ホーム > 調査・研究 > 【第3回】営業部門の働き方改革- 「アカウントプラン」により更なる提案余地を考える-

【第3回】営業部門の働き方改革- 「アカウントプラン」により更なる提案余地を考える-

アカウント型営業の極意(全7回)営業部門の働き方改革を営業戦略の視点から考える

はじめに

前回、「アカウント型営業」を成立させるためには、購買力のポテンシャルが大きくて伸び代のあるお客様を選定することが重要であることを説明しました。ただし、具体的にどのような〝伸び代〟があるのか、売り手側が明確に想定できていないとお客様にとって必要な提案をすることはできません。今回は特定のお客様との取引を拡大させていくための有効な方法論である「アカウントプラン」についてポイントを解説します。

登場人物

河村: 富士ゼロックス総合教育研究所の営業力強化コンサルタント。主に営業部門の「戦略実行力の強化」「SFA/CRMツールの活用・定着」「働き方改革」などのテーマで活動中

ヒラタ: 大手産業機械メーカーのベテラン営業マネジャー。まじめで前向きな性格だが、最近の環境変化に戸惑っている。河村とは近隣コミュニティーのゴルフ仲間で個人的に親しい間柄

お客様の中から「主要アカウント」を選び出す

河村: 今回はアカウント型営業の実践ということで、具体的に何から取り組んでいくかについてお話ししたいと思います。その前に少しおさらいをしましょう。前回ターゲティング・ポートフォリオを用いた顧客層別の考え方を説明しましたね。

ヒラタ: はい。お客様の購買力を縦軸に、自社のインナーシェアを横軸にとって、すべてのお客様を「守る」「攻める」「効率化」というゾーンに振り分けていくという方法でしたね(図3)。アカウント型営業ではお客様との長いつきあいを通じて取引の最大化を目指すことが目的なので、購買力のポテンシャルが大きくて伸び代のあるお客様に狙いを定めるという話でした。

図3 ターゲティング・ポートフォリオ

図3 ターゲティング・ポートフォリオ


河村: 最終的にどのお客様にどのような営業活動を仕掛けていくかはその会社の戦略や考え方次第です。しかし、組織として売り上げを拡大させていくというのが暗黙の前提である以上、その拡大する先をどこに求めるかということなんです。エリア型の発想であれば新規顧客ということになりますが、成熟市場では拡大の見込みは薄い。
 よくMA(Marketing Automation)の世界ではせっかくコストをかけてイベントや展示会で新規顧客につながるリード情報を獲得しても、セールスに情報を流した途端止まってしまう(訪問してくれない)なんてことがありますが、これはアカウント型営業としての意識が強いセールスにおいて、その役割の認識にギャップがあるからと言えるでしょう。もちろん成熟市場でも新規顧客の獲得は重要ですが、そこには戦略的な組織として取り組みが必要であり、簡単にはいきません。
 であるなら、既存顧客の中に売り上げを伸ばせる余地があるかどうかを探す必要があります。重要なのはその余地の総量がどのくらいあるか。以前にも言いましたが、単に今たくさん買ってくれているからといっても伸ばせる余地がほとんどないお客様であれば、それはセールスに任せるのではなく組織として「守る」ための対応策が必要なのであって、ここで言うアカウント型営業を仕掛ける先ではないかもしれないということです。

ヒラタ: そこで少し疑問が湧いたのですが、その売り上げを伸ばす元となるお客様の購買力というのはどうやったら分かるのですか?

河村: いい質問です。実はそれを決めるのは結構難しいことなんですよ。その会社の総購買量、つまり自社の製品をどれくらい買ってくれるかなんて正確には分からないですからね。なので、普通は代替指標として売上規模や従業員数などを使ったりします。例えば生産設備の場合、1事業所当たりの使用台数の目安がつけば、事業所数から何台必要になるかが推計できますよね。その台数がその会社の総購買量となります。

ヒラタ: なるほど。

河村: ただしそれは極端に単純化したものなので、どうしても正確さには欠けるんですよ。また、購買力というのは常に一定ではありません。成長している企業かどうか、あるいは経営者が拡大志向かどうかで変わります。その他にも業界の成長力や業界内シェア、技術力やブランド力などさまざまな要素が関わってくる。ですから正確な指標を求めるのであれば、そうした要素を点数化した上で加算するという方法もあります。※詳細は、著書「自ら考え戦略的に動く営業集団をつくる 3つのフレームワーク」を参照ください(注)

ヒラタ: 売上規模や従業員数は調べればすぐに分かりますが、それ以外の情報は入手するのが難しいですよね。ましてや経営者の考えなんて知りようがないし。

河村: IR資料など公開情報からある程度は推定できるものもあるでしょうし、後は営業活動の中でヒアリングするなりして入手していくしかないですね。ただし今回はアカウント型営業がテーマなので、主要アカウントとなるお客様かそうでないかが区別できればいい。とりあえず売上規模を尺度として購買力を定量的にざっくり仮設定し、後ほど説明する「企業内ホワイトエリア」という考え方を使って、定性的、具体的に検証していきます。

アカウントに対する新規案件を洗い出す

ヒラタ: 要は伸び代があって魅力的なお客様を狙いましょうということですよね。うちでも何社か思いつくけれど、シェアを取りたくても競合にがっちり押さえられているからなあ。

河村: 売り上げを伸ばす方法は、すでに納めている商材のシェアを上げていくことだけではないですよね。つまり、「伸び代」の中身にもいろんなパターンがあるわけです。まずはそれを一つひとつ洗い出してみましょうか。
 この図は一つのアカウントの中で発生する案件、もしくはそれに対する活動を示したものです(図5)。大きく分けると(1)~(3)の三つあります。(1)は今つきあいのある部門との既存案件です。当然、営業活動としてはその継続活動となります。(2)は既存部門に対する新規取引、(3)は新規部門に対する新規取引です。

ヒラタ: そうか、新規取引にも今つきあいのある部門の中で拡大を狙うケースと、別の部門に打って出るケースの二通りあるわけですね。

図5 アカウント内活動項目

図5 アカウント内活動項目

河村: はい。その新規取引についてさらに細かく見ていきましょう。まず案件がどちら側から発生するかで考えると、お客様からきっかけをもらう場合と、売り手側から仕掛ける場合がありますね。つまり「顧客起点」か「自社起点」かです。それとは別に新規需要にも、他社商品から自社商品への置き換え需要と、イチから新しく創出する需要がある。そうすると、一つのアカウントに対する活動としては全部で何通りあるでしょうか?

ヒラタ: 既存取引が一つ、新規取引が2×2×2=8だから全部で九通りですか。

河村: そうなりますね。ちなみにこの中で一番難度が高いのが自社起点で新規需要を創出していく活動です。例えばお客様の事業課題をリサーチし、「その解決のためには先々を見据えて業務改善が必要になるので、弊社の製品・サービスを導入してほしい」といった提案ができるかどうか。

ヒラタ: それはハードルが高いですね。お客様とのつきあいが深まってからでないと難しいかもしれない。

河村: もちろん、すぐには無理ですよね。だからその前にできることから始めていくわけです。例えば、面談の最中にお客様がちょっとした困り事やお悩みをボソッと口にされることってないですか?

ヒラタ: ああ、それはありますね。他社の製品への不満だったり、現業の煩わしさだったり、上位方針への戸惑いだったり。まあ、ぼやきですかね。

河村: ところがそうしたぼやきをちゃんと拾えずにスルーしていることって結構多いんですよ。顧客起点といっても、いきなり見積もり依頼や明確な要求が来ることなんてめったになくて、お客様も意識されていないようなぼんやりした問題点や違和感に気付くことが、実は新規提案のきっかけとしてすごく重要なんです。

ヒラタ: それはセールスの感度が試されますね。鈍かったら気付けない。

河村: だからこそ、個別のお客様に対してどのような案件が発生する可能性があるかを把握しておく必要があるんです。個人の感度に頼るのではなく、事前に予測してチャンスを取り逃がさないようにするためにね。それに加えて、活動の見直しもしていかないといけない。どの「伸び代」を伸ばすかを決めて活動ウエイトの配分を考えていくわけです。

「企業内ホワイトエリア」を使って商材需要を整理する

ヒラタ: しかし、活動ウエイトの配分を考えるといっても、肝心のどこに何を売っていくかが分からないと……。

河村: おっしゃる通りです。そこで「企業内ホワイトエリア」という考え方を使います。

ヒラタ: ホワイトエリア?

