ホーム > 調査・研究 > 人材開発白書 > リモート環境のチームにおけるリーダーシップの発揮方法 - 富士ゼロックスのバーチャル・チーム活動を対象とした実証分析 -(FXLI Discussion Paper 2018-001)

リモート環境のチームにおけるリーダーシップの発揮方法 - 富士ゼロックスのバーチャル・チーム活動を対象とした実証分析 -(FXLI Discussion Paper 2018-001)

【書影】リモート環境のチームにおけるリーダーシップの発揮方法

要旨

働き方が多様になる中で、あるいは企業の垣根を越えた協働が増える中で、リモート環境で顔を合わせることなく行われるチーム活動が増えている。 本研究は、そうした環境下でチームをリードするためのポイントを明らかにすることを目的としている。富士ゼロックスグループの次世代リーダー育成プログラムFLCP(Future Leaders Challenge Program)におけるバーチャル・チーム活動を対象とした定量分析の結果、リーダーシップを発揮する4つのポイントが示された。

全文PDF

 

1.はじめに

あなたの職場のメンバーの中に在宅勤務をしている人はいないだろうか。働き方が多様になる中で、遠隔でコミュニケーションをとりながら仕事を進めることも増えてくるだろう。あるいは、あなたが参画しているプロジェクトに、勤務エリアが異なるメンバーはいないだろうか。今後企業の垣根を越えた協働プロジェクトが増えてくると、こうした状況は当たり前になるだろう。

古くからリモートワークが導入されている米国では、異なる場所のメンバーからなるチームを、顔を合わせることなしにリードすることを意味するLeading Virtuallyという言葉が一般化し、その効果的な方法が議論されている。

日本においても、職場環境はますますリモート化が進んでいる。ただし、リモート化が進んでも大きな問題にならない場合もある。各人の仕事のアウトプットが決まっており、かつ他者との協力なしに仕事を進められる場合だ。その一方で、メンバーで協力しながらひとつのアウトプットを出すような場合は、そのチームをリードすることは容易ではない。

こうしたことから、顔を合わせることなく、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用して協働を進めるために必要なリーダーシップ発揮方法を調査した。

2.調査概要

この調査は、富士ゼロックス株式会社のFLCP(Future Leaders Challenge Program)の全面協力のもとで実施された。

FLCPは、将来の経営リーダーを育成することを目的としたプログラムであり、2018年にスタートした。グループ企業も含めた25歳から37歳の管理職になっていない社員が対象で、1月から12月までの1年にわたって様々な課題が与えられる。

このプログラムは、昨年まで5年間続いたプログラムを発展する形で企画された。様々な改善や工夫が施されたのだが、そのひとつが受講者の選定方法である。以前は論文と面接のみで選定していたが、その方法を改善し、事前にチーム活動を課して、その活動状況も加味することになった。今回の調査は、そのチーム活動を対象になされた。

FLCPのチーム活動について

このチーム活動には、応募者の64人が取り組んだ。FLCPでは受講者同士が遠隔でやり取りすることも多いため、その準備も兼ねてできるだけ所属や勤務エリアが重ならないようにチーム編成をした。
そうして組まれた、各チーム4人から成る16のチーム(バーチャル・チームと呼んでいる)が、「着目すべき社会変化と会社の未来」というテーマで、2017年11月6日から24日までの約3週間検討した。検討結果はパワーポイント3~5枚にまとめ、10分間で説明する。その後に、経営層から5分間の質問を受ける。
検討は就業時間外でなされ、チーム討議にはマイクロソフト社の遠隔コミュニケーションツールSkypeが推奨された。Skypeでは音声通信が可能だが、会社支給のPCにカメラ機能が付いていないためお互いの顔を確認することはできない。ただし、PCの画面上でパワーポイントやワードを共有することは可能である。なお、Skypeしか使ってはならないというわけではない。会社の標準ツールがSkypeだったからであり、Skype以外のツールを使っても構わないことになっている。

