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【Bizコンパス 連載1】 なぜ戦略は実行されないのか(3回シリーズ) ~成果をあげるマネジメントに必要な2つの側面~

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 坂本雅明

なぜ戦略は実行されないのか。どうすれば実行できるのか。トップの方針と現場メンバーをつなぐミドルに焦点を当て、独自データから読み解きます。

私は、富士ゼロックス総合教育研究所にて、企業の戦略策定や実行の支援をしています。また、首都大学東京大学院ビジネススクールで「戦略経営」を担当し ています。これまでの経験から感じていることは、戦略の策定段階よりも、戦略の実行段階の方がはるかにたくさんの障害が待ち受けているということです。ま た、それにもかかわらずアカデミックの世界では「戦略策定」に関する議論ばかりがなされ、「戦略実行」には注目が集まっていません。そこでこの連載では、 「どうすれば戦略は実行できるのか」をテーマとして、読者の皆様のビジネスに役立てる情報を提供していきたいと考えています。

■ なぜ戦略の「実行」なのか
突然ですが、次のような2つの場面を想像してください。 これらは両方とも意思決定の場面です。しかし、違うことがあります。なんだと思いますか。

もちろん、数限りない違いがありますが、このコラムの文脈に沿って1つだけ説明します。競馬の場合は賭けてしまえばそれで終わりです。あとは運を天に任せ るしかありません。じたばたしても仕方ありません。しかし戦略は違います。戦略を決定した後の努力次第で、成功確率を高めることができます。

戦略の策定よりも実行の方により多くの時間を費やし、またさまざまな困難に直面します。優れた戦略を策定できればそれで上手くいくというわけにはいきません。当たり前ですが、策定しただけでは、業績はイチミリも改善しません。

■ 実行する努力もせずに、戦略のせいにしていませんか
戦略の“実行”ということを考えると、個人的にある企業のことを思い出します。

私はもともとNECに在籍していました。その後、系列のシンクタンクに移ったのですが、本社から常に言われたことは、IBMをベンチマークしろということでした。

当時はハコ売り(ハードウェア)からソリューション・ビジネスへの転換が進んでいた時期です。どのIT企業もその方向にシフトしていきました。なかでも IBMの進め方は強烈でした。ハードディスク・ドライブ事業の日立への売却や、パソコン事業のレノボへの売却、ノーツで有名なロータスの買収やプライス ウォーターハウス・クーパーズのコンサル部門の買収など、ものすごい速さで決断し、実行していきました。もちろんM&Aだけではありません。巨大 企業にもかかわらず、意思決定のあり方や会議体の見直し、プロセス改革や組織階層の削減、業績評価制度の変更、それらを通じた意識改革を短期間で進めました。

その立役者が、1993年にCEOに就任したルイス・ガースナーです。ガースナーは引退後に当時を振り返り、『巨象も踊る』(山岡洋一・高遠裕子訳、日本経済新聞社、2002年)というタイトルの本を著しました。ちなみにこのタイトルには、「巨大企業のIBMでも俊敏に動くことができる んだ」という意味が込められています。
この本の中では、こう述べられています。

「独自の戦略を策定することは極めて難しいし、業界の他社の動きとはまったく違う戦略を策定した場合、それはおそらく極めてリスクの高いものだ。(中略) 結局のところ、どの競争相手も基本的には同じ武器で戦っていることが多い。(中略)従って、実行こそが決定的な部分なのだ。やりとげること、正しくやりと げること、競争相手よりうまくやりとげることが、将来のビジョンを夢想することより、はるかに重要である。」(邦訳pp.302-303)

十分に実行していないにもかかわらず、業績が向上しなければ「戦略が悪かったんだ」と結論づけるようなことはないでしょうか。戦略の善し悪しを語る前に、きちんと実行しなさいと、ガースナーは喝破したのです。

それにもかかわらず、戦略の方ばかりに脚光が集まります。いま改めて、“実行”に目を向けるべきではないでしょうか。

■ 何が実行を阻害するのか―事業部長クラス37人へのインタビュー結果
なぜ戦略が実行されないのでしょうか。32社にご協力いただき、事業部長、営業本部長、関連会社社長など(以下、“事業トップ”とします)37人に対して1時間から1時間半のインタビューを実施しました。(調査結果は、『人材開発白書2012』にまとめられています。)

事業トップとは、前出のガースナーより1つか2つ下の階層で、特定の事業について責任を負っている方です。その方々に、自分が決定した戦略が、現場レベ ルで実行されない理由を尋ねました。その結果を整理したものが図1です。自由回答で得られた定性コメントをKJ法の要領で類似のものをまとめ、件数を算出 しました。

図1 事業トップが感じている戦略実行の阻害要因(ランキング)
図1 事業トップが感じている戦略実行の阻害要因(ランキング)

このランキング表だけで解釈しようとすると少し危険です。ランキングの下位にある少数意見でも、類似のものが多ければ、実はそれが重要な意見だということもあります。そこで、これらをもう少し大きな切り口で整理しました。それが図2です。

