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14年版「戦略実行力」 —周囲を動かすミドルの影響力—

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戦略を策定するだけでは業績の改善にはつながらない。実行してはじめてその果実を手にすることができる。どうすれば戦略を実行できるのか。富士ゼロックス総合教育研究所ではトップと現場をつなぐミドルマネジャーに焦点を絞り、4年間に渡る調査研究を進めてきた。
これまでの調査で浮かび上がったキーワードは、「周囲の巻き込み」である。組織の専門分化が進む中でものごとを進めるためには、組織の垣根を越えた連携が ますます重要になってくる。そこで今回の調査では、国内企業のビジネスパーソン1,500人への定量調査を通じて、部下、横の組織、上司それぞれを動かすための影響力の発揮方法を分析し、4つの提言としてまとめた。

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要約

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マネジメントを発明したといわれているP.ドラッカーは、このように述べている。

「長期にわたって有能だった人が、なぜ急に凡人になってしまうのか。彼らは新しい任務についても、前の任務で成功したこと、昇進をもたらしてくれたことをやり続ける。彼ら自身が無能になったからではなく、間違った仕事のやり方をしているからだ。」

節目の前に獲得した能力は、節目の後での成功を保証するわけではないのである。それでは、“間違った仕事のやり方”とは、特にミドルマネジャーを考えた場は何なのだろうか。GEなどの大企業でリーダー育成を支援するR. チャランの言葉から読みとることができる。

「一般社員は、与えられた仕事を所定の時間内に、目的に沿った方法で実施することが求められる。マネジメント層への転換点では、自分の仕事を『する』から、他人にうまく仕事を『させる』に変わる必要がある。」
他者を通じて仕事をするのが、ミドルマネジャーである。そのためには、他者に対して影響力を発揮できなければならない。本稿では、ミドルマネジャーの影響 力を考える。この影響力は、特に戦略の実行場面で不可欠な要素となる。その理由を、過去の調査研究にさかのぼって説明する。

これまでの調査研究

戦略を策定しただけでは業績は改善しない。実行して初めて、その果実を得ることができる。しかし、中期経営計画や次年度方針の策定という一大イベン トの終了後には、「では、これまでの業務に戻ろう」と言わんばかりに計画書がキャビネットの奥深くにしまわれてしまうことは少なくない。あるいは取り組ん だとしても、いつの間にか、今まで通りのやり方に戻ってしまうこともあろう。
そもそも戦略というものは、策定よりも実行の方により多くの時間が費やされ、また様々な困難に直面する。しかしながら、戦略自体への関心の高さに比べる と、実行への関心は低いと言わざるを得ない。こうしたことから、4年間に渡って「戦略実行力」をテーマに、トップと現場をつなぐミドルマネジャーに焦点を 当てて調査研究を進めてきた。

戦略を実行させる2つのアプローチ—背中を押し、そして足かせをはずす

当初2年間の調査からは2つの示唆が得られた。1つは、戦略を納得させることの重要性である。メンバーが戦略を実行しない理由は戦略が伝わっていな いからではない。実際、多くのメンバーは所属組織の戦略を理解している。それにもかかわらず、一歩も前に踏み出さない、あるいは最後までやり切らない。分 析の結果、最後までやり切らせるためには、納得させることが大切だということが分かった。
しかし、いくら戦略に納得したとしても、前に進めないことがある。その原因は、実行を阻害する足かせの存在である。一方で背中を押し、他方で足かせをはずす必要がある。これが2つ目の示唆である。

組織間連携の不備が、実行を妨げる

それでは、具体的にはどのような足かせがあるのだろうか。結論を先に述べると、その1つが組織間連携の不備である。
メンバーおよび部課長に対して戦略実行の阻害要因を調査したところ、メンバーの回答が最も多かったものは、「協力不可欠な他部門・他社との調整の欠如」で あった。自分だけ、あるいは自分の組織だけでは戦略を実行することはできない。他組織との連携が欠かせない。その連携が欠如しているために身動きが取れな くなっていると、多くのメンバーが感じているのである。ところが、そのことに気づいているミドルマネジャーはほとんどいなかった。
この調査結果を補完するために、事業トップに対する半構造的インタビュー調査を実施した。戦略実行の問題点を尋ねたところ、多くの事業トップは「部門間の 意思疎通、協力体制の欠如」を挙げた。それに加えて、ミドルマネジャーのフットワークが重くなったという意見も聞かれた。部下への戦略展開は問題ないの に、横の組織や他事業部、パートナー企業との調整には消極的になってしまう。周りの組織を巻き込まずに、自分の部門だけでなんとかしようとする。ちょっと 話せば済むことなのに、なかなか話しに行かない。このような声が聞かれた。

