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15年版人材開発白書「ミドルの決断力」-意思決定の質と他者との相互作用ー

人材開発白書2015書影

ミドルマネジャーの決断力不足が現場の混乱をもたらしている――このような状況がこれまでの調査研究から浮かび上がってきた。上位戦略を具体的な部門戦略に落とし込むためには、ミドルレベルで何をやり、何をやらないかを決めなければならない。しかし、その決断がなされていないため、現場メンバーの力が結集できていなかったのである。
ミドルマネジャーはどうすれば適切な戦略判断ができるのか。また、どうすれば先送りせずに決断できるのか。こうした問題意識のもと、他者との相互作用という側面から調査研究を進めた。そして、1,225人に対する定量調査の分析結果をもとに、4つの提言としてまとめた。

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要約

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はじめに

私どもビジネスパーソンは、仕事の中で多くの意思決定をする。M&Aや構造改革などという重大な決断から、文章を明朝体にするかゴシック体にするかを決めることまでを含めると、仕事は意思決定の連続だといっても過言ではない。
意思決定の質は仕事の質に大きく影響する。そして、私どものこれまでの調査結果によれば、ミドルマネジャーの決断力に課題が見られた。

ミドルマネジャーに求められる決断力

『人材開発白書』は、これまで4年間にわたり、戦略実行力をテーマに据え、現場のメンバーを動かすためのミドルマネジャーのマネジメントを検討してきた。
その過程で浮かび上がった1つの要因が、ミドルの決断力である。事業部から発せられる事業戦略は、ある程度抽象的にならざるを得ない。その戦略を現場レベルで実行するためには、ミドルマネジャーが具体的に何をやり、何をやらないかを決めなければならない。その決断がなかなかできていないために現場が混乱し、本当に必要なことに力を結集できない組織が散見された。

意思決定に影響を与える、他者との相互作用

もちろん、単に決めればよいというわけではなく、質が伴っていなければならない。闇雲に決めては、部下が混乱するだけである。正しい決断をするにはどうすればよいのだろうか。1つの事例を通じて考えたい。

1961年のことである。CIAや国防省との議論を重ねた結果、大統領のジョン・F・ケネディは、亡命キューバ人によるキューバへの侵攻に対して支援する決断を下した。対立するカストロ政権を打倒するためである。 4月17日の未明、訓練され、武装された亡命キューバ人1,400人がピッグス湾に上陸し、勇敢に戦った。しかし、上手くいったのはその一瞬だけだった。備弾薬と兵糧を積んだ船は撃沈され、上陸した部隊は包囲され、3日目までに、そのほとんどが殺害されるか捉えられてしまった。ケネディ政権にとっては大失態となった。 多くの人は、どうしてそんな計画をケネディが許したのかと不思議に思った。ケネディ自身も「なんというバカなことをしたことか。連中に任せるなんて」と言ったという*1。

さて、次に同じような事態に直面したとき、ケネディはどうしただろうか。「今度はGoを出さなかった」というのは、賢い答えとはいえない。ケネディがしたことは、意思決定方法の見直しであった。
ピッグス湾侵攻におけるケネディの判断ミスは、議論段階でのいくつかの問題によってもたらされた。侵攻を主張したCIA高官から提出された情報が歪められていたり、侵攻の弱点を指摘するかもしれない国務省中堅職員が議論から除外されるなどして、激しい意見対立が起こらないまま、決断が下されたという。

こうした反省から、1962年にキューバ危機の対応方法を協議したときには、やり方を変えた。会議中は序列を忘れさせた。また、率直な意見交換ができるように、ケネディ自身が意図的に会議を欠席することもあった。多様な意見が出るように、中堅職員や部外の専門家を検討の場に招いたり、2つのグループに分けて相反する角度から検討させたりもした。弟のロバート・ケネディにわざと難癖をつけさせることもあった*2。

最終的に決断するのはもちろんケネディである。しかし、一人で決められるわけではない。結論に至るまでには様々な人の関与がある。意思決定の質を高めるためには、誰にどのように関与してもらうのかを考えなければならないのである。

提言―3つの効果(「事実情報の補完」、「異なる解釈の発見」、「自信と後押し」)を活かすために

ミドルマネジャーが適切な戦略判断を下すにあたり、必要な他者とは誰なのか。また、どの段階で、どのように関与してもらえばよいのか。このような問題意識から、調査研究を進めた。

分析したところ、他者に関与してもらうことで概ね意思決定の質が高まることが分かった。そしてそれは、他者から「事実情報の補完」「異なる解釈の発見」「自信と後押し」の3つを得られるからであった。 しかし、他者に関与してもらえさえすればよいわけではない。この3つが必要なタイミングも異なれば、与えてくれる人も異なる。さらには、他者の関与を活かせるかどうかは、意思決定者本人の問題もある。
調査結果を踏まえ、他者の関与を意思決定に活かすための、4つのポイントを提言する。

提言1 意思決定の土台を築くために、上下左右の他者から事実情報を収集する

意思決定の土台を成すものが事実情報である。この部分が不確実であったり、憶測に過ぎなければ、その上に乗る議論や結論も不安定なものになってしまう。意思決定の初期段階では、この土台部分をしっかりしたものにしなければならない。