河村: 言葉の意味としては「空いている場所」ということになりますが、ここでは自社の商材に対して需要があるにもかかわらず、その商材が納められていない部門のことを指します。平たく言えば、自社の商品を買ってくれる可能性があるところです。ただし、その中には他社の商品を使っているというケースもあれば、本来ならばその商品が入っていてもいいはずなのにまったく更地になっているというケースもあります。それを視覚化するために、例えば図6のような商材と部門を対応させた表を使います。

エリア型とアカウント型営業の違い
図6 企業内ホワイトエリア

ヒラタ: どの部門にどの商材を売っていくかを整理するわけですね。なるほど、これなら分かりやすいです。

河村: まず黒く塗りつぶされた場所は、そもそも商材の需要がない場所、物理的に購入の可能性がまったくない部門です。産業機械を売りたいのに工場がないとか、その部門にとって機能として必要ない商材は売ろうとしても売れないですよね。ですから、最初に商材購入の余地があり得るかあり得ないかが整理されていないといけません。そして○が付いている場所は、現在商品を購入している部門です。この表では商材Aが部門(2)と部門(3)に入っています。

ヒラタ: この矢印が示しているのは、その商品を次はどこに展開していくかということですか?

河村: その通りです。まず上の矢印は、部門(1)にはまだ何も商品が入っていないけれど、部門(2)に入っている商材Aを買ってもらえる可能性があるので、その提案を仕掛けるという活動を示しています。あるいは部門(1)に入っている他社の商品を自社の商材Aに置き換えてもらうという提案を仕掛けるという場合もありますね。
 一方、下の矢印は、部門(3)に入っている商材Aを商材Bに置き換えるという提案です。単純に商品の耐用年数が切れるので新商品に買い換えてもらうとか、お客様の事業環境が変化し、機能的により適合した商品への交換を勧めるというケースが考えられます。

ヒラタ: 要するに企業内ホワイトエリアというのは、お客様の中で自社の商品を買ってもらえる可能性のある場所を示した見取り図ということになりますね。

河村: そう考えてもらっていいと思います。その見取り図ができていると、売り上げを伸ばすためにどこをターゲットにしてどのような提案を仕掛けていくかというプランを考えやすくなります。また以前にもお話ししたように、このように定性的、具体的に検証していくと、すでに相当の売り上げがあるので「守る」お客様かと思っていたけど実は十分に「攻める」余地のあるお客様であることが分かったりします。

アカウントプランに案件情報をまとめる

ヒラタ: 営業の活動種類やその行動配分の見直し、そして商材視点でとらえた企業内ホワイトエリアの考え方。一つひとつについては分かったけれども、全部をつなげて考えるとなんだか複雑で頭が混乱してきました。

河村: そうですか。ではちょうどいいので、ここまでお話ししたことを「アカウントプラン」という形でまとめてみましょう。

ヒラタ: アカウントプラン、ですか?

河村: 主要アカウントに対して個別に営業活動を管理するためにお客様情報を整理したものです。

ヒラタ: ああ、それならウチの営業部でも作っていますよ。顧客台帳のことですよね。

河村: 失礼ですが、その顧客台帳にはどのような情報がまとめられていますか?

ヒラタ: そうですね、まずはお客様の基本的情報と取引実績、そして今後の売上目標と何を商材として売っていくか。あと、お客様のホームページや四季報から引いてきた事業課題などを書き加えたりすることもあります。

河村: それだけですか?

ヒラタ: それだけですね。

河村: ええと、それは残念ながら、私が言うところのアカウントプランとは違いますね。そもそもアカウントプランがなぜ必要なのかというと、主要アカウントとの取引を拡大するためです。つまりそれは既存取引ではない、新規の需要をお客様の中に創出するということです。従って、アカウントプランにはそのために必要な情報が整理されていなければならないのです。

ヒラタ: 必要な情報とは?

河村: 一つは先ほどお話ししたホワイトエリア情報です。どの部門にどのような商材購入の可能性があるか。そして購入決定までのプロセスに関わる人物として誰がいるのか。ターゲットとなる部門、提案する商材、関係するすべての主要プレイヤーといった情報がホワイトエリアごとに整理されていることが重要です。
 それからお客様の事業課題ですが、そういった情報を盛り込んでセールスに意識させていること自体はとても良いと思いますが、ホームページや四季報の情報を引いてきただけでは不十分です。というか、販売という意味においてはほとんど役に立ちません。

ヒラタ: それはどういう意味ですか?

河村: B to B営業では、売り手の売りたい商品をそのまま買ってもらえるということはありません。お客様が自分たちの事業にとってその商品が必要だと判断したときに買ってもらえるわけです。ということは、別途詳しくご説明しますが、お客様の事業戦略や事業課題に対して、自社の商品や提案がなぜ貢献できるのか、お客様の側からその必然性について自然に理解できるようなストーリーとして落とし込まれていないと、どのような提案をしてもお客様には響きません、ましてや新規需要の創出なんてできませんよね。そもそも公表されている事業戦略や事業課題はお客様が事業を発展させていくためにさまざまな思考を重ねた結果に過ぎません。お客様の置かれている環境から、なぜお客様がその戦略を選択せざるを得ないのか、その過程を共感できなければ、課題の本質的な意味合いや優先度を理解できず、浅い提案になってしまいます。多くの場合、顧客台帳にホームページや四季報の情報をコピペしただけで「おおっ、何かいい感じ」と満足してしまっているのではないでしょうか。
 そして最後にもう一つ。お客様の事業課題を理解した上で、お客様の事業に貢献するためにどのような提案ができるか、ということを先の貢献ストーリーと共に仮説で構わないのでまとめておくことも必要です。これを「仮説ストック」とここでは呼びます。

ヒラタ: ええっと、少しごちゃごちゃしているので整理してもらえますか?

河村: いいですよ。アカウント型営業の概念を図にするとこんな感じになります。(図7)特にアカウントプラン策定の手順として、次の4つのポイントを押さえてください。


各手順については、また詳しくご説明しますので、まずは概略をつかんでいただければと思います。

図7 アカウントプランによる案件創出マネジメント
 図7 アカウントプランによる案件創出マネジメント

 こうした情報を整理し、常に意識しておくことによって、新規需要の創出だけでなく、日頃の何気ない会話の中のニーズにつながるヒントに関しても、セールス個人の感度に頼ることなく着実に反応できるようになり、商談機会をロスすることがなくなるのです。また、こうした情報を「お客様カルテ」などと呼んでいる企業もあります。

営業マネジメントは退化する!?

ヒラタ: 「お客様カルテ」と聞いて思い出したのですが、数年前に外から来た部長の指示でこんな体裁のフォーマットを作って営業管理をしていたことがありました。現場のセールスからは「細かすぎて書くのが面倒くさい」とかなり不評を買っていましたが。そのうち誰も使わなくなったので、すっかり忘れていました。

河村: そうでしたか。いや、でもそれはよくある話ですね。

ヒラタ: よくある話って?

河村: 営業マネジメントというのは結構退化したりするんですよ。

ヒラタ: 退化するんですか?

河村: ええ。SFAもそうですけれど、新しいツールや取り組みを導入してもなかなか定着せず、途中でやめてしまったりすることが多いんです。そこが生産部門との大きな違いなんですね。

ヒラタ: それはどうしてなんですか?

河村: いくつか原因があると思いますが、一つは生産方法と違って導入効果を数字ではっきりと計測できないからではないかと。営業というのは非常にファジーなので、絶対にこのやり方が正しいと言い切ることが難しい。成果が見えないと、なんとなく自信をなくしてしまって続けられなくなるんです。
 もう一つの原因は人事です。リーダーが変わると、それまでの方針もガラッと変わってしまうことがある。前任者のやり方を否定する人も多いですから、組織として継承されていかないんですね。

ヒラタ: うーん、思い当たるところがあるなあ……。しかし、私からも一つ言わせてもらえば、新しいやり方を導入することに対する現場の抵抗ってものがすごく大きいんですよ。特にそれが先進的であればあるほど、嫌がられたりするんです。

河村: それは営業という組織の特性でしょうね。管理されるのが何よりも嫌いな人たちの集まりですから。ただ、それも含めてマネジメントの問題なのです。

ヒラタ: マネジメントの問題?

