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『人材開発白書2011』発刊記念シンポジウム ~戦略実行力~ メンバーの戦略実行を促進するためのミドルマネジャーのマネジメントを考える

2011年1月28日(金) 講演概要

このたび当社は、『人材開発白書2011』「戦略実行力」‐メンバーの戦略実行を促進するためのミドルマネジャーのマネジメントを考える‐を発刊いたしました。この人材開発白書は、戦略実行力をテーマに約1年間をかけて行った大規模な調査研究をまとめたものです。
本シンポジウムでは、今回の調査研究の一部をご紹介し、そこから読み取れる日本企業が抱える戦略実行上の課題について問題提起をさせていただいた上で、戦 略実行に定評のあるGEの事例、および学術的な立場からの考察を、2名のゲストスピーカーに語っていただきました。そして最後に、戦略実行力強化のための マネジメントはどうあるべきか、登壇者同士でディスカッションを行いました。


「実態データからの考察と問題提起」

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 研究室 室長  坂本 雅明

■調査研究の背景
所属企業や事業体の戦略が独自的かどうかについて調査を行うと、7割以上の人が競合他社とあまり変わらないと答える結果となりました。このデータから二つ の課題が見えてきます。一つ目は戦略に独自性がなければもっと独自的な戦略をつくらなければならないこと、二つ目は他社と似たような戦略なら実行力で差を つけるしかないということです。我々の調査は、後者のスタンスに立ちます。
なぜ実行力なのか。戦略のコモディティ化(清水勝彦氏)が指摘され、戦略自体の差別化が難しくなった今、いかにして業績を上げるかを考えた場合、やはり実 行力で差をつけるべきだと考えるからです。やるべきことをやり抜くためにはどうすればいいのか――今回の調査研究は、この問いに対するヒントを得るためのものです。
対象範囲はミドルマネジャーのマネジメントに限定し、戦略についても部や課の部門戦略に絞り込みました。調査データは、メンバーの戦略実行度(理解、納 得、実行、定着の4段階で調査)およびミドルマネジャーのマネジメントの二つです。前者を成果変数、後者を要因に置いて、その関連性を分析しました。

■メンバーの戦略実行度の実態と考察
戦略理解度の調査からわかったことは、何をやるべきかという戦略自体は約7、8割の人が理解しているものの、なぜそれをやるのかという意思決定の理由があ まり理解されていないことです。この結果から、日本のミドルマネジャーが、収集した情報を深く分析せずに結論へと飛躍してしまっているか、あるいは伝える べきことがきちんと伝えられていないという伝達方法に問題が考えられます。
納得度についての調査結果からは、納得はしていないけれども自分が与えられた役割を果たそうと思っている人が多いことがわかりました。日本企業の業績は、 現場の社員の責任感や努力に支えられていることが裏付けられますが、その一方で、部門方針はどうでもいい、自分に与えられた目標だけ追いかけていればいい という人が多いという否定的な解釈もできます。
戦略の実行度と定着度の調査も行いました。注目すべき点は、戦略が示されてから1ヶ月後と6ヶ月目では、6ヶ月目の方が戦略実行度が高い、つまり戦略実行は時間とともに加速していくということです。
しかし、どんな状況でも加速するわけではありません。戦略の理解度や納得度が戦略実行に与える影響を分析すると、理解度以上に納得度の影響が強く、特に最後までやり抜かせるためには戦略を納得しているかどうかが鍵になることがわかりました。

■問題提起と解決の方向性
戦略実行における重要な問題点として、現場の努力や責任感をうまく業績に結びつけることができていない可能性があげられます。この問題を解決するために は、部門戦略に対する納得度を高め、個人の努力を部門戦略の実現に向かわせることが有効だと思われます。そのための一つの手段として、部門戦略を採用した 理由をきちんと伝えなければなりません。


