に使用され、明確な評価指標で管理されているかによって、ランダム、インフォーマル、フォーマル、ダイナミックの4段階に分けます。
このSRPを用いて、2018年の調査企業がマトリクス上のどこに位置するかを分析したのが「図.顧客関係性と営業プロセス(SRP)のマトリクス」です。

2018年顧客関係性と営業プロセス(SRP)のマトリクス

パフォーマンスレベルを3つに分けると、調査企業の約1/5がレベル1、半分強がレベル2、約1/3がレベル3に位置づけられました。このようにSRPを使うと、自社の営業組織がどのパフォーマンスレベルにあり、今後どこを目指していきたいかを可視化することができます。

パフォーマンスレベルを1から2、2から3へと上げていくことは成果につなげる上で重要です。たとえば、レベル2よりもレベル3の企業は案件成約率が約8%高いというデータが得られました。パフォーマンスレベルを上げるには、縦軸の顧客関係性を深化させていくか、あるいは横軸の営業プロセスを成熟させていくかという2つのベクトルがあります。いずれにしてもSRPを使えば、特定の顧客に対して何をすべきかが明確に見えてくるわけです。

また、レベル3の組織は次の3つの点に関して、レベル1とレベル2の組織よりも際だって優れていることがわかりました。一つ目は、営業プロセスがカスタマーパス(顧客の認知・検討・購買プロセス)としっかり連携できているか、つまり営業のアプローチが顧客の望むアプローチに合致しているかどうかです。二つ目は、営業組織が顧客中心の文化になっているか。そして三つ目は、セールスが顧客に対して異なるものの見方(パースペクティブ)や深く考えさせるような問いかけ(インサイト)が提供できているかです。

2. 調査から見えた4つの重点課題

2018年の調査結果から、私たちは来る2019年に営業のトップリーダーが集中的に取り組むべき課題を以下の4点にまとめました。

1) リード・ジェネレーションの向上

リードの出所分析を行うと、53%が営業組織からもたらされていることがわかりました。つまり、依然としてリードの大半を生み出すのはマーケティングではなくセールスだということです。ただし、これはセールスを対象としたデータですので、マーケティングを対象に調査を行えば、おそらくリードの主な出先はマーケティングだという回答になるでしょう。こうした齟齬が起こるのは、セールスとマーケティングの間でリードをどう定義するかについて合意できていないからです。リードの定義が合意できているという企業は、全体の1/3未満に過ぎません。リード・ジェネレーションにおいては、まずリードの定義を一致させること、そしてリードを案件化していくプロセスについても組織内で共有する必要があります。

2) 新規顧客の獲得

新規顧客の獲得にはどの企業も力を入れているにもかかわらず、新規顧客からの売上は1/3以下に留まっています。また、すべての営業指標の中で新規獲得の能力は最低水準という結果でした。新規獲得について目標値を期待通りに達成できていると回答した企業は、全体の31%に過ぎません。

新規獲得には何よりも見込み客の優先順位付けが重要です。優先順位付けが期待以上にできていると回答した組織は、新規顧客案件の成約率が高いことが判明しています。また、新規獲得に向けたオポチュニティプランニングも重要です。オポチュニティプランニングが期待以上にできたと答えた組織の80%以上が案件成約の強みになったと回答しています。

3) 既存顧客との取引拡大

企業の収益は既存顧客に大きく依存しています。実際、売上高の70%以上は既存顧客から得ています。特に現在、取引があることは大きな強みになります。また、既存顧客のセールスサイクルは新規顧客よりも短く、既存顧客の3.8ヶ月に対して新規顧客は7.2ヶ月と約半分の期間で販売できていることがわかりました。それだけセールスにかかるコストが少ないということです。

しかし、必ずしも多くの企業が既存顧客との取引拡大に成功しているわけではありません。その理由の一つは、取引部門とは別の部門に対して拡販ができていないこと、もう一つは取引部門に対してクロスセルやアップセルが進んでいないことです。調査では組織の半分以上がこの2点において大幅な再設計や改善が必要だと答えています。

一方、アフターサービスについては、取引拡大にさほど寄与できていないこともわかりました。したがって、セールスサイクルの中で顧客を満足させることが取引拡大をしていく上で重要だと考えます。その際、顧客に対する詳細なアカウントプランニングをつくることも必要です。

4) 成約率の向上

成約率を高める上で重要なのが、フォーキャストの確度です。調査ではフォーキャストの確度が低下しており、成約できると予測された取引のうち実際に成約できたのは50%未満に留まっています。顧客がセールスに期待するのは、パースペクティブやインサイトの提供です。成約率を高めるには、パースペクティブやインサイトを提供する能力を強化しなければなりません。