河村: はい。私は「プロセスと成果のトレーサビリティ」という言い方をするのですが、営業というのは行動に対する成果のトレーサビリティが保証できない職種なんです。例えば科学的な手法を取り入れて活動を管理しても、それで本当に成果が出るかどうか分からない。成果が保証されないのであれば、今までのやり方でうまくいっているのだから別にやらなくてもいいよね、ということになる。つまり、やってもいないうちに現場が勝手に結論を出してしまうわけです。そこでマネジャーが踏みとどまれればいいのですが、最近は部下におもねる上司が多くて、それを追認してしまったり、あるいは「負荷がかかる」とか「効果がないよ」とか、それこそ部下に忖度(そんたく)して先回りして言ったりするんです。そうなると、いったい何のためのマネジャーなのかと……。

ヒラタ: それはちょっとひどすぎますね。

河村: 結局、組織が変わらないと、営業マネジメントも変わらない。というか、組織の論理によって退化することもある。数年前まで先進的な営業手法を実践していたのに、今はその形跡すら残っていないということもあり得るのです。

ヒラタ: 成果が出ないと続かない……。なんだか営業マネジメントがとても難しいことのように思えてきました。

河村:大丈夫ですよ。正しい方法論を押さえれば恐れるに足りません。次回は先ほど簡単に触れたアカウントプラン策定手順「4つのポイント」の具体的な方法論について説明しましょう。

【連載コラム】法人営業・営業マネジャー必見「アカウント型」の極意

はじめに

「営業の生産性」が特に問われている昨今、「顧客管理」を強化し売り上げを上げるために、多くの企業様がSFA/CRMなどのITツールを導入し、営業現場の働き方を変革していこうとされています。しかし、ツールを導入したものの、データを上手く活用できず苦労していたり、形だけの「働き方改革」の強化により、更に生産性を落としている企業様も多く見受けられます。特に「アカウント営業」と呼ばれるような、特定の顧客と深い関係構築を図らなければならない営業スタイルの場合、営業活動の定性的な〝質〟が問われるため、本来こういったツールや考え方が得意としてる「効率化」などの〝量〟への対応が上手く機能しません。 そこで、「B2B営業」「アカウント型営業」とはどのようなものか、そこには、どのような行動と能力が必要か、そしてそれを支えるための仕組やマネジメントは?更に「アカウントプラン」等をSFA/CRMツールに取入れ、特定顧客との取引拡大に貢献する営業活動の〝質〟向上に活用しながらも、全体的な営業活動の最適化を図り、事業を最大化するためのポイントを解説します。全部でシリーズ第7回まで展開します。

登場人物

河村: 富士ゼロックス総合教育研究所の営業力強化コンサルタント。主に営業部門の「戦略実行力の強化」「SFA/CRMツールの活用・定着」「働き方改革」などのテーマで活動中

ヒラタ: 大手産業機械メーカーのベテラン営業マネジャー。まじめで前向きな性格だが、最近の環境変化に戸惑っている。河村とは近隣コミュニティーのゴルフ仲間で個人的に親しい間柄

アカウント型営業の極意(全7回)営業部門の働き方改革を営業戦略の視点から考える

連載コラム

第1回【問題提起】なぜ可視化や効率化だけでは成果が出ないのか

第2回【市場戦略】意識すべき「アカウント型営業」と対象先の選定方法

第3回【顧客戦略】 「アカウントプラン」により更なる提案余地を考える

第4回【提案創出】お客様の事業課題から提案を創出する

第5回【案件化】 質の高い面談により提案(ニーズ)を共有し案件化する

第6回【成約】  商談を的確にマネジメントし、成約する

第7回【関係構築】お客様との長期的な関係性を構築する

【第2回】営業部門の働き方改革-意識すべき「アカウント型営業」と対象先の選定方法-

アカウント型営業の極意(全7回)営業部門の働き方改革を営業戦略の視点から考える

はじめに

成熟市場でB to B企業が売上を伸ばしていくにはどうするか。解決策として提示したのは、特定の顧客との関係を深めることで顧客内取引を拡大していく「アカウント型営業」の実践です。今回ではアカウント型営業とは何か、それを成り立たせるための条件や「顧客層別」という考え方についてポイントを解説します。

登場人物

河村: 富士ゼロックス総合教育研究所の営業力強化コンサルタント。主に営業部門の「戦略実行力の強化」「SFA/CRMツールの活用・定着」「働き方改革」などのテーマで活動中

ヒラタ: 大手産業機械メーカーのベテラン営業マネジャー。まじめで前向きな性格だが、最近の環境変化に戸惑っている。河村とは近隣コミュニティーのゴルフ仲間で個人的に親しい間柄

エリア型とアカウント型営業の違い

ヒラタ: 前回河村さんからお聞きしたのは、今のように成熟した市場でB to B企業が売り上げを伸ばしていくには、組織としてアカウント型営業をしっかり意識して市場の管理をしていかなければいけないという話でしたね。そこで今日は、そのアカウント営業について、さらに詳しく聞きたいと思っています。

河村: 分かりました。前回はさわりだけでしたので、基本的なことから説明していきましょう。

ヒラタ: よろしくお願いします。

河村: まずアカウント型営業の特徴を理解してもらうために、従来的な「エリア型」の営業と比較してみましょう。

ヒラタ: エリア型というのは、河村さんがよく言われる「面で売っていく」という営業ですね。

河村: はい。市場を面として捉えた上で、シェアの拡大を目指していくのがエリア型です。基本的にエリアで顧客や担当する営業を分けて、営業活動を行います。一番分かりやすいのは自動車や住宅などのB to C営業ですが、B to Bでもそれに近い動きをする場合が多くあります。たとえば〝面〟として顧客が存在しているオフィス関連の製品やサービス等が挙げられます。また拠点が多いという意味でのルートセールスやエンドユーザーが多く存在するという意味での代理店営業などもその一例といえますね。いずれにしても一人の営業担当がユーザーを含めた多数の顧客を抱えることが多いです。  それに対してアカウント型は、顧客中心に担当営業を決めます。エリア型と比べて顧客数は極端に少なく、場合によっては一社だけを担当する。まあ、あくまでも一般的な比較ですが、エリア型とアカウント型の違いを挙げていくと、この表のようになります(図1)。

エリア型とアカウント型営業の違い
図1 エリア型とアカウント型営業の違い

ヒラタ: ちょっと待ってください。うちの会社も営業担当はエリア別に分けていますが、なかには売上高の大きい取引先もあって、そうしたお客様には担当を厚くしたりしています。なので、必ずしもエリア型といえないのではないかと……。

河村: おっしゃる通りです。組織としてはエリア型でやっているという認識を持っているけれども、実質的にはアカウント型営業になっていることはよくあります。というか、実際にはエリア型とアカウント型が混在していることがほとんどです。大事なのはそこではなく、アカウント型営業の要所は、特定の数少ないお客様と深い付き合いをしながら、自社の売り上げを最大化していくことにあるということです。

アカウント型営業が目指す提供価値

河村: ところで、ヒラタさんは「バリュー・プロポジション」という言葉を聞いたことはありませんか?

ヒラタ: バリュー・プロポジション? 聞いたことはないけれど、マーケティング用語か何かですか?

河村: はい。バリュー・プロポジションというのは、企業が競争に勝つためにどんな価値を提供するかということです。そのタイプとして、「製品の革新性」「業務の卓越性」「顧客密着性(緊密な顧客関係)」のいずれかで戦略の軸を決めている企業が多いといわれています。

ヒラタ: 具体的にはどういうことですか?

河村: たとえば、「製品の革新性」を提供価値としている企業は、その名の通り今まで世の中になかった革新的な製品を出し続けることで、圧倒的に優位なポジションを得ようとします。IT関連に多いかもしれませんね。 「業務の卓越性」は究極的なオペレーションの効率化によって、商品・サービスの「安さ」や「速さ」という価値を提供することで、流通や外食チェーンなどに多いかもしれません。そして「顧客密着性」は、お客様との緊密な関係性がお客様にとって特別な提供価値になるということです。
 さて、これら三つの軸のうち、アカウント型営業がどこを目指しているかというと……。

ヒラタ: 3番目の「顧客密着性」ですね。

河村: その通りです。アカウント型営業で重要なのは、お客様に密着し最高の満足を提供することが、自社の価値を最大化するための戦略であるということです。ただ、この戦略でとても大切なことは、リソースの観点からも「全てのお客様に密着することはできない」ということ。「顧客密着性」を掲げ、そこに多大な労力とコストをかけるからには、お客様を選ばなければいけない。狙ったところに対してアプローチを掛けるというのが、アカウント型営業では絶対に外せないポイントとなります。

なぜお客様を選ばなければいけないか

ヒラタ: でもお客様を選ぶというのは、われわれ営業からすると抵抗感がありますね。そもそも営業ってそういう立場じゃないし、買ってくれるお客様に対して失礼な気がします。

河村: おっしゃることは分かります。そこで、このグラフを見ていただけますか?(図2)

パレート図(混合型の顧客リストの特徴)

図2 パレート図(混合型の顧客リストの特徴)

これはパレート図と呼ばれるものですが、ここではある営業部門の顧客別売上高を高い順に並べて示しています。おそらくどこの企業でも、売上高の大きい顧客から小さい顧客までこのような分布で混在していると思うのですが、いかがでしょうか?

