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17年版人材開発白書「リーダーシップの発芽」 —若手の活躍による組織の進化を目指して—

【書影】人材開発白書2017

組織の閉塞感を打破するために、あるいは組織を進化させるために、若手社員の活躍が期待されている。新しい知識や技術を身につけ、また新しい発想ができる若手社員が中心となって仕事を進めるようになれば、自ずと組織は変わっていく。

実際、多くの社員は若手リーダーの育成に賛成しており、またその人が優秀であれば、自分より年齢がかなり下であっても上司になることに抵抗感を抱くことはない。若手社員が活躍する環境は整っている。

しかし、リーダーを志す若手社員が少ないことが大きな問題である。このままでは潜在性の高い若手社員を埋没させることになり、ひいては組織の硬直化を招いてしまう。どうすればリーダーになりたいと思わせることができるのか。国内企業のビジネスパーソン1,526人への定量調査を実施した。そしてその調査結果を踏まえ、人事・人材開発担当者に対する4つの課題を提言としてまとめた。

要約

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はじめに

あなたの会社のことを振り返っていただきたい。このような若手社員はいないだろうか。

あなたの会社には、一目置くべき何人かの若手社員がいる。ある若手は新しい技術や知識に明るく、別の若手は最近の市場動向をよく理解している。年配社員が思いつかないような面白い発想をする社員もいる。しかし、みんな遠慮がちで、「自分は縁の下の力持ちタイプですから」が口癖である。

彼らは今30歳前後である。組織の閉塞感を打ち破るためにも、彼らに影響力を発揮して欲しい。どんどん周りを巻き込んで、今の組織に新しい風を吹き込んで欲しい。

しかし、肝心の本人にその気がない。いくら公式・非公式にリーダーを任せたところで、本人にその気がなければ、成果は期待できない。なんとかして、「リーダーになりたい」と強く思ってもらいたいものだ。どうすればよいのだろうか…

こうした状況に直面している上司や人事・人材開発担当者が、対象読者である。あなたの会社には、もっとリーダーシップを発揮してもらいたい30歳前後の若手社員はいるだろうか。もしいるのであれば、ぜひこの先をお読みいただきたい。

若手リーダーへの期待が高まっている

組織の閉塞感に悩んでいる企業は少なくない。長く働き続ければ、どうしても過去の成功体験や業界の慣習に手足を縛られてしまう。よほど意識しない限りは逃れ難く、知らず知らずのうちに環境の変化から取り残されることになる。

こうした中で、若手社員の活躍が期待されている。ある経営雑誌ではU-40(40歳未満)リーダーの特集が組まれ、政府系研究機関でも、人工知能研究センター長に41歳の若手研究者が抜擢された。新しい知識や技術を身につけ、また新しい発想ができる若手社員が中心となって仕事を進めるようになれば、自ずと組織は変わっていく。組織が進化するには、こうした新陳代謝の連続が必要である。

もちろん、すべてにおいて若手社員に任せるべきだとは言っていない。総合判断力などは年齢とともに強化されるため、従来事業の舵取りでは積み重ねた経験がものをいう。一方で、それまでの経験を活かせないような新しい事業を始めたり、事業を抜本的に改革する場合には、より若い社員に活躍の場を与えることを考えるべきである。

若手リーダーが活躍する環境は整ってきている

日本には年功制という独特の経営スタイルがある。バブル経済が崩壊した1990年代になって成果主義が普及し始めたものの、欧米企業に比べた場合は、いまだ色濃く残っていると言ってもよい。日本の大企業を改革したことで有名なある外国人経営者は、その大改革において、年功制に手をつけることに躊躇したという。影響が大き過ぎると感じたからだ。

実際はどうだろうか。調査の結果、会社の将来のためには30歳代社員の活躍が重要だと思っている人は6割以上に上り、30歳代前半の若手社員へのリーダー開発投資が早過ぎると感じている人は1割にも満たなかった。さらには、その若手社員が有能ならば、自分よりもかなり年下であっても自分の上司になることもいとわないという人がほとんどであった。つまり、社内の理解は醸成されているといえる。

問題は、リーダーになりたい若手の少なさ

しかし、大きな問題がある。リーダーになりたいという若手社員が少ないことである。我々の調査では、その比率は50%を大きく下回っていた。

もちろん、リーダー志向が低い人を救い上げる必要はないという意見もあるだろう。しかし、磨けば輝くダイヤモンドの原石を石ころのままで終わらせては、会社にとっての大きな損失である。年配の社員は別として、30歳前後の若手社員であれば、そして彼ら彼女らに潜在性が感じられるのであれば、一度はチャンスを与えるべきであろう。

提言―リーダーシップを発芽させるために

提言1:リーダー志向の源泉は、「野心」、「利他」、「責任」の3つである。若手にリーダーになりたいと思わせるために、こうした意識を高めさせる。

行動を変えるには、意識を変える必要がある。若手社員にリーダーとして振る舞ってもらうには、まずはリーダーになりたいと思ってもらわなければならない。とはいえ、単に「リーダー志向を高めろ」と号令をかければ済むものではない。リーダー志向を高めるための方策が必要である。

どういう気持ちの変化が生じれば、リーダーを志すようになるのか。入社後しばらくしてからリーダーになりたいと思うようになった若手社員を調べたところ、「野心」、「利他」、「責任」という意識を抱くようになっていた。リーダーになりたいと思わせるには、こうした意識を抱かせることを試みなければならない。