また、既存顧客からの紹介によって新たな取引が生まれる可能性があるにもかかわらず、実際には紹介をもらえているケースが少ないことがわかりました。既存顧客からの紹介から生まれた取引は成約率が高いことが示されています。そこで、いわゆる「紹介プログラム(誰に、いつ、どうやって紹介を依頼するかを示すプログラム)」のような仕組みをつくり、有効活用していただきたいと思います。

3. 教訓とこれからの道筋

今回の調査から得られた教訓をまとめると、まずは人材をしっかり評価し、人を入れ替えることです。それが容易でなければ、組織の構造を大幅に変えます。たとえば、営業プロセスやメソッドの導入、改善です。また社内の組織との連携だけでなく、顧客側との連携をはかることも重要です。そして、蓄積されたデータを管理するために、できるだけ効果的なテクノロジーを活用すること。今はさまざまなAI技術があるので、実験的に使い始めてみてはいかがでしょうか。

現在、営業のパフォーマンスは停滞期にあります。企業は顧客中心の営業施策を打つことで差別化を図るしかありません。まずは上記の4つの重点課題に取り組み、営業変革を追求し続けていただきたいと思います。

【第二部】The Future of Selling 営業の未来

wp-image-15401 ティム・マッカートニー

講師プロフィール

ミラーハイマングループ アジア太平洋地域 マネージングディレクター
ティム・マッカートニー

GlobalData社及びCEB社(現在のGartner社)においてセールスリーダーシップの役割を担い、新規ビジネスや市場開拓モデルなどで一貫して2桁の成長を実現してきた。2018年3月よりMiller Heiman Group社のアジアパシフィック地域を統括する現職に着任、マネージングディレクターとして、シンガポールを拠点としつつ地域全体で50を超える強力なマルチチャネルオペレーションでビジネスの開拓と拡大を担う

1. 第4次産業革命と激変する市場環境

産業革命の歴史を振り返ると、18世紀後半から始まる第1次産業革命では蒸気を利用した機械化が起こり、19世紀後半の第2次産業革命では電気による大量生産時代が到来し、それから100年後の第3次産業革命では情報通信技術によるインターネット革命が進展しました。そして今日私たちは、第4次産業革命と呼ばれる新たな変革の真っ只中にいます。この第4次産業革命では、AIやロボット技術などあらゆる分野でのデジタル化が進むことによって複雑なタスクが自動化され、ビジネスの仕組みや働き方が大きく変わります。この変化がもたらす影響はインターネット革命による影響の10倍大きいともいわれています。

では、この変化の波によって市場ではどのようなことが起きているのでしょうか。一つ目はデジタルファーストがもたらす消費者の購買行動の変化です。彼らはデジタル環境で簡単に情報を入手し購買できるようになり「売り手」(あるいはセールス)とつながる必要がなくなってきているのです。たとえばフィンテックの台頭により、資産運用マネジャーはWebサービスに顧客を奪われつつあります。またマスメディアの力が低下し、消費者の情報源はソーシャルメディアへと移行しています。二つ目は新興市場の台頭です。中間層が増加し、NetflixやSpotifyといったサブスクリプション型のサービスが消費を牽引しています。また中国の医薬品業界では激しい価格競争が起きています。三つ目は高齢化する労働力と生産性の低下です。特にこの問題は日本において重要でしょう。ただし、これからは労働力の量的確保よりも、創造力や分析力など新たな能力が求められます。四つ目はセクターの越境現象です。今やAmazonの事業を定義するのが難しいように、さまざまな産業分野の境界線が曖昧になってきています。たとえばオーストラリアの携帯大手Telstraは需要の成長の鈍化を予想し、ヘルスケア事業への投資にシフトしています。このように市場環境は激変しているのです。

2. 営業の世界では何が起きているか

一方、買い手側のカスタマーにもさまざまな変化が起きています。私たちの調査によると、B to B営業において意思決定に関わる人の人数は増加し、平均6.4人であることがわかりました。また、情報入手や問題解決のためにセールスを頼ると答えた人は23%しかおらず、つまり70%強は購買に関する情報入手を自分たちで行い、セールスに頼るのは最終段階になってからだということです。セールスはWeb経由あるいは紹介を通じて買い手の購買プロセスに関与するとなると、買い手との対峙の仕方も今までと変わらざるを得なくなります。商品やサービスについて一定の知識を持っている買い手がセールスに期待するのは、自分たちが知らないことをより多く教えてくれるかどうかです。私たちの調査でも、75%のセールスが顧客の期待は以前よりも増していると回答しています。

