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『人材開発白書2010』発刊記念シンポジウム「他者との“かかわり”が個人を成長させる」(事例研究編)

2009年12月10日(木)東京ステーションコンファレンス『人材開発白書2010』発刊記念イベント概要

昨年、当社は「人材開発白書2009―他者との“かかわり”が個人を成長させる」を発刊いたしました。(要点をまとめた雑誌掲載論文はこちら)
今年は昨年の調査にご協力いただいた37社のうち、特に若手・中堅社員の成長感が高いパナソニックとカネボウ化粧品について事例研究を行いました。

他者との“かかわり”が若手・中堅社員の成長にどう影響するのか、本シンポジウムでは2社の事例をご紹介し、経営組織論と教育学の視点からの考察をふまえた上で、参加者の方々同士で簡単なディスカッションを行っていただきました。


事例報告1 パナソニック株式会社

株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所 研究室 室長  坂本 雅明

対象部門は、電子部品や電子デバイスを販売するデバイス営業本部の国内総括部です。同部門には総合電機メーカーなど顧客別の営業グループ、その中にPCや携帯など事業別の担当チームがあります。

■国内総括部の取り組み
※部署名・人名はすべて仮名です。
合併や買収、従来の製品分野が融合するなど、顧客が変化する中、パナソニックさんでは顧客・事業別の組織体制が弊害になり、メンバー間で学び合う機会が減少していることが問題となっていました。
水島総括部長は、各社を担当する営業グループのグループマネジャー(GM)全員で問題意識の共有を図ろうとしました。水島総括部長は若く、通常であれば足 を引っ張る人がいてもおかしくはありません。しかし、同社では水島氏の就任前、河口GMを中心にGM全員でルールを1つ決めました。それは、「文句があれ ば陰で言わず、水島総括部長に直接言う」というものです。
その上で、まず一人ひとりがお互いを知る土壌づくりをしました。「私の目標」を全員で共有し、声をかけやすくするとともに、組織の枠を越えて協力すべき人 を意図的に選び、仕事抜きで雑談する「組織横断の懇談会」を開きました。また、考える場として「開発営業(注:一般的には提案営業)ワークショップ」を開 催し、開発営業とは何かを対話を通じて理解を深め、「語らないともったいないワークショップ」では、ベテラン社員が自分の経験談とともに、経験から学んだ 教訓について話し合いました。

■営業グループの取り組み
お客さまの製品が融合している中、顧客業界別に編成されたチームを超えて協力しなければ、お客さまに満足いただける提案ができなくなってきました。チーム リーダーに対し、河口GMはほかのチームの人の知見を併せ考えなければ答えられないような問いかけを繰り返し、他チームと協力する必要性に気づかせまし た。その上で、全チーム、全メンバーを対象に、お客さまの事業枠や製品枠を取り払った提案を検討する場を設けました。

■上司のマネジメント
営業グループ内のX業界チームの山下チームリーダー(TL)は、部下の吉田さんを育成するために、従来の「黙って見て、盗め」という指導スタイルから、 「仕事を任せて、一緒に振り返る」スタイルへと転換しました。吉田さんが遭遇したトラブル時に、あえて自分は前面に出ず、徹底的な後方支援に回ったので す。吉田さんは2か月かけてトラブルを収拾しましたが、それで何を学んだか、実際に理解したのはその約10か月後です。「一歩踏み出した事例発表」に向け た発表準備を通じて、ようやく経験から教訓を紡ぎだすことができたのです。さらに、山下TLは事例発表自体を振り返るように命じました。その結果、吉田さ んは開発営業ワークショップをはじめ、さまざまなワークショップや活動が単なる情報伝達や共有の場ではなく、自分自身を振り返る場だと気づき、水島総括部 長や河口GMの取り組みを真に理解して劇的に成長しました。


経営組織論の視点からの考察

神戸大学大学院経営学研究科 教授  松尾 睦氏

(1)職場で学び合う機会が少なくなってきた、(2)垣根を超えた協力体制が必要になっている、(3)若手・中堅社員の営業力が衰えてきた、皆さんの職場 でこの3つうちの1つでも当てはまるという方は非常に多いと思います。この事例では、職場において対話を促進することと、若手・中堅社員をいかに育てる か、という問題がありました。
本音の対話を促進するために、水島総括部長と河口GMによる「連携型のリーダーシップ」が見られたと思います。水島総括部長の就任前に河口GMが対話の下地をつくり、率先して活動した、そうした協力者がいたからこそ、水島総括部長の変革型リーダーの取り組みが成功したのです。
また、若手・中堅社員をいかに育てるか、ここでは経験学習がポイントです。経験学習とは、具体的な経験をし、それを振り返り、教訓を引き出して、次に活か す、というサイクルを回すことです。山下TLは「仕事を任せて、一緒に振り返る」ことで、このサイクルを確実に回しています。皆さんも、この連携型リー ダーシップと経験学習という2つの観点からお考えいただいたらどうでしょうか。