調査方法

調査は2回に分けて実施された(図表1)。
1回目は、予備調査である。ここでは、チーム活動でリーダーシップを発揮した人を思い出してもらい、その人の具体的な行動や発言を記入してもらった。併せて、フェイスツーフェイス(以下、F2F)のチーム活動とは異なる、バーチャル・チームならではのリーダーシップ発揮方法を記入してもらった。最終的に、64人中51人から回答をいただいた。
2回目は、本調査である。予備調査と同じようにチーム活動でリーダーシップを発揮した人を思い出してもらい、予備調査を通じて作成した定量調査票[*1]を用いて実施した。64人中、57人から回答をいただいた。

予備調査
(定性調査)
本調査
(定量調査)
調査対象 ・富士ゼロックスグループの次世代リーダー育成プログラムFLCP(第1期)への応募者
–25歳~37歳
–管理職前
・富士ゼロックスグループの次世代リーダー育成プログラムFLCP(第1期)への応募者
–25歳~37歳
–管理職前
調査方法 ・オンライン調査
FLCP事務局より、回答画面のURLが記載された調査案内メールを配信。回答者はweb画面から回答を入力
・オンライン調査
FLCP事務局より、回答画面のURLが記載された調査案内メールを配信。回答者はweb画面から回答を入力
回答期間 ・2018年3月23日~4月2日 ・2018年4月18日~5月9日
有効回答数 ・51人 ・57人
調査項目 主に、下記に関する3問の自由回答質問
・バーチャルチーム活動中にリーダーシップを発揮した人に見られた具体的な行動や発言
・活動を通じて考えた、バーチャル・チームをリードするために必要なリーダーの行動や関与方法。
主に、下記に関する79問の定量調査
・バーチャルチーム活動中にリーダーシップを発揮した人に見られた具体的な行動や発言
・バーチャルチーム活動の成果・フェイスツーフェイスでのチーム活動中のリーダーに見られた具体的な行動や発言
・フェイスツーフェイスでのチーム活動の成果

図表1 調査方法

 

3.分析結果(1)
バーチャル・チームをリードする4つのポイント

定量調査の結果データを因子分析[*2]という手法を用いて分析した結果、4つの因子が抽出された(図表2)。この4つがバーチャル・チームをリードするためのポイントである。

因子分析結果

図表2 因子分析結果

 

この4つはバーチャル・チームに限らず、通常のチーム活動でも必要なのではと感じられた方も多いと思われる(4つ目は、ICTをホワイトボードに置き換えれば)。
基本的にはバーチャル・チームだろうがF2Fチームだろうが、リーダーシップを発揮する方法に大きな差はないのかもしれない。とはいうものの、チームをリードするために必要な多種多様な要素がある中で、この4つだけが抽出された意味を考えていただきたい。これらは、F2Fでのチーム活動では意識しなくても自然となされるが、バーチャル・チームでは意識して取り組まなければならないということを示唆していると読み取れる。こうした観点から、4つのポイントを考察する。

参画しやすい環境づくり

相手の顔が見えるF2Fでのチーム活動では、意見を述べるタイミングを計り易い。相手が何を考えているのかを表情やしぐさから察することも出来るので、不安感が和らぐ。反面、バーチャル会議では他者の会話に割ってはいることが難しく、発言することに不安を感じることもある。たとえ議論についていけなくても、気が引けて確認できないこともあろう。
意見を言い合えなければ、あるいは見解の齟齬があっては、チーム活動はうまくいかない。そうならないような環境づくりが、バーチャル・チームリーダーには求められる。

チームを維持する情緒的対応

あなたがバーチャル・チームのリーダーだとする。どんな時にメンバーに連絡するだろうか。たわいもない世間話をするだけのためにわざわざ連絡する人はいないだろう。問題が生じたときに連絡することがほとんどである。
この傾向は、F2Fのチーム活動でも同じである。しかし、F2Fチーム活動では、日頃から顔を合わせる中でメンバーをねぎらったり、鼓舞することもできる。一方でそうした日常的なコミュニケーション機会のないバーチャル・チームでは、ともすればネガティブな情報しか交換されなくなってしまう。そうならないように、意識的にポジティブな言葉を投げかけて、メンバーのモチベーションを最後まで維持させることが大切である。