不透明な地政学的環境にもかかわらず、急速なビジネスの変化に対応している競合がいます。一方で生産性の低下とデジタル化の波による混乱に直面している市場において、営業組織はどうすれば成功するのでしょうか。この問いに対し、私たちは4つのソリューションを提唱したいと思います。

3. 成功のための4つのソリューション

1) 価値の創造

一つ目は価値の創造です。昔の営業のやり方は、たとえばオフィスに飛び込み、お客様に質問を投げかけ、そこから得られた回答からニーズを見つけて商品を売り込むというものでした。つまり、買い手が直面している問題や競合の状況といった情報は、買い手側が提供してくれたのです。しかし今は、そうしたやり方がまったく通用しなくなりました。私たちが提唱する新しい営業モデルというのは、まず顧客をしっかりと理解した上で、顧客がまだ気づいていない価値やパースペクティブ(異なる視点)を伝えます。つまり、顧客の世界に合わせた価値を提供するという「価値のエンジニアリング」が必要になるのです。

価値のエンジニアリング

こうした営業ができれば、顧客側にとって非常に有意義です。まず顧客が今まで認知していなかった問題が見えてくるようになります。さらに、今まで考えつかなかった新しい機会、予想していないソリューションも見えてきます。セールスは顧客にそれらを提供することによって、顧客との関係性を深め、彼らからの紹介によるアップセルが可能になるなど、売り手としての優位性を築くことができます。

2) セールスタレント

二つ目はセールスに必要な能力や才能は何かということです。たとえば皆さんが営業職を採用するとしたら、どのような要素を求めるでしょうか。典型的なのは学歴や職歴、あるいは自信のある態度、自分自身を表現できること、行動力といった答えになるかもしれません。では、どういうセールスから買いたいかと問われたらどうか。私のクライアントは、自分のビジネスをしっかり理解してくれる人から買いたいと答えました。もっと言えば、財務諸表を分析できる力や顧客の事業に関連するニュースを顧客の視点で伝えてくれる能力のある人です。つまり、人柄の良さや自信のある態度といったものはさほど求められておらず、むしろ分析力や洞察力、論理的思考、そして自分の分析を購買プロセスに関連づけて伝える能力などが必要とされているのです。

したがって、営業を統括するリーダーは人材評価を行う際、そうした能力を評価基準に加えることが重要になります。つまり、将来に向けて営業部隊のDNAを書き換えていかなければならないのです。

3) セールスメソドロジー

三つ目は測定可能なメソドロジーの確立です。メソドロジーはスキルやケイパビリティとは違います。たとえばセールスがある顧客に向けて販売の機会を狙っているとしましょう。販売を成約させるためには、そこに関わるすべての意思決定者とそれぞれの役割を特定しなければなりません。さらに、彼らがどのようなモードで関わるのか、助言を与えてくれるのは誰か、どのような行動を取るのが効果的か、といったことも理解しておく必要があります。これらを販売プロセスにおけるセールスメソドロジーと呼びます。

セールスメソドロジーは原理やプロセスを含む一連の仕組みです。それが確立できた上で初めてスキルを使うことができるのです。そしてプロセスであるならば、マネジャーや第三者がその成熟度を評価できるよう測定可能でなければなりません。組織としてプロセスを追跡し、継続的な活動が実行できるようにしなければならないからです。明確なプロセスがある企業とそれがない企業では、その成果において23%の違いがあることが調査でわかっています。

4) デジタルイネーブルメント

四つ目はデジタルイネーブルメントの強化です。その前にセールスイネーブルメントについて説明しましょう。

セールスイネーブルメントについて

上図に示すように、セールスが営業活動を行う際、営業パフォーマンスを高める上で邪魔になる要素を排除していくのがセールスイネーブルメントの役割です。活動の量、活動の質、時間、阻害要素などを数値化し、数式を使って営業活動を戦略的に管理していくのです。セールスイネーブルメントの機能を備えている営業組織は、備えていない組織に比べて売上達成率が8%高いという結果が出ています。

営業活動をより強力に支援するためには、テクノロジーの活用が不可欠です。私たちの調査によると、セールスが自分に与えられた時間のうち直接顧客と接点を持つ営業活動に費やしている時間は35%しかないことがわかりました。残りの65%は何に使っているかというと、事務処理や経費の精算、社内の会合、移動時間などです。こうした無駄なタスクにかかる時間を低減する、あるいはタスクそのものをやらなくて済むようにするには、セールスイネーブルメントにAIなどのテクノロジーを導入することが重要になるのです。

今、こうしたセールステクノロジーを提供する企業はすでに1万社以上存在しています。セールス活動の効率化のみならず、これからの営業には、いかに蓄積されたデータを使って将来の予測を立てていくかという視点が欠かせません。是非、新しいテクノロジーへの投資を進めていただきたいと思います。