「GEにおける戦略実行を支えるマネジメント・ツール」

GEグローバル・ラーニング クロトンビル・リーダーシップ・ジャパン マネジャー  田口 力 氏

戦略実行には企業文化とメカニズムが必要です。どのような企業文化が戦略実行を支え、どのようなメカニズムで遂行されていくのか、GEの事例で説明します。

■GEの企業文化と求める人材像
GEでは、どんぐりが樫の木に成長するまでそれほど時間がかかりません。やる気と能力があれば、チャレンジングな課題と成長の機会を与え、短期間でグローバルなリーダーを育成していく企業文化があります。
あるいはパフォーマンス・ドリブン・カルチャーという言い方もします。ここで言うパフォーマンスとは、ゴールに対してどれだけ達成したかという狭義のパ フォーマンス(what)と、それをどのように達成したかというプロセス(how)との二つを含みますが、こうしたパフォーマンスによって会社を走らせる のがGEのカルチャーです。
GEが求めるリーダー像は、能力を超えた目標(ストレッチ・ゴール)を達成するために影響力を行使し、変革を起こして結果を出し続ける人間です。そして社員全員がリーダーたることを求めます。

■戦略実行のメカニズム
GEの戦略実行には、カレンダーがあります。年初に全世界から700人のリーダーが集まり、その年の戦略を議論します。彼らの帰国後、各国の事業部門でそ れを地域レベル、さらに国レベルの戦略に落とし込みます。ここまでが1ヶ月で、翌月にはそれを個々人の目標に落とし込みます。戦略の進捗状況はイントラ ネット上で上司とやりとりし、上司は年間を通じてそれをフォローします。
また、4半期ごとにトップリーダー40人による戦略のレビュー(CEC=コーポレート・エグゼクティブ・カウンシル)を行います。戦略というのはミッショ ンやビジョンと異なり、環境変化に対してクイックに変えなければなりません。レビューの結果、違うなと思ったらすぐに変えます。
GEの人材マネジメントは、こうしたオペレーティング・システムを通じた戦略の実行と密接にリンクしています。特に、セッションCと呼ばれる人と組織のレ ビューが、戦略実行をマネジメントする一つのキーになっています。セッションCでは、狭義のパフォーマンス(what)と、それをどうやって達成したか (how)を50:50で評価付けし、両方期待値を上回ればロールモデルとされます。組織についてはどういう人がいるのか、その組織を動かすにはその人で いいのか、あるいはそもそもこの戦略を実行するためにその組織でいいのかを徹底的にレビューします。
また、こうした人材マネジメントを実践するために、上司に強力な権限を与えることも戦略実行を支えるメカニズムの一つとなっています。

■戦略実行のツール
GEで成功したプロジェクトには、変革のための解決策やアプローチのクオリティの高さに加えて、関係者の受け入れ度合いが強く影響しています。当たり前で すが、頭でわかっていても心で納得しなければ、人はやる気が出ません。以前、成功した変革プロジェクトと失敗した変革プロジェクトの分かれ目を調査したの ですが、解決策やアプローチ方法の違いではありませんでした。関係者に受容されているか否かが成否の分かれ目になっていました。いかにしてコミットメント を得るか、そのためのツールの一つがCAPです。CAPは7つのモジュールで成り立っており、抵抗勢力の説得だけでなく、お客さまを攻略するときにも使います。
ワークアウトというツールもあります。簡単に言えば、組織の無駄取りです。いくつかある解決策のうちコントロールしやすく、かつ効果があるものをすぐに実 行します。そのプロセスですが、上司は問題を提起したら部屋から出て行ってしまいます。チームメンバーに考えさせます。メンバーは新しいアイデアを出して ポイントを絞り込み、上司にプレゼンします。上司はそれに対して承認するかしないかを即決するだけ。重要なのは、人々の受容度を高めることです。
GEには他にも戦略実行のための重要なプロセスがあります。いずれにしても、チャレンジングな課題を与えて人を成長させながら戦略を実行し、そのパフォーマンスによって会社をドライブしていくことがカルチャーとして根付いています。