膠着状態から前進させる発言

既述の通り、相手の表情やしぐさが見えないバーチャル・チーム活動では、円滑な意見交換が難しい。お互いに何を考えているのかを察しにくい中で、無言のまま時間だけが過ぎていくことも度々生じる。こうした膠着状態から脱却するきっかけになるような発言が、リーダーには求められる。
それでは、どうすればそのような発言ができるのか。予備調査結果を見ると、この因子に関するコメントは、「他者の発言が理解しにくいような場合は、発言者に背景や意図を確認した」というようなコメントとともに挙がっていることが多かった[*3]。このコメントの方が根本だろう。膠着時に前へ進める発言をするためには、各メンバーがどこまで理解し、何を考え何に疑問を抱いているのかをおさえておく必要がある。ニュアンスを把握しにくいバーチャル・チーム活動でこそ、意識して努めなければならない。

ICT上での論点整理と共有

言葉だけのコミュニケーションには限界がある。議論内容を整理し、見える化することは、リーダーにとって欠かせない作業である。F2Fチーム活動では、ホワイトボード上でなされるだろう。しかし、バーチャル・チーム活動ではそれができない。
バーチャル・チーム活動では、ICTを効果的に活用して、論点整理をしなければならない。ICTに詳しいメンバーがいたとしても、彼ら彼女らに任せず、リーダー自らが使いこなさなければならない。20~30年前にパソコンが導入された頃に、パソコン操作を部下に頼りきっていた年配の役職者を若手社員は冷たい目で見ていた。決して、そうなってはならない。

4.分析結果(2)
4つのポイントの重要度と関係性

これら4つのポイントすべては、バーチャル・チームをうまくリードするために重要な要素である。とはいうものの、重要度は同じではないはずだ。そこで、この中でも特に何が重要なのかを分析した。
分析は、2つの方法で分析した。1つ目は、チームメンバーの自己評価を使った分析である。統計分析のためのサンプル数を確保できるというメリットがある反面、メンバーの主観に頼るという不安定さが残る。2つ目は、事務局による客観的評価を使った分析である。メンバーの主観は排除できるものの、チーム単位の分析になるために十分なサンプル数を確保できないという欠点がある。こうした一長一短があるため、2つの分析結果を統合して解釈している。

チーム活動に対するメンバーの自己評価を用いた分析

バーチャル・チーム活動に対するメンバーの自己評価のデータを取り、それとの関係を分析した。具体的には、リーダーに対するメンバーの評価[*4]を従属変数(結果)に、4つの因子を独立変数(原因)に設定して重回帰分析を行った。その結果が、図表3左である。統計的に関係があるとされたのは、「膠着状態から前進させる発言」であった。
なお、比較のための実施したF2Fチーム活動に関する分析結果[*5](図表3右)では、「膠着状態から前進させる発言」は統計的に有意にはなっていない[*6]。膠着状態から前進させる発言は、F2Fチーム活動で効果がある場面もあるものの、常に効果があるというわけではなくいうことだ。
この比較から、「膠膠着状態から前進させる発言」は、バーチャル・チーム活動ならではの重要ポイントだということがわかる。

重回帰分析

図表3 重回帰分析

 

事務局によるチームのアプトプット評価を用いた分析

全チーム発表内容に対する事務局の評価を入手し、それを使った分析を行った。ただし、16サンプルしかないため、重回帰分析はできない。そこで、高群と低群のデータを比較することにした。
全16チームのうち、6チームが高く評価され、4チームに低い評価が下された、この高群と低群の平均値を比較したのが、図表4である。両者の差が大きなものが「膠着状態から前進させる発言」と「ICT上での論点整理と共有」であり、この2つが、客観的評価に影響を及ぼしているものと考えられる。ただし、サンプル数が少ないために統計的な検定はできてはいない。

高評価チームと低評価チームの平均値比較

図表4 高評価チームと低評価チームの平均値比較

 

5.まとめ

主観的評価と客観的評価を用いたそれぞれの分析結果を統合解釈すると、以下のことが言える。

調査の限界

この調査には2つの問題点がある。
1つ目は、サンプル数の少なさである。因子分析では質問数の3倍のサンプル数が必要だと経験的に言われることもあるが、今回の調査では32の質問数に対して、サンプル数は57である。また、チーム別の分析では、僅か10サンプル(高群6チーム、低群4チーム)であり、統計的な検定に耐えられなかった。
2つ目は、回答者の偏りである。回答者は富士ゼロックスおよびグループ企業の社員に限定されており、しかもFLCPに応募するということはそれなりに優秀な社員である。プロジェクトマネジメントやファシリテーションなどの基本的なビジネススキルが身に付いている人である。
こうした問題はあるものの、ほぼ同条件の複数バーチャル・チームの活動テータを得られる機会は極めて少なく、今回の研究結果はLeading Virtuallyの研究に、僅かながらでも寄与できたものと考える。