ヒラタ: そうですね。うちの営業チームもだいたいこんな感じです。

河村: ここで注目してほしいのは、上位層の顧客の売り上げが全体の売り上げにどれくらい寄与しているかということです。マーケティングの世界では、ニハチの法則(2対8の法則)といって、全顧客の上位2割が売り上げの8割を占めるといわれています。そうすると企業にとっては、経営資源をその2割に集中させることが合理的だという話になるわけですね。

ヒラタ: ということは、河村さんが言う「お客様を選ぶ」というのは、売上高の大きい上位層のお客様のことですか?

河村: いえ、そんな単純な話ではないのですが、それについてはまた後で詳しく説明します。 さて、このパレート図は一企業内の顧客分布を示していますが、一人の営業マンにおいても同じことが言えるんです。つまり、一人の営業担当が抱えるお客様の中には、売上高の大きい数社とそれ以外の多数の会社がある。そしてその多数の会社の中にも、ワンタイムの取引しか発生していない会社があれば、継続的に取引しているけれどその額が小さいという会社もある。案件発生数、会社の規模、取引商材の額も全部バラバラです。いろんなお客様が混在しているのに、すべて一律の顧客管理をするというのはあまり意味がないですよね。

ヒラタ: それはその通りなんですが、どういう営業活動をするかは基本的に現場に任せていたりしますね。

河村: そこなんですよ。たとえば優秀な営業マンならば、お客様の事業や市場の変化を見て、どのお客様に対して集中的に攻めるかを自分で判断し、メリハリをつけた営業活動ができているはず。なぜメリハリをつけなければいけないかというと、活動リソースが限られているからです。しかし、どういう基準でお客様を選んでいるかについて、マネジャーときちんと合意が取れている人は少ないんですよ。

ヒラタ: うちのチームにもできるメンバーがいるけど、確かにそういう話はしたことがないかもしれないなあ。大きな案件を取ってきたりするので、どんな営業をやっているんだろうと思っていましたが。

河村: たぶん、その人なりのお客様の選定基準や活動様式があるんだろうと思います。でもそれがチームとして共有できていない。それはマネジメントのやり方がエリア型の発想になっていて、アカウント型営業に適応できていないからなんです。

ヒラタ: 今まではできるだけ多くのお客様をフォローして、関心があったところに売り込みをかけるというのが営業の定石だと思っていましたが、それではダメだということですね。

河村: 要は選択と集中です。アカウント型営業の対象となる顧客とそうでない顧客を明確に分けた上で、メリハリのついたリソース配分をしていく。そのためにまずはお客様を見極めなければなりません。自社にとって多くの労力とコストをかけるターゲットとしてふさわしいか。それと同時に自社に対してパートナーとしての価値を感じてくれるかという視点も重要になります。

ターゲティング・ポートフォリオを使って顧客を層別する

ヒラタ: アカウント型営業ではお客様を選ぶことが大事だということは分かりましたが、どうやってそれを決めていけばいいんですか?

河村: 今からそれを説明します。まずはこの図を見ていただけますか? これは「ターゲティング・ポートフォリオ」といって、顧客を層別するときによく使っているものです。(図3)

図3 ターゲティング・ポートフォリオ

図3 ターゲティング・ポートフォリオ

ヒラタ: ターゲティング・ポートフォリオ……?

河村: どの顧客に対して、どういう戦略で取引していくかということを可視化するためのフレームワークですね。縦軸がお客様の購買力、横軸が自社との取引状況を示すインナーシェアとなっています。あるいは、縦軸については自社の商品やサービスをどれだけ買ってくれるかということなので「魅力度」と言い換えてもいいでしょう。この二つの軸でお客様を評価し、四つのゾーンに分類します。

ヒラタ: 売上高の大きさや取引の回数ではなく、購買力とインナーシェアという基準で判断していくわけですね。

河村: はい。まず右上のゾーンから説明していきましょう。ここは購買力が大きく、インナーシェアも高いところ。つまり、取引規模が大きいうえに、他社よりもたくさんの自社商品を買ってくれている一番のお得意様ですよね。会社としては絶対に守らなければいけないので、「守る顧客」となります。

ヒラタ: 会社の屋台骨を支えてくれるので、当然そうなりますね。

河村: 次はその下の、インナーシェアは高いけれど購買力が小さいというゾーン。ここも実はお得意様なんですよ。会社の規模が小さいから大きな売り上げは期待できないけれど、親しく取引をさせてもらっている。担当営業マンにとっては居心地がいいので、放っておくとつい足が向いてしまうというお客様です。

ヒラタ: ああ、それはよく分かります。あまり大きくないから要求が厳しくない割に、期末のときにはこちらからの無理なお願いを聞いてもらえたりする。かなり偉い人が直々に応対してくれるような小規模の企業に多いですよね。

河村: ただしあまり売り上げの伸び代がないので、会社としては営業活動の「効率化」を考えていく必要があるお客様です。なぜなら、もっと活動量を振り分けるべきところが他にあるから。それが購買力は大きいのにインナーシェアが取れていない左上のゾーン。自社にとっては伸び代があり、ぜひとも取引を拡大していきたい。よってここは「攻める顧客」となります。

ヒラタ: 残りのゾーン、すなわち購買力が低くインナーシェアも低いところはどうするのですか?

河村: ここは営業部門としては特に戦略というものはありません。あえて言うなら「何もしないこと」が求められます。もちろん企業全体としては「ロングテール」の戦略として取り組むべき余地はありますが。

ヒラタ: 「守る」「攻める」「効率化」……。こうして三つのタイプにお客様を整理できると、自分たちがどのお客様に何をしなければいけないかがはっきり理解できますね。

河村: この顧客層別で重要なことは、まさしくそこなんです。売り上げだけでお客様を判断してしまうと、本当に攻めなければいけないターゲットがどこにあるのかが意識されないわけですよ。もうお分かりかと思いますが、この中でアカウント型営業の主要顧客となるのはどこかというと……。

ヒラタ: 「攻める」お客様になりますね。

河村: その通りです。もちろん「守る」お客様も対象にはなりますが、狙いを絞った顧客で売り上げを拡大させていかなければならないわけですから、営業的に特に力を割いていくという意味で重要なポイントになるのは、自社の商品やサービスをより買ってくれる余地があるか、つまり自社にとって購買力のポテンシャルが大きいかどうか。それが明確になっていないままアカウント型営業に突き進んでいっても、あまり見返りが得られないばかりか、会社にとって損失につながることもあるわけです。逆に、一見シェアが高く「守る」お客様だと思っていても、これからご説明するアカウント型営業の視点で分析すると意外とお取引いただける可能性のある領域で取りこぼしがあり、実は「攻める」お客様であることが分かったりします。

アカウント型営業に必要な二つの活動とは

ヒラタ: ただ思うんですけどね、河村さん。「攻める」ゾーンのお客様というのは確かに魅力的ですが、競争も激しいと思うし、そこに食い込んでいくのもなかなか容易じゃないですよね。

河村: そうですね。だからこそ、長期的なスパンで考えないといけない。単に自社製品を買ってもらうだけではなく、会社あるいは組織ぐるみで関係をつくり、信頼されるパートナーとして認めてもらうことが必要になるんです。ちょっと概念的な話になりますが、営業活動には大きく分けて二つの活動が重要であると考えています。

ヒラタ: 二つの活動……?

