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『人材開発白書2009』発刊記念シンポジウム 他者との“かかわり”が個人を成長させる

2008年12月11日(木)東京ステーションコンファレンスにおける[『人材開発白書2009』発刊記念イベント]概要

基調講演
“かかわり”で育つ人間力
富士ゼロックス株式会社 相談役最高顧問
株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所 取締役会長
小林陽太郎

人間は個々に努力をして能力やスキル、人間力を開発します。しかし、個人を超えた人間同士の“かかわり”があり、それがいろいろな形で個人やグループの 成長を助けるものです。私は富士ゼロックス創始者の一人、ジョセフ・ウィルソン氏やソニーの盛田昭夫氏、経済同友会の代表幹事を務められた木川田一隆氏、 昭和電工の鈴木治雄氏に大きな影響を受けました。
この方々はそれぞれに非常に高い志を持っておられ、人間的魅力に富んだ方々でした。共通しているのは、謙虚で寛容、オープンであり、これらは組織そのも ののカルチャーを創っていく上で非常に重要な要素だと思います。こうした方々から、私は非常に多くのことを学ばせていただきました。この方々に出会わなけ れば、今まったく違った小林陽太郎が存在しているのだろうと思います。
現在、ダイバーシティ(多様性)が非常に重要になっています。ダイバーシティはいわば、新しい知恵が埋もれた宝の山だと思います。多様なものを認め、違 いの中から生まれるものを生かすことによって、そこから予想外のバイタリティや知恵、創造が出てくるかもしれません。他者とのかかわりは今後ますます重要 になってくると思います。
「失われた10年」で、組織の中から良質な人間関係が失われてしまいました。“かかわり”には大きなポテンシャルがあるということに我々はあらためて目を 向け、人間同士として向き合うことによって、お互いに良さを引き出していくことが大切なのだろうと思います。今、急激に景気が悪化している時期であるから こそ、今回の白書はさまざまなメッセージを含んでいると私は思います。

調査報告
他者との“かかわり”が個人を成長させる
株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所 研究開発統括部 研究室長
坂本雅明

最近、職場の人間関係が希薄になっているとよく耳にします。我々はそれが社員の成長を阻害してしまうのではないか、という問題意識を持ち、他者との“かかわり”をテーマに調査に取り組みました。
“かかわり”から得ているものは、大きく業務支援・内省支援・精神的支援に分かれます。これらを得るために誰との“かかわり”を大切にするか聞いたとこ ろ、圧倒的に多かったのは同じ職場の人でした。人材開発にとって職場は1つの大切な単位であるといえるでしょう。では、その職場で何をすればよいのか。若 手・中堅社員にとって成長感は非常に大切であり、調査の結果、業務能力の向上・視野の拡大・タフネスの向上という成長感には、内省支援が影響していること がわかりました。“かかわり”を通じ、業務支援だけでなく自分自身を振り返る機会を提供することが大切なのだといえます。
また、“かかわり”を通じて自分が何かをしてあげ、相手も自分に何かをしてくれるという「互酬」関係のある組織において、若手・中堅社員は業務支援や内 省支援などを多く得ており、それが成長感につながることもわかりました。一人ひとりの将来について話し合っている職場では、内省支援を通じてより成長でき るということも特徴的です。
ただし、上司など職場内での“かかわり”だけでは成長の壁にぶつかります。その時に良い示唆を与えてくれるのは、他の職場の上司や社外の人である可能性 が高いと考えられます。軸足は職場に残したまま、他の職場や社外との“かかわり”づくりを後押しすることも大切になるでしょう。

