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【Bizコンパス 連載2】 なぜ戦略は実行されないのか(3回シリーズ) ~どうすれば、組織の足並みを揃えることができるのか~

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 坂本雅明

戦略を実行するためには、メンバーの方向付けが必要である。やるべきことが伝わっていないわけではない。問題は、やらない決断、やめる決断ができていないことにある。

なぜ戦略は実行されないのか。どうすれば実行できるのか。この3回のシリーズでは、トップの方針と現場のメンバーをつなぐミドル層に焦点を当て、独自データを使って考えます。

今回は連載第2回目になります。第1回目では、次のようなことをお伝えしました。

戦略を実行するためには、ミドルマネジャーのマネジメントには2つの側面が必要です。ひとつは「戦略のマネジメント」であり、簡単に言えばメンバーに方 向を示す機能です。上位戦略を受けて部門戦略を立て、実施状況をモニタリングし、期末にレビューするというものです。そしてもうひとつは「人・組織のマネ ジメント」であり、メンバーを前進させる機能です。メンバーを支援したり動機づけたり、あるいは動きやすい環境を整えるなどが具体的なマネジメントです。

「戦略のマネジメント」だけだと、メンバーは向かうべき方向は分かってくれますが、もうひと頑張りしようと思ってくれません。反対に「人・組織のマネジ メント」だけだと、どのメンバーも精いっぱい頑張りますが、ベクトルが揃っていないので、個々人の努力が組織全体のパワーになりません。当たり前のことで すが、戦略実行マネジメントにはこの両方の側面が必要なのです(図1)。

図1 2つの側面と成果の関係

連載第2回目では、「戦略のマネジメント」について説明します。総花的に説明してもあまり価値はないでしょう。ここでは、いまミドルマネジャーが直面している課題に関連して、1つだけ説明いたします。

■ 部門戦略策定時のミドルの悩みは…
ミドルマネジャーは、部門戦略を策定するときに、どんなことに悩んでいるのでしょうか。このことを調べるために、84人のミドルマネジャーに対する定性調査を実施しました。(調査結果は、『人材開発白書2012』にまとめられています。)
この84人は普通のミドルではありません。協力企業27社の人事担当者にお願いして、各社で優秀なミドルを推薦していただきました。これは、本人の能力・スキル不足による要因を排除したかったからです。

さて、調査で得られた定性コメントをKJ法の要領で整理し、回答件数が多い順に並べたものが、図2です。優秀なミドルであっても色々なことに悩んでいま す。上位に挙がっている「①人員が不足していたこと」や「②メンバーの能力が不足していたこと」から考えると、部門戦略の策定段階では、特にリソース不足 に悩んでいることが読みとれます。上位組織から壮大な戦略が下りてくる。しかし、後ろを向くと、人も足りない、能力も足りない。どうすればいいんだ、と悩 んでいるのです。

図1 部門戦略策定時のミドルの悩み

■ リソース不足の中でミドルがすべきことは「止める決断、やらない決断」
リソース不足の中では、ミドルマネジャーは何をすべきなのでしょうか。結論を先に申し上げますと、“止める決断”をすることです。そう考える理由を説明いたします。

図3をご覧ください。これは、戦略の実行を阻害する要因に関して自由回答方式の調査をした結果です。サンプル数がやや少ないのですが、他の類似の調査でも同じ結果になっています。視覚的に一番わかりやすので、この図を使いました。

この調査では、ミドルマネジャーとメンバーの両方に質問しました。ミドルマネジャーには「なぜメンバーに戦略を実行させることができなかったのか」と聞 きました。その回答割合が縦軸です。そしてメンバーには「あなたはなぜ戦略が実行できなかったのか」と聞きました。回答割合は横軸です。

余談になりますが、いくつかの選択肢から選ぶ選択式の調査と違って、自由回答調査では極めて多岐な回答が挙がります。そのため、回答割合が10%を越えたら多い方だと考えられます。

図3 略実行の阻害要因

ミドルマネジャー、メンバーとも回答が多かったのが、右上の「過去の施策を見直さずに、新たな施策が追加される」です。メンバーはこう言っていました。

「戦略は昨年も一昨年もおりてきました。そして今年も。過去の施策はそのままです。新しい施策だけが単純にのっかっただけです。だからもうアップアップになって、できません。」

本来であれば、効果がないものは止めなければなりません。そうしてメンバーの時間を確保した上で、新しい戦略を展開しなければ、本当にやって欲しいこと に時間を使ってもらえなくなってしまいます。リソース不足の中で組織メンバーのベクトルを揃えるためには、やるべきことを伝えることよりも、“止めるこ と”、“やらないこと”を伝えることの方が重要な課題なのです。

もちろん、ミドルマネジャーだけの責任ではありません。このような話を事業部長クラスの方々に説明すると、多くの人は反省の弁を語られていました。「ミ ドルにその決断を任せるのは少し酷だ、自分の段階でもっと取捨選択しなければならなかった」と。ただし、そうであっても、ミドルマネジャーに責任がないわ けではありません。現場の状況を理解しているのは、事業部長ではなくミドルマネジャーです。ミドルマネジャーでなければ適切な決断ができないこともたくさ んあります。

やることを決断するよりも、“止める決断”や“やらない決断”の方がはるかに勇気が必要です。なぜならば、その決断自体で上から評価されることはほとんどありませんが、その決断によって何か問題が生じた場合は、判断ミスや怠慢だと指摘されます。

とはいうものの、決断の先送りが戦略実行を阻害してしまうことは間違いのないことです。そして、決断の先送りによって不遇を被るのはメンバーです。ミドルマネジャーは、この難局から逃げてはいけません。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年4月23日)のものです。

著者プロフィール

坂本 雅明
坂本 雅明

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長/首都大学東京大学院ビジネススクール非常勤講師

1992年NEC に入社。コンサルティングファームを経て、2006年より当社入社。戦略策定・実行プロセスの研究および戦略策定研修を担当。一部上場企業の顧問として中計策定や新事業開発、関連会社の再建支援にも携わる。上智大学卒業、一橋大学大学院修士課程修了(MBA)、東京工業大学大学院博士後期課程修了(博士(技術経営))。一橋大学イノベーション研究センター研究員(05~06)。首都大学東京ビジネススクール非常勤講師(12~)

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