河村: 一つは、お客様との間に発生した案件を追いかけていく活動です。まあ、担当営業が行う日常的な提案活動のことですね。もう一つは、お客様と組織対組織での関係を構築していく活動です。この二つの活動を図式化すると、(図4)のようになります。アカウント型営業では、案件対応のループと関係構築のループをバランス良く回していくことが欠かせないんです。

図4 アカウント型営業における2つの活動

図4 アカウント型営業における2つの活動

ヒラタ: なるほど。確かに提案活動ばかりではお客様も疲れてしまうだろうし、関係づくりだけやっていても案件には結びつかない。よく分かります。

河村: また、先ほどの例で言えば、「守る」お客様は提案活動による拡大余地が少ないわけですから、営業に任せるだけでなく、組織対組織の関係を構築して、より関係性を強固なものにしながら営業の負担軽減を行い、その分「攻める」お客様への提案活動を強化する。といったことも考えられます。 さらにもっと言えば、「攻める」お客さまに対しては二つの活動ループが連動していることが重要です。つまり、案件活動を通じた関係構築活動になっているかどうか。実際、お客様に良い提案をして役に立つ存在だと認められたり、良い商品やサービスを納めて感謝されたりすることで、お客様との信頼関係ができていくわけですからね。

「自分を売れ!」はもう通用しない

ヒラタ: でも、少し極端な話になりますが、新規営業の場合はどうなんでしょう? まだ関係もできていないうちに商品の提案なんてしても迷惑がられるだろうし、まずは足しげく通って顔を覚えてもらうことが大事なんじゃないかと思うんですが。

河村: そういうオーソドックスなやり方もありますね。ただ最近はそうでもないんですよ。というのは、お客様も忙しいので用もないのに会ってくれないし、逆にいきなり「提案を持ってきて」と言われることも少なくないんです。

ヒラタ: へぇー、そうなんですか。お客様の方から要求が来ると。

河村: はい。実は営業の世界ではエリア型からアカウント型へという流れに加えて、もう一つ時代の変化というのがあるんです。たとえばヒラタさんは現場で営業回りをしていたとき、上司から「自分を売ってこい」とか「お客様に育ててもらえ」とか言われたりしませんでしたか?

ヒラタ: 言われましたね。特に新人のころは自分を売り込むことが営業だと教えられていました。

河村: そうですよね。だけど、そういうやり方はもう通用しないんですよ。自分を売るとか育ててもらうとか今はそんな時代じゃない。だいたいお客様にとっては関係ないし、なんのメリットもありません。お客様が求めているのは、業務の改善に結びつくような有益な情報だったり、課題解決につながる専門的な知識です。

ヒラタ: 情報や知識?

河村: 特に重視されるのが専門性の高さです。というのはインターネット時代なので、ある程度の基本的な情報はお客様自身で入手されているから。昔は売り手と買い手の間に大きな情報格差があったけれども、今はそれほど格差はない。だから、自分しか売るものがないような営業マンには会っても仕方がないというわけです。

ヒラタ: ……うーむ、厳しいですね。

河村: 逆に有益な情報を持っていれば、先ほども話したように意外と最初のハードルは低いので「すぐ持ってきてよ」となる。それだけお客様は利益になることであればやりたいし、貪欲なんですね。ただし時間がなくて面倒くさいから、イチから自分で選ぶということはしません。だからこそ、専門的な知識を持っている営業がいたら頼りたいと思うだろうし、営業にとっては大きなチャンスになるわけですよ。

ヒラタ: そうか。自分を売るのではなく、専門性や情報収集力があり頼りになる営業だと認めてもらうことなんですね。

河村: ええ。口八丁手八丁で売り込み上手な営業マンより、多少口下手で押しは弱くても、専門的な話ができてお客様の知りたいことに正確に答えられる営業の方がいい。今はそうした誠実さが求められています。だからやっぱり、提案を通じた関係構築が大事なんですね。

 関係構築活動については専門的なモデルを用いて、また後で詳しく説明します。ここまではアカウント型営業の活動の基本についてお話ししてきましたが、次はもう少し実践に踏み込んで話を進めていきましょう。

ヒラタ: よろしくお願いします!

【第1回】営業部門の働き方改革-なぜ可視化や効率化だけでは成果が出ないのか-

アカウント型営業の極意(全7回)営業部門の働き方改革を営業戦略の視点から考える

はじめに

市場が成熟し、新規需要の創出が難しくなった昨今、企業の持続的な成長を支えるためには、B to B営業(法人営業)を担当する部門においても、全方位的なシェア拡大を重視した従来型の営業モデルからの転換が求められています。一方、営業マネジメントに目を向けると、「営業の可視化」や「働き方変革」の名の下にSFA/CRMツール導入による営業プロセスの効率化が多くの企業で進められています。しかし、「効率化」だけに注力した管理では現状との齟齬が生じ、改善を目指したはずの施策が逆効果となりかねません。本稿ではB to B営業(法人営業)が抱える課題を洗い出し、その解決に向けた方向性を提示します。

登場人物

河村: 富士ゼロックス総合教育研究所の営業力強化コンサルタント。主に営業部門の「戦略実行力の強化」「SFA/CRMツールの活用・定着」「働き方改革」などのテーマで活動中

ヒラタ: 大手産業機械メーカーのベテラン営業マネジャー。まじめで前向きな性格だが、最近の環境変化に戸惑っている。河村とは近隣コミュニティーのゴルフ仲間で個人的に親しい間柄

ある営業マネジャーが抱えるモヤモヤ感

ヒラタ: 河村さんは企業の営業部をサポートする仕事をされているんですよね。

河村: はい。主に営業力強化をテーマにコンサルティング活動をやっています。

ヒラタ: 実は、うちの営業チームのことで悩んでいることがあって、河村さんに話を聞いてもらいたいと思っていまして。

河村: いいですよ。なんでも言ってください。

ヒラタ: ありがとうございます! とは言っても、どこから話せばいいのか……。なんだかいろいろあり過ぎて、頭の中がずっとモヤモヤしているんですよね。

河村: そうですか。それでは特に気になっていることを思いつくまま話してみてください。

ヒラタ: まず一つは、何をどうやって売っていったらいいかがよく分からないということです。うちの会社は生産設備や機械の製造・販売を主軸とするB to Bメーカーなんですが、最近は売るものが増えてサービスやシステムを合わせ、ソリューションとして売るようになっていて。商材が変われば、当然売り方や売り先も変えていかなければならない。だけど、モノだけを売るのと違って、サービスも組み合わせたり、サービスそのものを売らなければならないとなると、お客様にどうやって提案したらいいのかがイマイチよく分からなくて、部下に適切な指示が出せないんですよ。

河村: 売り方のノウハウがつかめないと?

ヒラタ: ええ。しかも商品自体が複雑化しているから、現場のセールスには専門的な知識や高い営業スキルが要求される。もちろん、それに対応できているメンバーも何人かはいますが、ほとんどは日々の営業活動をこなすのが精いっぱい、という状況なんです。

河村: なるほど。

ヒラタ: 一方で、新製品が出ると、会社からは重点的にそれを売れという指示が下りてきたりする。つまり、新製品をテコにして売り上げ拡大や新規獲得を図ろうという考え方です。私が営業現場の第一線に立っていたころは、確かに新製品を出せばバンバン売れるという状況がありました。でも、今はそういう時代じゃない。スペックが非常に優れているとか、よほど画期的な製品でない限り、なかなか売れないんですよ。

河村: よく分かります。

ヒラタ: 実際には、そうした新しい戦略や方針が打ち出されても、「忙しくて手がつけられない」とか「本部はお客様のニーズが分かってない」とか、あれこれ理由をつけて現場が新しい戦略に向けて動かなかったりすることもあるんですけどね。

河村: 無意識のうちにメンバーが忌避行動を取ってしまうわけですね。それもよく聞く話です。

ヒラタ: さらにここへ来て、上層部から言われていることがあって。それは「営業を可視化しろ」ということ。科学的な営業マネジメントとでもいうのでしょうか、とにかく営業プロセスを見える化して、定量的に分析可能な形で管理したいということでSFAを導入したんです。ところが、これがあまり使えなくて、残念な状況になってしまっていて……。

河村: 残念な状況とは?

ヒラタ: たとえば、活動データを分析して特徴的な傾向を見つけ出そうとしても、微妙な波形ばかりでよく分からなかったり、「見ないでも分かる」ようなありきたりなことしか言えなかったりとか。あるいは、見積もりを出して一定期間たったところを抽出して営業にハッパを掛けていたりしたのですが、お客様の意思決定スピードがそれぞれ違うため、「それは分かってます、ただこのお客様は・・・」と反論されたり。
何よりも一番の目的は、営業プロセスの標準化、すなわちハイパフォーマーの傾向を分析してメンバーで共有化することにあったのです。しかし、その前に状況が特殊すぎて共感されないんですね。

河村: 「SFAあるある」というヤツですね。

ヒラタ: そもそも、SFAは営業側が望んでいたわけではなく、経営側の強い意向で導入したものなので、自分から積極的に使うはずはありません。ですから、メンバーの入力もおざなりになりがちで。彼らからすると、個別のお客様のことをよく考えて最適な活動をしているつもりなので、そういった定性的な営業行動やプロセスを数字で表せるのか、表して意味があるのか、ということについて疑いを持っているわけです。

河村: セールスの特性でもありますね。

ヒラタ: 私自身、そういう傾向が強くて、現場にいたころは自分なりのやり方で売って、それなりに成果も上げてきました。でも、今はそういうわけにはいかない。先にお話ししたように、昔と比べて売り方が難しくなっているし、しかも、これも当たり前ですが、成長を前提とした目標が課せられるようになっている。なんとかメンバー一人ひとりの営業力をアップして、組織の業績を上げられるようにマネジメントできないかと思っているんですが……。

河村: ……ですが?