周囲を巻き込むことこそがミドルマネジャーの仕事

ミドルマネジャーが巻き込むべき相手は横の組織だけでない。上司にも働きかけるべきである。
ミシガン大学の心理学者ドナルド・ペルツが発見した“ペルツ効果”というものがある。普通に考えれば、マネジャーの支援が増えるほど部下の職務満足度も高 まる。しかしペルツは、ある条件のもとでは職務満足度が下がってしまう現象を発見した。この2つを分ける条件とは、ミドルマネジャーの上方影響力だとい う。部下が、あるいは部門で何かに取り組もうとした場合には、さらにその上の組織長の承認や予算措置が必要な場合がある。ミドルマネジャーがその上の上司 を説得できなければ、部下の不満が一層高まってしまうのである。
つまり、部下だけをマネジメントすればいいというわけでもなければ、横の組織を巻き込めばいいというわけでもない。ミドルマネジャーは、組織のあらゆる方向に影響力を発揮しなければならないのである。

ミドルマネジャーの影響力の源泉は(今回の調査研究)

こうした背景から、「周囲を動かすミドルの影響力」をテーマに、調査研究に至った。 定量調査と事例調査を実施した。まず、主任クラス、課長クラス、部長クラス各515人、合計1,545人に対する定量調査を実施し、上司・部下・横の組織 それぞれを動かすための潜在的な力や行為を抽出した。さらには、それらがどのようなメカニズムで相手の行動につながるのかを分析した。

提言

他者に影響を与え、他者を動かす方法は、実に様々ある。基本的には自分の持ち味と相手のタイプを勘案して選択すべきであろう。
しかし、より確実な効果を望むのであれば、押さえておくべきポイントがある。しかもそのポイントは、部下、横の組織、上司それぞれに対して、同じではない。調査結果に基づく提言を以下に示す。

提言1:部下を動かすために、日頃から周囲に対して献身的な行動をとり、また部下に対する強い関心を持つ

ミドルマネジャーは部下を通じて仕事をする。同時に部下を育成する責任を持つ。そのため、単に仕事をさせるだけでなく、難しいことにチャレンジさせることも試みなければならない。こうした期待に応えるためには、どうすればよいのか。

まず思い浮かぶ方法は、マネジャーとしての権限を行使することであろう。調査結果からも、権限を使って説得することの効果が見られた。しかし、同時に分かったことは、権限を行使し過ぎると負のインパクトをもたらすということだ。権限は万能ではないのである。
効果が見られたもう1つの方法は、部下の主観に訴えることである。具体的には、依頼内容に共感させることや、依頼者を支援したいと思わせることである。し かし、誰もができるわけではない。そうしたことができているミドルマネジャーの特徴を分析したところ、普段から様々な人に献身的な行動をとっていた。つま り、依頼内容や依頼方法よりも、依頼者がそれまでどう過ごしてきたかが影響するのである。

しかしながら、献身的行動も限界がある。難しいことにチャレンジさせる場合には、その効果は確認できなかった。難易度が高ければはじめからやる気を 失ってしまうこともある。そうした中で、前向きに取り組ませることができているミドルマネジャーの特徴を分析したところ、部下への依頼に際して様々な角度 から深く考えていた。
部下に関心を持ち、部下のことを真剣に考えることが、部下の共感を誘うのである。

提言2:横の組織に協力してもらうために、問題意識を共にする仲間を増やし、また利害対立を超える知恵を出す

上司・部下という縦の関係に比べて、横の関係では利害が対立する場合が多い。機能や役割が異なれば、優先事項も異なる。横の組織への協力依頼の難しさは、ここにある。どうすれば、横の組織を巻き込むことができるのか。

部下に対してと同様に、横の組織に対しても相手の主観に訴えることによる一定の効果は見られた。相手もマネジャーであることから客観性や合理性で判 断すると予測したが、そうとは限らなかった。同じ境遇に身を置く相手も多く、部門にとらわれない本来的な取り組みに共感したり、応援したくなるようであ る。同じような問題意識を持つ仲間を増やしていくことは有効な手立てになるだろう。

