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16年版人材開発白書「ミドルの自己変革力」 —自己認識と行動変容—

【書影】人材開発白書2016

過去に通用したことが、将来にわたっても通用し続けることはない。あるいは、ある状況で上手くいったことが、別の状況でも上手くいくとは限らない。ところが、そのやり方が正しいのだと思い込んでしまうことは、誰にもあることだ。成果を上げ続けるには、自分自身が変わり続けなければならない。

自分の間違いに気づき、行動を変えるためにはどうすればよいのか。こうした問題意識のもと、1,031人のビジネスパーソンを対象とした定量調査を実施した。その調査結果を踏まえ、ミドルマネジャーにおける4つの課題を、提言としてまとめた。

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要約

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はじめに

ある大企業で、女性で初めて管理職に登用された方にインタビューをしたときに、聞いた話である。

初めての女性管理職で、みんな興味深く見るわけですね。ですから、“冗談じゃないわ、私、できるのよ”という感じでビシバシやっていたんです。(中略)最初はその部署の方々にいろいろ教えてもらうのですが、最後には自分のロジックでこてんぱんにやっつけちゃうわけですね。“私が偉いのよ、私はわかってるのよ”と。
あるとき、私のメンターだった外国人のボスに言われたんです。「あなたは一生懸命頑張っているから、人の2割か3割は能率が良いかもしれない。でも、どんなに頑張っても一人で3倍、4倍はできない。部下となら10倍、20倍にできるのだから、そのことを考えなさい」と。でもその時は、“そんなこと言ったって、私がやらなきゃ”と思っていたわけですよ。
そういうときに、その部署の担当者の方に言われたんです。「もっと、部下を好きになってください」と。この言葉には胸を突かれました。本当に申し訳ないと思いましたね。

ミドルマネジャーに求められる自己変革力

私ども社会人に対する期待は、時とともに変わる。大卒で入社したばかりのころには、与えられた仕事で成果を出すことが期待される。その後、組織を束ねるマネジャーになり、さらにはマネジャーを束ねるマネジャーになるにつれて、会社からの期待も変わる。昔のままのやり方では、成果を上げることはできない。

期待だけでなく、環境も変化する。私どもは閉ざされた世界の中で自給自足の事業を営んでいるわけではない。さまざまな外部環境の影響を受けながら、事業活動をしている。そしてこの外部環境は絶えず変化する。鏡の国のアリスではないが、同じ場所にとどまっているためには、変わり続けなければならない。

ところが、なかなか変わることができないミドルマネジャーは少なくない。かつて事業部長クラスに対するインタビュー調査*1を実施し、マネジャーの問題行動を聞いたところ、このような声が多く挙がった。

役職が変わり、あるいは環境が変われば、マネジメント方法もビジネスのやり方も変えなければならない。それにもかかわらず、過去のやり方に固執しているマネジャーが目に付くことに、事業部長クラスの方々は悩んでいるのである。

何かを変える場合は、他者から強制されることよりも、自分で気づくことが原動力になる。こうした背景から今回の調査研究では、ミドルマネジャーの自己変革をテーマに、調査研究を進めた。

分析―“自分の間違いに気づき”、“行動を変える”ために

“自己変革”という言葉からイメージすることは、人によって微妙に異なるかもしれない。この調査では、自己変革を以下の2つの領域に分解し、調査を進めた。

まずは、自分自身の間違いに気づかなければ始まらない。とはいうものの、それまでのやり方が正しいと思い込んでいた人が、間違いだったと気づくことは容易ではない。何がきっかけになるのか、またどんな状況で、どんな人が気づきやすいのかを分析する。

間違いに気づき、それまでのやり方を変えようと思っても、すぐに変えられるとは限らない。新しい行動を起こす際には、様々な障害が横たわっていることがほとんどだからである。どのような障害があり、どう乗り越えればよいのかを考える。

「自分の間違いに気づき、行動を変える」― このシンプルな課題を遂行する力を“自己変革力”と位置づけ、1,031人のビジネスパーソンを対象とした定量調査、および事例調査を実施した。それらの調査結果を踏まえ、ミドルマネジャーの4つの課題を述べる。

 

提言―ミドルマネジャーの課題

提言1:自己認識を促す機会を探る

自分の間違いに自ら気づくことは簡単ではない。自分が正しいと思い込んでいるからだ。思い込みから脱却するには、考えを改めさせるような鮮烈なきっかけが必要である。どんな機会が役立つのだろうか。