ヒラタ: うーん、なんとなく空回りしている感があるんですよね。たとえば、「新規開拓はどう?」とか「新商品の反応はあったの?」と聞いても、「やっています」「いろいろ回っているけど反応なくて」というあやふやな答えが返ってくるだけなんです。彼らは彼らで一生懸命やっているんだろうけれども、どこを回ったらいいのか、どうやってアプローチしたらいいのかがつかめていない。こちらも何を優先的に決めて指導をしていったらいいか分からない。お互いかみ合わないまま、ぐるぐると回っているような状況なんですよ。

市場の成熟化がもたらす商品の高度化・複雑化

河村: ヒラタさんが悩んでいることについて、だいたい理解できました。いくつか原因があると思うので、一つひとつ解きほぐして整理していきましょう。まず、商品をどうやって売ったらいいか分からないということですが。

ヒラタ: はい。

河村: その背景にあるのは、一言で言えば市場の成熟化です。つまり、景気の良し悪しにかかわらず、成熟した市場では全方位的な市場拡大というのは望めません。あるのは既存製品の代替需要か、お客様の意図した事業拡大に伴う需要になります。一見商品に対する需要が低下し、モノが売れにくくなるように感じます。そうした状況では、ヒラタさんがおっしゃる通り、単に新製品を出すだけではお客様は飛びついてくれないし、ましてや新規開拓も進みません。そこで、企業としてはさらに付加価値をつけて売って、周辺需要を取り込んでいこうと考えるわけですね。

ヒラタ: サービスを組み合わせたり、それを含めたシステムを売ったりするということですか?

河村: その通りです。つまり、結果として商品が高度化・複雑化していくのです。そうなると、できるだけ多くの顧客を獲得するために商材を絞り込んで重点的に売っていくという方法は成り立たなくなる。それよりも、限られた少ない数のお客様に対して、より多くの商品やサービスを提供することで長い取引をしていく方が合理的になります。特に、産業材を売り物としているようなB to B企業にとっては、ハードからソフトまで多様化した商材を通じて、一社のお客様と深く付き合っていくことが戦略として欠かせなくなるわけです。

ヒラタ: なるほど。うちの会社でも何社かのお客様とは、そうした取引をしていますが、さらに付き合いを深めて売り上げを伸ばしていくということですね。

河村: 言い方を変えると、市場を面として捉え、いかに自分たちのシェアを拡大していくかというのが従来の営業のやり方でした。しかし、成熟市場では物理的な接点量を増やしただけで開拓できる面というのはほとんど存在しません。ですから、これからの営業においては面で売っていくという考え方ではなく、点である個々のお客様との取引の幅をどれだけ広げられるかという視点が重要になってくるのです。もちろん新規開拓も重要ですが、そこにはまた固有の戦略が必要になり、一緒に語ることはできません。

ヒラタ: 河村さんのおっしゃることはよく分かります。だからこそ、われわれもお客様にサービスを含めた大きな提案をしていかなければならない。でも、それをどうやって契約につなげていくかが難しいんですよ。

河村: 確かに案件が大きくなると、契約を取るのが難しくなるというのはあるかもしれない。でもそれは、取引の過程で関係者が増えるからですよね。特にお客様の課題解決策を提案するソリューション型の営業活動では、意思決定者が何人もいることが当たり前です。私たちは、そうした複数の意思決定者が関わるような営業取引をコンプレックスセリングと呼んでいます。

ヒラタ: コンプレックスセリング……?

河村: もっと詳細に説明すると、お客様の課題の大きさが経営課題や戦略課題に近く、経営上位層まで意思決定に絡んでくるような取引です。また、商談プロセスが複雑なため意思決定までの時間や営業コストがかかります。こうしたコンプレックスセリングを成功に導くためには、綿密な攻略プランが必要になります。

SFA/CRMがうまく活用できない理由・・・営業は掛け算だ

河村: では次に、ヒラタさんを悩ませている問題として、SFAに行ってみましょうか。

ヒラタ: よろしくお願いします。

河村: SFAとはSales Force Automation(営業支援システム)のことで、日本では1990年代半ばから普及し始めました。ちなみに、SFAに類似するツールとしてCRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)があります。両者の違いは、SFAが営業活動管理、CRMが顧客接点管理に視点が置かれていることだけで、機能としてはほとんど同じです。ただし、最初のブームから四半世紀がたった今もなお、SFAを導入した企業の多くが有効に活用できていないのが現状でして、中にはその失敗からSFAをCRMと言い換えている会社もあります。

ヒラタ: どうしてSFAがうまく活用できないのでしょうか?

河村: その前に、経営者が何のためにSFAを導入しようと考えているかについてお話ししたいと思います。ヒラタさんの会社では、「営業の可視化」や「科学的な営業マネジメント」を意図して導入されたということですよね。

ヒラタ: そうですね。

河村: 実はそうしたことを実現するのは、経営者にとって積年の課題なんです。というのも、経営者からすると、営業というのはそのプロセスが見えにくいし、活動の成果も月末に締めてみないと分からない。要するにふたを開けるまで営業活動の成果が分からないというのが不安なんです。どのように活動したら、どれくらいのリターンが得られ、目標に対してどの程度達成できるかということを早い段階から予測したい。それがSFA導入の一番強い動機だと思います。

ヒラタ: 経営層の心理としてはよく理解できます。つまり、工場の生産管理のようなことを営業部門でもやりたいということですか?

河村: おっしゃる通りです。だから、「「Sales Force Automation(セールス・フォース・オートメーション)」なんですね(笑)。ただし、そうした考え方には少し落とし穴があって。

ヒラタ: 落とし穴……? なんでしょう?

河村: たとえば生産管理の場合、どれだけの作業量にどれだけの人を投入したら、どれだけ生産性が上がるか、あるいはコストが下がるかということがほぼ計算できます。しかし、営業活動の管理で果たしてそういうことができるでしょうか。営業の可視化や科学的なマネジメントというのは、あくまでもプロセスを明確化して良い取り組みができているかどうかを分析し、先行管理をするためです。生産性や効率性の側面だけに関心を寄せてしまうと、とんでもない勘違いが起きてしまうんです。

ヒラタ: とんでもない勘違いというのは?

河村: たとえば、効率良く動きましょうということで、提案資料を作成する時間を短縮するために、共通の提案資料で済ませ、それにより1日の訪問件数の目標を3件から5件に増やしたりとか。そうやって効率化した結果、訪問件数は増えたけれど、どこにも刺さらないような中身の薄い提案となってしまい、結局契約が一つも取れなかったということになったら元も子もありませんよね。

ヒラタ: 効率化だけではうまくいかないということですね。

河村: 私はよく、「営業の世界は足し算ではなく掛け算だ」と言っています。生産管理であれば、改善を積み重ねていけば、その分効果は表れるけれども、営業の場合はそれをやったからといって売れるとは限らない。逆に意味のない活動をいくらやっても成果は出ない。ゼロに何を掛けてもゼロにしかならないのと一緒です。SFAの活用においては、量の議論ばかりで、質が問われていないのが問題なのです。

マネジメントが現状に合っていない

ヒラタ: 量より質が大事なのは私自身もよく分かっています。けれども、その質を上げるためにマネジャーとして何をすればいいのか分からないんですよ。

河村: ヒラタさんが抱える悩みの核心の部分ですね。結論から言えば、仕組みをつくらないといけません。

ヒラタ: 仕組み……ですか?