野心は、仕事に対する自信がついたときに抱くことが多い。そのため、仕事の成果を自覚させるようなフィードバックが大切である。利他は様々な人との協働を通じて抱くことが多く、そうした機会を増やしてあげることが効果的である。また、昇進・昇格したからといって、自分がリードすべきだという責任が強くなるわけではない。重要なのはポジションを得たかどうかではなく、リードする相手ができたかどうかである。そのため、部下や後輩をつけてあげることが重要である。

提言2:リーダー志向は35歳でピークアウトしてしまう。鉄は熱いうちに打てである。早期にリーダーを経験させ、リーダー志向を持続させる。

リーダーになりたいと思っている若手社員が少ないとはいえ、それでも一定数の若手社員は、リーダーを志している。ところが35歳を過ぎると、その割合は急速に減少してしまう。将来的に経営を担わせる人材の候補を枯渇させないためにも、リーダー志向を持続させる必要がある。

新入社員研修後に放任期間が続いてしまうと、ある人は、足元を見て仕事をし続けているうちに上を見ることができなくなってしまうのかもしれない。またある人は、目の前の問題を解決しなければならない状況が続く中で、リーダーになりたいという志が失われてしまうのかもしれない。そうなってしまう前に、リードする経験をさせることが効果的である。

積極的にリーダー行動をとった若手社員を調査したところ、そうではない若手社員よりも、とりわけ「達成志向」、「協調性」、「役割意識」が強まっていた。これらは野心、利他、責任に類するものであり、リードする経験によってリーダー志向が高まることが期待される。鉄は熱いうちに打てである。リーダー志向を35歳でピークアウトさせないためには、リーダーになりたいという意欲が残っているうちにリーダーを経験させ、好循環を回させなければならない。

提言3:良質なリーダー経験には、裁量権の付与が欠かせない。そして、小さくても早期に成功体験を積ませることで、ドライブをかける。

リードする経験が、リーダー志向を高める。しかし、単に経験をさせればよいわけではない。良い経験もあれば、悪い経験もある。経験の与え方によっては、逆にリーダーに幻滅してしまうこともある。そうならないように、与えるべきリーダー経験を設計する必要がある。

リーダーに幻滅してしまう原因の1つに、裁量権が与えられないことがある。リーダー経験前には多くの若手社員が権限の大きさを期待しているのだが、いざ経験してみると自分が思うようにさせてもらえず、結果として周囲から認められるような成果を出せない。これでは若手の良さがつぶされてしまい、組織の硬直化を招くことになる。そうならないように、権限と予算を与え、自ら判断させることが肝要である。

その場合、小さな目標からスタートさせることが肝要である。これはリスク回避のためだけではない。早期に成功体験を積ませることで、ドライブをかけるためである。心理学者のA. バンデューラによれば、より大きな目標を達成しようとする意欲は、“自分は上手くやることができるだろう”という自信にもたらされるという。早期の成功体験で自信をつけさせ、徐々に大きな目標にシフトさせるのである。

提言4 :若手リーダーは、経験を通じて対人関係能力を身につけなければならない。効果的に学ばせるために、「気づかせてくれる人」との接点を持たせる。

経験から学ぶためには、他者という触媒が必要である。そして必要な他者には、「教えてくれる人」、「気づかせてくれる人」、「前向きにしてくれる人」の3つのタイプがある。どのタイプが必要なのかを見極め、適切な他者との接点を作ってあげなければならない。

若手リーダーは対人関係問題で悩むことが多い。周りへの配慮や部下への説明などで苦労するなどとは、大半の若手社員は思っていなかったものの、リーダー経験をしてみると、その大変さを実感している。たとえ利他の気持ちがあったとしても、気持ちだけでは対応できない。また頭で理解したとしても、なかなか思った通りに対処できない。こうした対人関係能力は、経験と振り返りの繰り返しによって、身につくものである。

そのときには「教えてくれる人」はあまり役に立たず、「気づかせてくれる人」が必要である。経験にどっぷり浸かっている本人が、自分を客観視することは難しい。また若手であるほど立ち止まらずに、先に進もうとしてしまう。上司、あるいはそれに代わる人がいったん立ち止まらせて、本人が認識していない良い点や改善点を気づかせてあげなければならない。

おわりに

少なからずの伝統的大企業では、バブル時代に大量採用した社員に悩んでいる。50歳前後の社員の構成比率の多さが人件費を圧迫することもそうだが、昇進や仕事機会の順番待ちを強いられる若手社員のモチベーションの低下も、大きな問題になっている。

高い志を持って入社したものの、数年で退職してしまう社員がたくさんいる。潜在性の高い若手社員でも、例外ではない。こうした状況が今後も続いたならば、その会社が10年後にどうなっているかは、想像に難しくない。

若手社員本人のためにも、そして何よりも会社のためにも、優秀な社員に活躍してもらわなければならない。こうした課題をお持ちの企業の方々に、本報告書が僅かでもお役に立てれば望外の幸せである。

2017年2月

坂本 雅明
富士ゼロックス総合教育研究所
研究室 室長

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株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所
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著者プロフィール

坂本 雅明
坂本 雅明

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長/首都大学東京大学院ビジネススクール非常勤講師

1992年NEC に入社。コンサルティングファームを経て、2006年より当社入社。戦略策定・実行プロセスの研究および戦略策定研修を担当。一部上場企業の顧問として中計策定や新事業開発、関連会社の再建支援にも携わる。上智大学卒業、一橋大学大学院修士課程修了(MBA)、東京工業大学大学院博士後期課程修了(博士(技術経営))。一橋大学イノベーション研究センター研究員(05~06)。首都大学東京ビジネススクール非常勤講師(12~)

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