【謝辞】

この調査を実施するにあたって、富士ゼロックス株式会社FLCP企画推進チーム(本稿では「事務局」と表記)の三木祐史氏、安田勇大氏、難波舞子氏、稲葉光寛氏に多大な協力をいただきました。また、FLCP応募者の方々には、お忙しい中、調査への回答に協力いただきました。厚く御礼申し上げます。

*1:予備調査で収集した313個の具体的なコメントに関し、特異なものを排除した上で類似のものをまとめた結果、32項目に集約された。それら32項目について当てはまるかどうかを7段階で回答する定量調査票を作成した。
*2:因子とは、質問項目(変数)間の相関関係の高いもの同士をまとめている共通の要因(潜在的変数)であり、その共通の要因を見出すための分析手法が因子分析である。分析にあたっては、最尤法、プロマックス回転を用い、以下の手順を経た。1. 因子に対して因子負荷量が低い項目の除去、2. 削除したときにα係数が大きく増加する項目の除去、3. α係数が低い因子の除去、というプロセスを繰り返し、特定の因子に含まれる項目の因子負荷量が0.4以上、因子に含まれる項目を尺度化した場合の信頼性係数(クロンバックのα係数)が0.7以上になった時点で終了する。このようにして抽出された因子において因子負荷量が高い質問項目、および元となった定性調査での回答のニュアンスを勘案して、因子名を命名した。
*3:注釈2で説明したとおり、因子分析では関連性の低い項目を徐々に削除していった。「他者の発言が理解しにくいような場合は、発言者に背景や意図を確認した」は、もともとは「膠着状態から前進させる発言」因子に入っていたが、分析過程で最終的に削除された。そのため、ある程度の相関があるものと想定される。
*4:「良い議論ができたと思う」、「このチームでよかったと思う」、「どんどんチームワークが良くなっていくことを感じた」、「良いアウトプットを出せたと思う」、「メンバーから多くのことを学べたと思う」の5つの質問項目からなる因子。信頼性を表すα係数は0.913。
*5:今回の調査では、各自の直近のF2Fチーム活動を取り上げてもらって同じ質問項目(F2Fに沿った質問になるよう一部表現を修正)で回答をしてもらっている。
*6:チーム活動に対するメンバー評価は、「チームを維持する情緒的対応」が統計的に有意になっているが、それがF2Fチーム活動で最も確実に効果があると判断するのは間違いである。もともとの質問票がバーチャル・チーム活動向けに作られており、F2Fチーム活動の分析には適さない。この4つのポイント以外に重要なポイントがあるかもしれない。F2Fチーム活動での重回帰分析は、あくまでもバーチャル・チーム活動との比較のためであり、単独で解釈すべきではない。

著者プロフィール

坂本 雅明
坂本 雅明

コンサルティング部長 兼 研究室長/ 首都大学東京 大学院ビジネススクール 非常勤講師

1969生まれ。1992年にNEC入社。NEC総研を経て2006年より現職。戦略策定・実行プロセスの研究に従事。また、戦略策定の研修・コンサルティング、戦略策定合宿の企画・ファシリテーションを担当。一部上場企業の顧問として中計策定や新事業開発、子会社の経営支援にも携わる。首都大学東京では社会人学生向けに戦略策定コースを担当。一橋大学大学院修了(MBA)、東京工業大学大学院博士後期過程修了(博士(技術経営))。
主要著書に『戦略の実行とミドルのマネジメント』(同文舘出版、2015)、『事業戦略策定ガイドブック:理論と事例で学ぶ戦略策定の技術』(同文舘出版、2016)、『人材開発白書』(富士ゼロックス総合教育研究所、2009-2018)

お問い合わせはこちら

お問い合わせ