河村: はい。企業が営業力強化を図るときにありがちなのが、トーク力を上げるとかプレゼン能力をつけさせるといった、セールス個人の力をとにかくアップすればいいという単純な思考になることです。さらにSFAを導入し、科学的な手法によって個々の活動分析をして営業生産性を上げよう、つまり「個人の能力×接点量=成果」という方向に行ってしまう。もちろんこの考え方自体が間違っているというわけではありません、かつてのような市場拡大期ならば全方位的に個人の能力を鍛えていくというやり方で正しいのですが、成熟市場ではどういう競争で勝つかという具体的な戦略を立てた上で、営業力を組織的に強化していくことが重要なんです。

ヒラタ: まずは戦略があって、それを実行するための仕組みをつくるということですか。

河村: そうです。その仕組みをつくるための前提として営業戦略がしっかりと定まっていないと、どっちの方向に走っていったらいいか分からないですよね。
で、先ほども話したように、今は「面で売っていく」というやり方ではなく、一社のお客様と長い取引をしていく時代です。ところが、世の中が変わったにもかかわらず、マネジャーの考え方も含めて組織が現状に合った体制になっていない。だから、現場のメンバーと経営を含めたマネジメント層との間で話がかみ合わない。

ヒラタ: そこに関しては、思い当たることがあります。やはり、自分が量を拡大するという売り方でずっとやってきたので、「スピードを重視しろ」とか「できるだけ多く回れ」という言い方で現場のメンバーにハッパを掛けたりしてしまう。それ以外の方法を知らないんですよ。でも、なんの具体性もないから響かないし、言えば言うほど空回り感しかなくて。

河村: 確かに、経験がないからうまく指導できないというマネジャーは少なくないですね。けれども一方で、マネジャーにイチイチ指導を受けなくても、お客様の状況を見て何を提案すればいいか自分で判断しながら活動しているような、アカウント型営業に対応できている勘の良いセールスも実際にはいるんですよ。

ヒラタ: アカウント型営業……?

河村: 特定のお客様と長期的な関係構築を図りながら、多様な商品やサービスを提案していく営業スタイルのことです。私がB to B企業に向けて行っているのも、どうやってアカウント型営業を実践していくか、またその特定のお客様と担当しているその他のお客様をどう効果的に管理して全体の成果を上げていくか、というコンサルティングなんです。

ヒラタ: ということは、営業マネジャーとして私がやらなければいけないのは、アカウント型営業についての理解とそれに即したマネジメントということになりますね。

河村: はい。モノが思うように売れなくなったのは、世の中が変化したという面もありますけれど、組織としてそれに適応できていないということの方が大きい。現場はなんとなく分かっていてアカウント型営業にシフトしているけれど、マネジメント側がその状況を理解できていない。そこに齟齬(そご)の原因があるんです。

その「働き方改革」は間違っています!

ヒラタ: 河村さんの話を聞いて、頭がだんだんスッキリしてきました。せっかくなのでもう一つ、お聞きしたいことがあるんですが、いいですか?

河村: はい、なんでしょう?

ヒラタ: 最近、働き方改革ということで、うちの会社でも残業削減や業務の見直しに取り組んでいまして。ただ営業部門は日中外出していることが多いので、就業時間内に仕事を終わらせることが難しくて、なかなか残業を減らせないんです。どうしたら効率良く働いて、残業を減らすことができるでしょうか?

河村: 残業を減らすことは私の仕事ではないのですが、働き方改革については、政府が推し進める政策的な課題ということもあって、お客様から相談を受けることが増えてきています。しかしながら、営業部門の働き方改革というと、それこそ質の議論をせずに業務を効率化しようと考える方が多くて、そこが間違いのもとになっているんです。

ヒラタ: えっ、効率良く仕事をしようと考えるのはいけないんですか?

河村: いえ、どうやったら効果が出るのかという「質」を先に考えるのが重要で、「量」を減らすというのはその結果だということです。営業の効率化というのは、生産工程や他の管理業務と違って、活動の質がまずは問われなければなりません。

ヒラタ: 具体的にはどうやって効率化すればいいんですか?

河村: まずは業務の仕分けを行います。その際にも質の議論から始める。そもそも営業が成果を上げるためには、それぞれのお客様との接点でどのような活動をどれくらいしなければならないか、そしてその接点活動を行うために障害となっている負担活動は何か。それがはっきりした上で、それは負担ではあるが営業がやるべき主要業務なのか、それともただの負担である付帯業務なのかを仕分けします。たとえば専門的な仕事か、一般化できる仕事か、全てお客様固有で標準化できない仕事か、次の営業接点につながる仕事か、などさまざまな角度から検討します。それをやった上で、不要な業務を省いたり、他の人やツールに代替させたり、あるいは仕組み化したりして効率化を進めていきます。

ヒラタ: なるほど。そうやって、セールスが本当にやらなければいけない仕事だけをやれるようにするわけですね。

河村: 実は営業部門の働き方改革においても、アカウント型営業の発想が必要になります。なぜかというと、営業の質を高めるには、関係を深めたい特定のお客様を絞り込んで、メリハリをつけた営業活動をしていかなければならないからです。
いくらセールスの付帯業務を省いても、本業である営業活動のメリハリがついていないと、また別の優先度の低い営業活動に忙殺されてしまい、営業成果につながらず、仕事が完了しないからです

ヒラタ: コンプレックスセリング、アカウント型営業、質の議論から始める働き方改革……。これまでの自分の営業観を覆されるだけでなく、新しい営業の可能性を感じてなんだかワクワクしてきました。できれば、もっと詳しく知りたいです。また改めて、お話を伺ってもよろしいですか?

河村: もちろん、いいですよ。次回は資料やデータをお見せしながら、ご説明しましょう。

効果的な営業力強化研修を選ぶための事前準備と4つのポイント

改めて言うまでもないことですが、営業力があるかないか、高いか否かは、会社の業績に大きく影響します。ビジネス環境がめまぐるしく変化するなか、今よりさらに業績を上げたい、あるいは低迷しつつある業績をV字回復させたい――そのように考える企業にとって「営業力強化」は、率先して取り組みやすい改革テーマでもあるでしょう。

とはいえ、「営業力」とひと口に言っても、具体的に「何を」「どこを」「どのように」強化していけばいいのかは会社ごとで変わります。営業人材の底上げを図るのか、営業プロセスや仕組みの問題を改善するのか、戦略的な考え方を浸透させていきたいのかなど、求める部分は各社それぞれで、強化すべき課題も各社で異なるからです。経営から自社の営業力が弱いので研修を考えろと指示されたとしても、営業現場には、そもそも研修に時間を取られたくない、やるとしても具体的で、すぐに成果につながるものにしてほしいという要望があります。

自社が抱える課題に対応しない研修を導入すると、導入の成果は思うように上がっていかず、「やってみたけれど失敗だった」になりかねません。せっかく時間、ヒト、費用といったリソースを投入して行う以上は、受講者から「受けてよかった」「現場で具体的に活かしやすい」「メンバーの雰囲気やモチベーションが変わった」といった喜びの声が上がり、さらに営業活動の成果にもつながるような、研修担当者自身も「やってよかった」と実感できる研修にしたいものです。

ここでは「自社の営業力を強化したい」と考え、そのためのサポートとして研修プログラムを活用する際、「受けてよかった」「やってよかった」と実感できるよう、どのような視点で研修内容や研修依頼先を選ぶとよいか、基本となるポイントをまとめました。

営業力強化研修を依頼する前に自社で事前にやっておくとよいこと

まずは、研修担当者として事前に行っておくべきことを事前準備としてあげておきましょう。

それは、「自社の弱点・課題/めざす方向性の把握」です。

中長期計画などから自社がめざす方向性を改めて理解し、それを実現させるには、現時点で何が不足し、どこに弱点や課題がありそうかを大まかでよいので整理しておくということです。

事前に整理して大体の傾向を把握しておけば、「その弱点や課題を補ってくれそうな研修プログラムや研修提供先を選ぶ」といった選定基準を持つことができ、導入する営業力強化研修を有益かつ有効なものにしていくことができます。

営業力強化研修を有益なものにするための4つの着眼ポイント

では、実際の選定にあたっては何をポイントとして考えていけばよいのでしょうか?
研修プログラムならびに依頼先を選んでいく際の基本的な着眼点としては、次のような4つのポイントが考えられます。

営業力強化研修の着眼ポイント

  1. 自社の営業の弱点を分解して具体的に示してくれる
    第三者視点で自社の営業の現状を因数分解し、弱点・不足点・改善点などを個別具体的に明らかにしてくれるものであること
  2. 具体的・実践的に「いま何が必要か」を指摘してくれる
    一般的・抽象的な内容ではなく、営業の成果につながるよう、自社の弱点を改善するために、いま何をすればよいかを具体的・実践的に学べる内容であること
  3. 最終的なゴールを示し、一里塚で進捗をフィードバックしてくれる
    最終的にこうなってもらいたいという「あるべき姿」が示されていること、さらにゴールに向かうまでの要所要所で研修の成果や受講者の成長(途中経過)をフィードバックしてくれる仕組みになっていること
  4. 潜在的な課題に気づかせてくれる
    研修を通して、それまで見えなかった課題や気づかなかった問題点を気づかせてくれるような内容のものであること