教育学の視点からの考察

東京大学大学総合教育研究センター 准教授 中原 淳氏

この事例の変革を、住宅にたとえて考えてみましょう。まず、基礎となる部分が連携型リーダーシップとパラダイムチェンジです。その上に成り立つ1階部分で は職場風土を変えるため、「私の目標」を共有する場を設け、組織横断の懇談会を行い、他者とのつながりをさりげなく実現しています。また、拡大ミーティン グとして、意思決定にTLも参加させ、権限を委譲しました。パフォーマンスを出す時には、やはり対話や人のつながりが間接的に効いてきます。
基礎と1階の上に積み上げられた2階部分では、ワークショップで腹に落とす、というのが特徴的です。開発営業とは何か、一人ひとりが持っている定義やイ メージをもとに、腹に落ちるまですり合わせて職場で目指していく、これはリスクのある手法ですが、行動を変えるという意味では非常に有効だと思います。また、「語らないともったいないワークショップ」で語られた失敗経験は、日々の必要なナレッジやスキルを共有することができます。ここで非常に重要なのは、 経験を語る時に経験から抽出された教訓を書いていることです。経験というのは事実であり、絶対化した事実に対して反論や吟味の可能性はありませんが、そこ から抽出された教訓であれば対話の可能性が高まります。その点が非常に上手だと思いました。


事例報告2 株式会社カネボウ化粧品

株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所 研究室 室長 坂本 雅明

カネボウさんの若手・中堅社員が持つ成長感の源泉は、互酬性(メンバーが相互に助け合っている度合い)の高さです。事例研究では、首都圏のドラッグストア でお客さまに化粧品を販売推奨する美容部員(BC)と、その仕事を支援するエリアマネジャー(AM)との“かかわり”に着目しました。
日常業務の特徴は3つ、現場で企画して実行する(1)現場主導型、AMは目的・方向性だけ示し、あとはBCの自発性に任せる(2)委任型のマネジメント、 (3)役割分担があいまいであることです。これらには、現場に依存している、あるいはBCの接客時間が短くなるなどの課題もありますが、総じてAMとBC は強い絆で結ばれていました。
2005年に産業再生機構の支援を受けたことも影響しています。小売店に納品した時点で売上が立つ仕組みのため、以前は問題もあったのですが、新生カネボ ウ化粧品としてスタート後は不正取引をなくし、店頭で売れないと納品しない仕組みにするなど、コンプライアンス改革を実施、AMの評価も店頭売上額を重視 するようにしました。これにより、本来やるべきことに集中し、業績評価は適正に、透明性が高くなるとともに、もともとあった協力・助け合いの関係の質が変 わって、お客さまのために協力するという形に変化しました。


経営組織論の視点からの考察

神戸大学大学院経営学研究科 教授  松尾 睦氏

この事例では、古き日本の良さともいえる、AMとBCの強い関係性があります。それは、奉仕型リーダーシップを伝統的に持っていたからでしょう。AMが徹 底的に奉仕してBCの働きやすい環境をつくり、会社全体も現場を重視して権限を委譲している、それが現場の関係性に影響していると思います。
ただし、無駄や売上至上主義もありました。それを変えたのが産業再生機構の変革です。店頭売上重視による在庫適正化など、よりお客さまを向いた組織体制を整えた、それが現場の関係性をさらに強化し、その質を向上させたのだと思います。
課題としては、全体最適を考慮しながら、AMの活動をより戦略型・提案型にシフトするといったことが考えられます。しかし、日本の古き良き強みは現場の強 さです。それを壊さずに効率化すると、より職場の関係性がよくなると同時に質も高くなる、ということを考えるきっかけになると思いました。


教育学の視点からの考察

東京大学大学総合教育研究センター 准教授  中原 淳氏

互酬性の高い組織は人の成長を促進する手助けを受けやすく、結果として成長実感が高い傾向があります。この事例で互酬性が高いのはなぜか、まず権限委譲に よって現場が元気になり、それを基盤に互酬性が誕生するのではないかと考えられます。また、役割分担のあいまい性があるので、他者の仕事を担ったり、他者 に担ってもらったり、といったことが蓄積されて互酬性に発展する可能性があります。さらに、交換の原理です。AMの業績はBCに左右され、BCのスケ ジュール調整はAMが担当しています。こうしたいろいろな要因が複雑に絡み合って、職場互酬性の高さにつながっているのではないかと思います。
ただし、ジレンマもあります。互酬性が高いとネットワークが緊密で根回しが必要になるため、意思決定が遅くなり、生産性が低下する恐れもあります。こうした点も考慮する必要があるでしょう。


まとめ(坂本 雅明)

バブル崩壊後、日本の総合電機メーカーでさまざまな取り組みにいち早く取り組んできたのは、間違いなくパナソニックさんです。その意味で、同社の事例は非 常に重要だと思います。また、カネボウさんはあいまい性の残る軟体動物のような不思議な組織です。その企業風土と業績について確かなことは言えませんが、このような方法で業績を高める方法もあると問題提起する意味で、非常に貴重な事例と考えています。
今回の白書ではあえて結論を述べてはいません。皆さまが社内でお考えになるための素材として、ご活用いただければ幸いです。

以上の事例研究は、『人材開発白書2010 他者との“かかわり”が個人を成長させる(事例研究編)』で詳細にまとめています。

『人材開発白書2010』 他者との“かかわり”が個人を成長させる(事例研究編)
頒価 8,000円(消費税別)

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