「原点回帰の戦略と実行」

慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授  清水 勝彦 氏

■戦略のコモディティ化と現場の疲弊
戦略は今やどの企業でも持っており、携帯電話と同じようにありふれたものとなっています。私はこれを「戦略のコモディティ化(日用品化)」と呼びました が、最近になって日本では本来の意味が十分に理解されないまま、「戦略」という言葉だけが氾濫しているのではないかと感じるようになりました。その理由と して、一つは多くの企業が猛烈な現場の働きに頼っていること、もう一つは技術や商品力があるのに経営が十分になされていない中小企業が山のようにあることです。
戦略においては英語の「different」が鍵になります。しかし、たとえばコスト戦略というと競争相手より少ない人数で働くことだったり、あるいは付 加価値戦略といいながら、その価値というのは少しお得感を提供することだけだったり、あまりdifferentといえないのが実情です。そして、生き残る ために会社が考える戦略というのは、結論としてもっと働こう、人を減らそうという話であり、それが現場にヘトヘト感を蔓延させる結果となっています。
戦略の不十分な理解に加え、顧客ニーズに振り回されることも、現場がヘトヘトになる原因といえるでしょう。ターゲットがわからずすべての人のニーズに応えようとして右往左往したり、競合相手のマネをしたり、そんなことを続けていたらヘトヘトになるのも当然です。

■自らの強みを知る
ヘトヘトになる本質的な原因は、自らの強みや原点を見失ってしまっているからです。自分の強みが何であるか。戦略とはそれを見極めた上で立てていくものです。そして、それはトップがわかっているだけではなく、社員自身が自分たちの口で言えなければなりません。 また、一人一人は頑張っているけれども、そうした個人の力が組織や会社の力になっていかないことも大きな問題です。背景には集団帰属の意識が希薄化したことがあげられるでしょう。
ヘトヘトから脱皮するには、自分たちのアイデンティティを明確にすることです。アイデンティティが崩れると、人は最低の力しか発揮できません。ではアイデ ンティティを明確にするためには、何が必要かというと、コミットメントを引き出すことです。これまでは動機付けというと、金銭的なもの(例:成果主義) と、非金銭的なもの(例:やりがい)の二つがありました。その前提には、きちんとした仕組みをつくれば社員はやる気になるという合理的なアプローチの思考 があります。しかし、仕組みをつくったらそれだけで人は本当に動くのでしょうか。

■人を動かす、組織を動かす
人が気持ちを変えたり、それによって行動を起こしたりするのは、理屈ではない部分があります。ましてやヘトヘトで頑張っている人たちに対して、合理的なア プローチの仕方で働きかけても動いてくれないのではないでしょうか。人がやってみよう、一歩踏み出してみようとなるのは、むしろ合理的でない判断に突き動 かされたときです。わざわざ最高級の原料を使って最高級の商品を提供する、あるいはわざわざ一番大変な交渉から手をつける。そうした「わざわざ」という部 分がないと、きれいごとだけでは経営者の思いや覚悟は伝わりません。 戦略実行において今大切なのは、自社の原点や経営の原点に帰ることだと思います。自社のアイデンティティを明確にし、強みが何かを見極めてそこに資源を集中させ、楽をしないで「わざわざ」に意味を見いだすことを提案したいと思います。


パネルディスカッション

「戦略実行力強化のためのマネジメントを考える」
パネルディスカッションでは、以下の3つのテーマについて、調査分析結果をもとにした議論が行われました。
一つ目は、メンバーの戦略実行度を高めるための個人に対する働きかけです。高すぎる目標を設定すれば戦略実行度が低下してしまうという問題があるなかで、 田口氏から、「高い目標を設定したうえで、日々のコーチングやレビューなどで目標達成を支援する」という意見が述べられました。
二つ目は、組織に対する働きかけです。これについては、自己完結型の業務や組織に対しても部門内協力や部門外協力を促すことは効果があるのかどうか、という論点で議論がなされ、田口氏から、「組織単位が小さくなった今、他部門とのコラボレーションを促進しないと仕事が進まない。コラボレーションを働きかけ ることがミドルマネジャーの重要な役割である」という意見が述べられました。 三つ目は、戦略自体のマネジメントです。これについては、期中に戦略を修正することのリスクや、重点施策を先送りすることの功罪について議論がなされ、清水氏から「錆びたノコギリで木を切り続けるよりも、一度手を休めてノコギリを研いだ方が後で上手く行く」という意見が述べられました。

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