しかし、個人が持っている情報は限られている。どうしても特定の領域に限定されてしまう。これは組織構造や階層構造とも関係する。複雑化する企業活動に対処するために、情報処理を垂直的、水平的に分業しているのである。

分業自体が悪いわけではない。個人の情報処理能力には限界があるからだ。そして、そもそも意思決定者は全ての情報を持っている必要はない。必要なときに、その情報を持っている相手に聞けばよいのである。
大切なことは、誰に聞くかである。ミドルマネジャーは上司を重視する傾向があるが、必要な情報は部下や他部門にも分散されている。幅広い他者から、事実情報を収集しなければならない。

提言2 偏った解釈を避けるために、他者を通じて考えを発散させる

事実情報が揃ったからといって、すぐに結論を出すべきではない。例えば、ある商品の普及率が低いという事実は、“この商品のニーズはない”とも“大きな潜在市場が残っている”とも解釈できる。結論を出す前に、多様なレンズを通して眺めてみなければならない。

しかし、個人の解釈は偏りがちである。どうしても、過去の経験や自分の得意領域から考えてしまう。過去に失敗した経験があれば、再び同じような失敗をすると考えてしまうだろう。また、自分の守備範囲以外のことは、なかなか気づきにくい。

偏った見方は危険である。別の解釈の中に、素晴らしい答えがあるかもしれないからだ。結論を出す前に、あらゆる可能性を拾い上げなければならない。 そのときにも他者が手助けしてくれる。特に、既存の考えにとらわれない人やリスクに果敢に挑戦するような人が、発想の転換をもたらしてくれることが多い。また、自分と思考タイプが異なる人の意見も役に立つ。こういう人との議論が有益である。

提言3 先送りすることなく決断するために、他者に後押しを求める

戦略には旬がある。機会が現れたら、窓が閉まる前に飛び込まなければならない。また、競合他社が手を打つ前に行動を起こさなければ、効果が薄れてしまう。意思決定には納期がある。先送りしたり、曖昧な決定をしてはならない。

しかし、納期内に結論を出すことは容易ではない。短期間で全てのことを考慮することはほぼ不可能だし、失敗したときのことがどうしても頭をよぎる。さらには前段階で発散するほど、結論を出すことが難しくなる。長所も短所もある多種多様な案を集約したり、選択したりしなければならないからだ。

このときにも他者の関与が役に立つ。自分の考えを支持してくれ、前に進める自信を与えてくれる。また、失敗してもよいことを気づかせてくれたり、完璧主義を改めさせてくれる。 そのときに頼るべき他者は、結果を見通すことに長けた人や、ものごとを先送りしない人である。そのような人が、決断の後押しをしてくれることが多い。

提言4 他者の関与を活かすために、多様な意見を受け入れる姿勢と対処するスキルを身に付ける

適切なタイミングで、適切な他者に関与してもらえば、必ずうまくいくというわけではない。他者の意見を受け止める本人の問題もあるからだ。とりわけ活かすことが難しいものは「事実情報の補完」や「自信と後押し」ではなく、「異なる解釈の発見」である。

多様な解釈を得るには、自分とは思考タイプが異なる多様な人に意見を求めなければならない。しかし、やはり同じような考えを持つ人との議論の方が心地良いし、できれば反論は聞きたくない。意見の対立がやがて感情の対立になってしまうこともある。多様性は理想かもしれないが、必ずしもプラスになっていないのが現状である。

もちろん、全ての意思決定に多様な意見が必要なわけではない。簡単な問題であれば、すぐに決めて、すぐに実行する方が大切である。
しかし、難しい問題に対しては、同じような思考タイプの人だけで解決することは難しい。多様な意見が必ず必要になる。多様な意見を受け入れる姿勢と対処するスキルを身に付けなければならない。

おわりに

事業運営は意思決定の連続である。適切な決断をして、すぐに実行する。この繰り返しが組織を強くするものと信じている。
ミドルの決断力に課題を感じている企業の方々に、そして何といってもミドル自身に、本報告書が僅かでもお役に立てれば望外の幸せである。

*1 Theodore C. Sorensen (1965) Kennedy, New Bantam. [シオドア・ソレンソン著、大前正臣訳(1987) 『ケネディの道―未来を拓いた大統領』サイマル出版会]をもとに作成。
*2 Michael A. Roberto (2005) Why Great Leaders Don’t Take Yes for an Answer: Managing for Conflict and Consensus, Pearson Education.

2015年2月

坂本 雅明
富士ゼロックス総合教育研究所
研究室 室長

 

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著者プロフィール

坂本 雅明
坂本 雅明

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長/首都大学東京大学院ビジネススクール非常勤講師

1992年NEC に入社。コンサルティングファームを経て、2006年より当社入社。戦略策定・実行プロセスの研究および戦略策定研修を担当。一部上場企業の顧問として中計策定や新事業開発、関連会社の再建支援にも携わる。上智大学卒業、一橋大学大学院修士課程修了(MBA)、東京工業大学大学院博士後期課程修了(博士(技術経営))。一橋大学イノベーション研究センター研究員(05~06)。首都大学東京ビジネススクール非常勤講師(12~)

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