今回の調査結果によれば、比較的インパクトが強い機会が「自分に関する客観的なデータや事実を目の当たりにしたとき」であり、「想定した業務成果や、従来の業務成果が出なかったとき」、「仕事のやり方について、他者と議論したとき」、「他者から意見やアドバイスをもらったとき」が続く。これらは言わば、自己認識のスイッチである。いずれも、自分の行動や自分自身のことをじっくり考えなければと思わせてくれるようなものであり、意識下にあったものを意識に上げてくれる。

もちろん、これらの機会は平等に訪れるわけではない。特に「他者からの意見やアドバイス」は、役職が上がるにつれて減少してしまう。こうした貴重な機会を、能動的に増やす努力が必要である。

提言2:役割に応じた適切な成長志向を抱く

間違いに気づかせてくれる機会に運良く巡り合えたとしても、すべての人が気づけるとは限らない。機会が目の前を通り過ぎてしまうだけの人もいる。同じものを見聞きしても、人によって受け取り方は異なる。どのような人が気づくことができるのだろうか。

今回の調査で見出された特徴の1つは「成長志向」である。成長したいという強い意識を持っている人の方が、自分の間違いに気づきやすい。
心理学の研究によれば、達成された課題よりも未達成の課題の方が記憶に残るという。心理的な緊張状態が続くからだ。「成長志向」を強く抱いている人は、そのことが常に念頭に置かれることになり、見聞きしたことが自然と関連付けられるのだろう。

ただし注意が必要である。誤った成長志向からは、誤った気づきしか得られない。大切なのは、成長志向の質である。役職に応じて期待される役割は変わる。ミドルマネジャーという役割に応じた、適切な成長志向を抱くことが肝要である。

提言3:意図的に自分自身を否定する

今回の調査で見出されたもう1つの特徴は、「意図的な自己否定」である。上手くいっているときほど自分の考えや行動を否定してみるというような思考様式の人ほど、自分の間違いに気づきやすい。

人は合理的に考えられないことがある。意思決定バイアス(歪みや偏り)が作用するからだ。自分の考えを裏付ける情報だけを無意識に探してしまうこともある。そして、業務経験を積むほど自分への自信が増し、なおさらバイアスが強くなる。意図的に自分を否定してみることは、こうしたバイアスに気づかせてくれる。
バイアスに気づくには、あえて自己否定するぐらいの極端さが必要である。今回の調査結果によれば、立場を変えて検討してみるくらいでは、効果があるとはいえなかった。

ただし、ここでも注意すべきことがある。自己否定ばかりでは、ものごとが停滞してしまう。多少の不安があっても、積極的にチャンスをつかみにいくべきときもある。自己否定の程度に気をつけなければならない。

提言4 :周囲を巻き込む対人関係力を磨く

自分の間違いに気づくだけでは何も変わらない。実際に行動を変えなければならない。しかし、それができないこともある。行動を阻害するものがあるからだ。どのような障害が横たわっているのだろうか。

今回の調査結果によれば、多くの人は時間不足に悩まされていた。時間を捻出できるかが1つの鍵である。しかし、ミドルマネジャーならではの障害に着目した場合、「強固な反対」と「周囲の無関心」が浮かび上がる。一般社員の行動変容であれば自己完結する場合も多いだろうが、ミドルマネジャーが何かを変えようとした場合には、部下や他部門などにも影響が及ぶ。“自己”の変革とはいえども、反対勢力を説得し、無関心層を巻き込まなければならないのである。

そのための1つの方法は、相手の関心ごとに訴えることである。相手には相手の利害がある。いくら自分の思いや考えを主張したところで、溝は埋まらない。相手の関心ごとを把握し、相手のメリットを説明するような対人関係力を磨かなければならない。

おわりに

ミドルの自己変革は、自分自身が変わることが目的ではない。自分より大きな組織を変えるために、自分が変わるのである。本報告書がミドルの自己変革に、そしてひいては企業の変革に僅かでもお役に立てれば望外の幸せである。

*1 富士ゼロックス総合教育研究所『人材開発白書2012:戦略実行力―トップの問題認識とミドルへの期待』。

2016年2月

坂本 雅明
富士ゼロックス総合教育研究所
研究室 室長

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著者プロフィール

坂本 雅明
坂本 雅明

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長/首都大学東京大学院ビジネススクール非常勤講師

1992年NEC に入社。コンサルティングファームを経て、2006年より当社入社。戦略策定・実行プロセスの研究および戦略策定研修を担当。一部上場企業の顧問として中計策定や新事業開発、関連会社の再建支援にも携わる。上智大学卒業、一橋大学大学院修士課程修了(MBA)、東京工業大学大学院博士後期課程修了(博士(技術経営))。一橋大学イノベーション研究センター研究員(05~06)。首都大学東京ビジネススクール非常勤講師(12~)

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