調査報告を受けて
経営組織論の視点から組織学習における意義を考える
小樽商科大学ビジネススクール 教授 松尾睦氏

投資銀行の花形アナリストは転職すると業績が低下する、という調査があります。典型的な一匹狼型のような人でも、実は組織、他人から支えられている部分 が大きいのです。私は経験を通じた学習をテーマに研究していますが、経験から学べる人というのは常にストレッチをしていて、他者からのフィードバックを積 極的に求めるという特徴があります。今回の調査は、このフィードバックの部分に多く関係しているのだと思います。
経営学では「発達的ネットワーク」という概念があり、成長する人はネットワークを持っていることがわかっています。人との関係は広く深いほうが良いので すが、調査で職場と社外との関係を見ると、これとよく似たパターンがあります。職場に基盤があり、外に出て外部の目で自分を振り返り、外部で得たものを職 場に持ち帰る、こうした統合的な人が“かかわり”から学んでいるといえるでしょう。その機会を与えてあげることが若手の成長を促すのではないかと考えま す。

教育学の視点から人材開発における意義を考える
東京大学大学総合教育研究センター 准教授
中原淳氏

成長の現場でマネジャーがすべきことは4つあります。まず、適切なストレッチを与える1.経験のデザイン、次に2.フィードバックのデザインです。 フィードバックを与える適切なタイミングを教育学では「教育的瞬間」といいますが、これを見抜いて内省を促すことが求められます。また、失敗しても大丈夫 だという心理的安全を確保する3.雰囲気のデザイン、異なる支援を提供する人のつながり、場をいかにつくり、解除するかという4.関係のデザインも必要で す。これは「ノット(結び目)ワーキング」と呼び、必要な時に結び目をつくり、不要になったら解除することが重要となります。
社外で学ぶ「越境経験学習」の研究はまだ始まったばかりなのですが、社外の自主勉強会(コミュニティ)に参加する人は、いろいろな人に出会うことによっ て自社の常識を相対化し、自分のキャリアを確立できる傾向がある、ということが定量調査でわかっています。最近の研究によると、そのコミュニティは明確な アウトプットを求めない「ゆるコミュ」のほうがよいとされています。新しいものの考え方、プチイノベーションは社外の学習から生まれるのかもしれません。 今後は社内と社外、この2つを還流させるような「大人の学びのデザイン」を考えていく必要があるかと思います。

事例紹介
他者とのかかわりで成長させる事例
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 事業企画本部 能力開発部 統括部長
早川勝夫氏

弊社はドイツの製薬企業の日本法人です。私どもは2004年から07年まで、現場の学びを促進しながらMR(医薬情報担当者)の生産性を向上させる、と いう取り組みを行ってきました。生産性はMR1人当たりの売上高ととらえて、これをゴールとし、その手前に行動ベースでKPI(重要業績指標)を6つ設定 しました。

図 ワークプレースラーニングの全体像(模式図) ワークプレースラーニングの全体像(模式図)

左側はマネジャー(略称FLM)がすべきことで、ハイパフォーマーの行動を3つだけに絞り、簡単なものから1つずつ順番にできるよう、マネジャーはコー チングを行います。ここでのポイントは、上司が業務に直結するような学習機会を与えること、上司が良い振り返り(省察)を与えること、そして弊社では2人 1組のチーム制でMRが行動しますので、チームメンバーとのコミュニケーションを保つことです。右側はマネジャーの上司に当たる支店長がすべきことで、マ ネジャーが行うコーチングのパフォーマンスをコーチングする、という形になっています。
基本的に、我々は上司がMRのパフォーマンスを変えていく仕組みを提供してきたのですが、07年度のMRアンケートで誰に学んでいるか?と質問すると、 54%が先輩と答え、これだけマネジャーが一生懸命取り組んだのにもかかわらず、マネジャーとの回答は33%でした。マネジャーのコーチング以外に、まだ 手を打つべき要素があるというのが我々の今後の課題です。

かかわりとその質(クオリティ)について思うこと
株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所
プリンシパルコンサルタント
出馬幹也