図2 事業トップが感じている戦略実行の阻害要因(カテゴライズ) 図2 事業トップが感じている戦略実行の阻害要因(カテゴライズ)

まず気づくことは、仕組み面を問題視する意見の少なさです。MBAのテキストでは、戦略を策定した後には適切な組織構造を構築しなさいと説明されること が一般的です。これは、米国の企業経営の変遷を子細に調査して「組織は戦略に従う」という有名な命題を残したアルフレッド・チャンドラーの功績によるもの でしょう。

しかし、実際のところは、組織構造をいじることの弊害も見過ごすわけにはいきません。あるコンサルティングファームの調査によれば、組織図を書きかえる ことは変化が目に見えるため手をつけたくなる衝動に駆られるものの、手を付けてもそのほとんどが一時的な成果で終わってしまうそうです。私どもの調査で も、組織構造を挙げる事業トップは少数でした。問題の本質は別のところにあると考えているのです。

では何を問題視しているかというと、マネジメント面です。なかでもミドルのマネジメントを問題にしている事業トップが多いことがわかります。これはミド ルに対する期待の裏返しだと思います。トップは戦略を策定することはできても、実行することはできません。実行するのは第一線の社員です。そして、トップ はそれら社員全員に直接働きかけることはできません。トップの戦略と第一線社員の行動を結びつける要として、ミドルに期待しているのでしょう。

■ ミドルに求められる2つの側面―現場メンバー2,170人に対する定量調査より
このような期待に応えるために、ミドルはどのようなマネジメントをすればいいのでしょうか。27社の49ビジネスユニットにご協力いただき、現場メンバー2,170人への定量調査を実施しました。(調査結果は、『人材開発白書2011』にまとめられています。)そして、その調査結果を因子分析という統計手法を使って分析したところ、戦略を実行させるために必要な2つの側面が見いだされました(図3)。

図3 戦略実行マネジメントの2つの側面 図3 戦略実行マネジメントの2つの側面

ひとつ目の「戦略のマネジメント」とは、簡単に言えばメンバーに方向を示す機能です。上位戦略を受けて部門戦略を立て、実施状況をモニタリングし、期末 にレビューするというものです。そしてもうひとつの「人・組織のマネジメント」は、メンバーを前進させる機能です。メンバーを支援したり動機づけたり、あ るいは動きやすい環境を整えるなどが具体的なマネジメントです。
余談ですが、神戸大学の金井壽宏先生によれば、リーダーシップやマネジメントを 分析すると、必ずこの2軸が現れるそうです。三隅二不二先生が提唱したPM理論では、「課題達成(Performance)」と「集団維持 (Maintenance)」で説明され、オハイオ州立大学の研究では「構造づくり」と「配慮」という2軸が導き出されています。「IQ」と「EQ」、 「理」と「情」という区分もこれに近いのかもしれません。

さて、ミドルが「戦略のマネジメント」しか行わない部門の場合はどういう状態かというと、メンバーは自分たちがどこに向かっているのかを認識しており、 とても整然としています。しかし、どこかしら活気がありません。もうひと頑張りしようと思ってくれません。反対に「人・組織のマネジメント」だけの部門で は、どのメンバーも精いっぱい頑張っています。しかし、残念なことにベクトルが揃っていないので、個々人の努力が組織全体のパワーになりません。当たり前 のことですが、戦略実行マネジメントにはこの両方の側面が必要なのです(図4)。

図4 2つの側面と成果の関係 図4 2つの側面と成果の関係

■ 成果をあげるミドルに変わるために、いま何をすべきか
「当たり前のこと」と書きましたが、当たり前だからといって簡単にできるわけではありません。ミドルにも会社にも“利き手”があるのです。「戦略のマネ ジメント」が得意なミドルもいれば、「人・組織のマネジメント」が得意なミドルもいます。会社によっても特徴があり、ほとんどのミドルがどちらかに偏って いる場合も少なくありません。先輩管理職から脈々と受け継がれているのでしょう。
しかし、繰り返しますが、2つの側面の両方が必要なのです。苦手な側面があれば、それを改善しなければなりません。どうすればいいのでしょうか。

そのことについても、定量調査、定性調査を実施しました。そして、いまミドルが何に悩んでおり、どうすれば良いのかを分析しました。第2回目は「戦略のマネジメント」のポイントを、第3回目は「人・組織のマネジメント」のポイントをそれぞれ紹介いたします。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年4月7日)のものです。

著者プロフィール

坂本 雅明
坂本 雅明

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長/首都大学東京大学院ビジネススクール非常勤講師

1992年NEC に入社。コンサルティングファームを経て、2006年より当社入社。戦略策定・実行プロセスの研究および戦略策定研修を担当。一部上場企業の顧問として中計策定や新事業開発、関連会社の再建支援にも携わる。上智大学卒業、一橋大学大学院修士課程修了(MBA)、東京工業大学大学院博士後期課程修了(博士(技術経営))。一橋大学イノベーション研究センター研究員(05~06)。首都大学東京ビジネススクール非常勤講師(12~)

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