ところが、問題意識を共にする相手ばかりではない。とりわけ、利害が一致しない状況ではいくら相手の主観に訴えても、効果があるとはいえなかった。 そのような難しい状況でも相手に受け入れられているミドルマネジャーの特徴を分析したところ、自分の依頼を押し通そうとはせず、相手にとってもメリットの ある連携スキームに仕立て上げていた。
もちろん、コンフリクト状況の中でWin-Winの解決策を考えることは非常に難しい。しかし、コンフリクト自体は悪ではなく、対応次第で建設的にも破壊 的にもなるものである。また、トレードオフを解消するような画期的な方法を考えようとする機会は、コンフリクト状況こそが与えてくれる。ミドルマネジャー はこの難しい状況から逃げずに、知恵を絞り出さなければならない。

提言3:上司に提言を受け入れてもらうために、会社目線で意見交換を繰り返す

確固たる根拠があれば、そしてそれがミドルマネジャーの決裁権限の範囲に収まっていれば、上司の判断を仰ぐことはない。不確実要素が残っているもの や、投資リスクを抱えるものが上司にあげられる。つまり、確固たる根拠を示せない中でも、何とかして上司から望ましい判断を引き出さなければならないの が、ミドルマネジャーである。どうすればそれができるのか。

上司の判断基準は非常に明快であった。会社にとって必要なことなのかどうかが、ほぼ全てであった。部下や横の組織とは異なり、上司に対しては主観に訴えることは得策ではない。客観性や合理性が重要なのである。

恐らくほとんどのミドルマネジャーはそのことを実感しているだろう。事実、多くのミドルマネジャーは、事前に周到な分析をして、論理的に説明するこ とを意識している傾向があった。しかし、ミドルマネジャーは誤解しているところがある。上司から望ましい判断を引き出している人は、少し異なる方法を用い ていた。上司と双方向の意見交換を繰り返していたのである。
不確実な問題であればあるほど、上司としても一度の説明で全てを理解し、決断することは難しい。また、上になるほど説得されることを嫌うようになると言う 人もいる。一方のミドルマネジャーも、会社の立場から考えようにも必ずどこかに見落としがある。上司に正しい理解をしてもらうためにも、またより良い提言 にするためにも、何回かの意見交換を経ることが大切なのである。

提言4:マネジャーとして飛躍するために、意図的に外向きのマネジメントを経験する

部下のマネジメントが得意であっても、周囲への働きかけとなると苦労するミドルマネジャーもいる。定量調査結果によれば、メンバーや上司はミドルマネジャーによる周辺組織との連携が不十分だと考えていた。
ところが、ミドルマネジャー自身はできていると認識していた。その後の定性調査で浮かび上がったこの認識ギャップの要因は、ミドルマネジャーは従来からの 相手と問題なく連携していることを良しとしているのに対し、メンバーや上司は、新たなことに取り組むに当たって必要な、新たな相手の巻き込みが不足してい ると考えていたことだった。

ミドルマネジャーのマネジメント能力向上は線形でなされるわけではない。メンバーからマネジャーに変わる節目で断絶があったように、部下のマネジメ ントから周囲への働きかけに転換する際にも断絶がある。部下のマネジメントで必要なことは部下の理解である。これは、自分が部下だった経験も役立つだろ う。しかし、横の組織に対しては相手の立場や利害を理解する必要があり、上司に対しては、全社視点が必要になる。経験したことのない職種や職位の視座、視 点で考えることは容易ではない。

閉塞状況を打破するためには新しい相手と組まなければならない。しかし、部下のマネジメントをどんなに追究しても、周囲のマネジメント能力が高まる わけではない。ミドルマネジャーとして飛躍するためには、職場の外側に目を向け、自ら機会を見つけて経験を積むことが求められる。

おわりに

長きに渡る業績低迷の中で、業務の効率化を目的とした機能の細分化、専門分化が進んでいった。このこと自体を否定するつもりはない。しかし、組織と は1人ではできないことを成し遂げるために集まった集団である。細分化、専門分化の一方で、連携が不可欠であることは、改めて説明するまでもない。
ミドルを軸とした組織間連携による企業競争力の向上に、本報告書が僅かでも寄与することができれば望外の幸せである。

2014年2月

坂本 雅明
富士ゼロックス総合教育研究所
研究室 室長

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株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所
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著者プロフィール

坂本 雅明
坂本 雅明

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長/首都大学東京大学院ビジネススクール非常勤講師

1992年NEC に入社。コンサルティングファームを経て、2006年より当社入社。戦略策定・実行プロセスの研究および戦略策定研修を担当。一部上場企業の顧問として中計策定や新事業開発、関連会社の再建支援にも携わる。上智大学卒業、一橋大学大学院修士課程修了(MBA)、東京工業大学大学院博士後期課程修了(博士(技術経営))。一橋大学イノベーション研究センター研究員(05~06)。首都大学東京ビジネススクール非常勤講師(12~)

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