図 かかわり先の捉え方
かかわり先の捉え方

私はある総合電機メーカーで、R&D部門のリーダー育成に携わってきました。そこでは図のフレームワークを使い、「あなたがインプットをもらう 相手は誰か」「上司や後輩とどうかかわっているか」といったことを現実に即して描いてもらいました。そこで見えてきたのは、勝手な思い込みで仕事をしてい た、周囲に対する不満ばかり言っていたなど、自己中心的であったことへの気づきです。つまり、この研修で、仕事とは周りの人と支え合い、助け合って進める ものなのだ、ということを再確認していただいたのです。
弁証法的考え方では正反合といいますが、自分の主張を投げつけるだけでなく、相手の中にある自分と同じところ、違うところを丸ごと受け止めた上で、新た な何かを見つけ出そうとする努力こそが、かかわりの質を高めるのだと思います。その際、大きな影響力を持つのは職場リーダーです。人材育成担当者の方が リーダーの適切な育成・配置をすることによって、価値を創造する人材や職場、組織を実現できるのではないかと考えます。

パネルディスカッション



坂本:早川さんに質問です。どんな時にコーチング、フィードバックをすればよいか、中原先生のおっしゃる教育的瞬間について、どうお考えでしょうか?
早川:タイミングとしては、マネジャーがMRに同行して1日終わった段階なのですが、口頭で言ってもなかなか伝わりませんね。そこで、ハイパフォーマーの 履歴が書かれているコーチング・チェックリストのようなものを、ビジュアル的に見せてあげるようにしています。このようなコミュニケーション・ツールを提 供するのが、我々の仕事だと思っています。

坂本:出馬さん、自己中心から自他共創へと変わるに当たって、周りの人たちはどのようなサポート、アドバイスをすればよいのでしょうか?
出馬:組織は人と人とのつながり、関係性で成り立っているということを職場リーダーの方々が理解していないと、非常に偏りのあるアドバイスしかできませ ん。上司であれば、図2のように人材が真ん中にいて自分が上にいる、その他、後輩やお客さまの組織、前・後工程があり、その中で人材はどこにかかわりを持 つべきなのか、関係性の図式の中でリーダーが見て観察するということが、かかわりを深める上での大前提として必要なのだろうと思いますね。そうした常識を 広めるべきでしょう。
中原:ベーリンガーさんが成功している秘訣は、研修と現場の学習を連動させていることや、上司を人材育成のステークホルダーにした、私の言葉でいえば『身 内化』してしまったことですね。営業活動やOJTの実施状況をITによって『見える化』した仕組みがあることもポイントでしょう。それをデータ、証拠とし て、上司と部下の対話や振り返りが行われています。こうしたデータがないと、新春大放談や根拠のない説教大会になりやすく、それを防止する仕組みがあった のだと思いますね。それでも、アンケート調査で誰から学んだかと聞くと先輩と答えてしまう、これは印象的でした。やはり、マネジャーに担い切れないことが たくさんあるわけです。白書でも出ていますが、誰か一人が教育するのではなく、業務の中で助け合う機会を提供していることが効果的だったのだと思います。 学びというのはイン シチュエーション、状況の中で起こるのであって、その瞬間を見逃さず、適切なフィードバックや対応をすることが重要なのだと、教育学 的には思います。
松尾:マネジメント・コントロールには成果管理とプロセス管理の2つがあり、特に営業部門ではプロセス管理をいかに進めるかがポイントとなります。しか し、概念はわかっていても、仕組みがなかなかうまくいかない。ベーリンガーさんでは業績につながる行動指標を評価に入れているところが大きいと思います。 それと、とても大切だと思うのは、MRを育成する上司、マネジャーをサポートしていることですね。本社がしっかり上司をサポートして初めて現場が動ける。 アンケートの結果も、上司が一生懸命やっているのを見て、育成することも仕事なのだと思い、だんだん先輩が教えるようになったのでしょう。3、4年でここ まで風土ができるというのは、すごいことだと思います。
坂本:若手・中堅社員の育成にはまだ難しい面があり、今回の調査ですべてわかったというわけではありません。これからも引き続き、皆さま方とさらに研究を深めていければと思います。

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