こうしたポイントを意識して選ぶようにするとよいでしょう。

「わかっているけどできない!」は本当ですか?②~なぜ正しく「理解」できないのか、そのメカニズムと正しい「理解」を獲得するためのコミュニケーション~

株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所
コンサルティング部 戦略実行コンサルティンググループ
河村 亨

目次

戦略を「理解する」ときの「壁」—メンタルモデルとスキーマ

コラム1では、戦略実行においては「戦略の正しい理解」という最初の段階でつまずいているケースが非常に多いこと、そしてそれが戦略実行を遂行する上での障害になっていることを、さまざまな事例を挙げて説明しました。 では、なぜ正しい「理解」ができないのでしょうか。今回はその理由について、学術的な側面から、認知心理学の世界でよく使われているキーワードに沿って明らかにしていきたいと思います。

人は物事を捉えようとするとき、まず自分の脳の中にある記憶や概念に照らし合わせようとします。このような、人が物事を理解するために前提として持っている「認識の枠組み」のことを、認知心理学の用語で『メンタルモデル』と言います【図1】。

column02-fig-01
図1 メンタルモデル

メンタルモデルは本来、人間が持っている素晴らしい機能です。さまざまな情報を類型化して認識するメカニズムがあることで、理解を助け、それによって素早い判断や行動ができる。また、伝える側にとっても伝達コストを下げます。人が「一を聞いて十を知る」ことができるのも、まさにメンタルモデルあってこそなのです。

しかし、このメンタルモデルも、状況によって悪い作用をもたらします。あらゆる物事をまず型にはめて考えるため、さまざまな誤解も生じ易いのです。例えば、上司が何の他意もなく、部下一人ひとりに「頼りにしているよ」と声をかけたとします。最近成功続きの人は『何かに抜擢されるかも』と勝手にワクワクするかもしれませんし、逆に失敗続きの人は『次は失敗するなよ』と嫌味を言われたと思い、勝手に落ち込むかもしれません。メンタルモデルによって、私たちの脳は、「理解しやすいけれども間違えやすい」というジレンマをそもそも抱えているわけです。

このメンタルモデルが、「戦略の正しい理解」を阻害する第一の“壁”とするなら、さらに第二の“壁”として立ちふさがり、悪さをするのが『スキーマ』です【図2】。

column02-fig-02
図2 スキーマ

 

正しい理解を促進させるには?—「思考させるコミュニケーション」とメタ認知

メンタルモデルやスキーマによって、戦略の理解が阻害される。では、どうしたらそれを解決できるでしょうか。
結論から言うと、「思考させるコミュニケーション」によって、自分は戦略を正しく理解しているか、戦略についてどう思っているのかを本人に自覚させることが必要です。これも認知心理学の用語で『メタ認知』と言いますが、自分が理解していないということを客観的な視点から知るという方法です。
そのために重要なのが多角的なコミュニケーションです。当たり前ですが、ただ話すだけより、(ドキュメントで)見せる、しゃべらせる、手を動かして書かせる、対話をする、そしてそれらを踏まえて、最も重要なのが「思考させる」ことです。余談ですが、これは、相手に質問をすることで、何をすべきか考えさせ、答えを導かせるコーチングの手法と同じです。

それでは、「思考させるコミュニケーション」における効果的なやり方について、ツリー図【図3】を使って整理してみましょう。

column02-fig-03

図3 思考させるコミュニケーション手段

 

まず、効果的な思考には、アイディア出しをする「拡散」と、実際の行動に落とす「収束」という段階があります。そして、それぞれに対して「能力的」な側面を助ける方法と「意欲的」な側面を助ける方法があります。まず能力的な側面を助ける方法として、共通の「フレームワーク」を活用するというやり方が効果的です。フレームワークというのは、簡単に言うと考え方の手順を示す枠組みのことですが、詳しい説明は後に譲ります。フレームワークを活用することにより、拡散の段階ではアイディア出しのきっかけとなり、収束の段階では整理の助けとなります。
一方、「意欲的」な側面を刺激する手段として、「自己決定」を促すコミュニケーションが効果的です。これにより、拡散の段階では本人のオーナーシップを刺激し、収束の段階ではコミットメントを得る手段となります。

 

戦略展開のキーワード—「フレームワーク」と「自己決定」

正しい理解を生むには思考させ気づかせることが重要であり、そのためには共通のフレームワークを使い、「自己決定」を促すコミュニケーションをすることが有効である、という話をしました。この2つについて、さらに詳述してまいりましょう。

「フレームワーク」は、先ほど考え方の手順であると説明しましたが、ここでは、「限られた時間や制約の中で効率的に対話し、ゴールに到達するための方法論」と再定義しておきます。共通言語、図表、帳票、ワークシート、分析ツール、対話を促すファシリテーションなど、ありようは何でも構いません。要するに、物事を整理するための「共通の棚」のようなものです。「共通の棚」がないと、話をどのように進めていいのかわからず対話が滞ってしまう場合や、中身がないままダラダラ話しているだけで理解も進まず、いつまでたっても話が具体化しません。フレームワークを使うことは、実は戦略の正しい理解において欠かせないことなのです。そして、このフレームワークの活用は、もう1つの「自己決定」を促すコミュニケーションにも大きく関わってきます。

では、「自己決定」を促すコミュニケーションとはどういうことでしょうか。それは本人が自分で考え、自分自身の課題として認識し、主体的に関わるように仕向けることです。つまり、自己決定に基づくコミットメントへと意図的に誘導していくことを意味します。
主体的に関わるように仕向けるには、フレームワークに基づき、自分自身で考えさせ、自己決定を引き出すような「問いかけ」を活用します。たとえば、まず考えさせる問いかけ(ex.「君はどう思うんだい?」)があり、次に思考を拡大させる多角的な問いかけ(ex.「もしこの制約条件がなかったらどうなるだろう?」)、そして結論とアクションを引き出す問いかけ(ex.「何をどこまでやるんだい?」)という流れにして、フレームワークを使いながら自己決定へと導いていく。戦略展開においては、フレームワークと自己決定は車の両輪の関係であり、どちらかが欠けてもうまく行きません【図4】。

column02-fig-04

図4 「フレームワーク」と「自己決定」の特徴および相互関係

 

それでは、どういう場面で使えばいいのでしょうか?最も効果的なのは、戦略策定段階から現場を巻き込むことです。戦略実行の計画づくりに本人を巻き込み、何をやるべきか、どうやってやるのかを決めるところから考えさせる。そのときに、「フレームワーク」と「自己決定」を活用した効果的な対話やコミュニケーションがカギになるわけです。
ここで重要なのは、あくまでも戦略を正しく理解させるために考えさせることが目的であるということ。つまり、巻き込むこと自体に大きな意味があるのです。決して、やるべきことがあるのに、一から考え、現場で覆すということではありません。本部が策定した戦略を「決まったこと」として現場に伝えても[本部=いろいろ押し付けてくる]というスキーマが出来上がっていますから、まったく頭の中に入っていきません。そこで、本人に意見反映の余地を持たせ、戦略を考えさせ、結論を出させる。極端な言い方をすれば、“巻き込んだ風”に計画策定のプロセスをなぞらせ、戦略と同じ結論に至ればそれでいいわけです。事実、ほとんどの場合、意図的なリードをしなくても、同じフレームワークを使えば、現場で考えても、本部と同じ戦略が導き出されます。
下のグラフを見てください。

column02-fig-05

部門戦略に関する意識調査

これはコラム1でも触れた意識調査の結果の一部です。この組織ではあまり戦略浸透がされていなかったため、上記のような巻き込み型の展開を図ったところ、一年後、「戦略は、自分が考えていたことと同じようなものだった」ことが理解でき、その結果「やりがいを感じた」ということが顕著に出ています。

それにしても、戦略を正しく理解させるためとはいえ、何とも手の込んだやり方だと思われるかもしれません。ただ前述の通り、巻き込むこと自体が目的なのですから、準備さえきちんとしておけば、洗練された効率的なやり方で巻き込むことができ、負荷もロスもほとんど発生しません。逆に、こうした戦略を自分の中に落とし込む契機がないと、全く理解もないまま実行されなかったり、たとえやったとしても、本質が掴めていないので型どおりのことしかできなかったり、結局は何の成果も上がらないという最大のロスにつながるのではないでしょうか。そして何よりも怖いのが、「やってだめだった」(戦略が良くなかった)のか、「やり方がまずかった」のか、ただ「やらなかった」のかも分からない、あやふやなレビューのまま翌期の戦略が練られ、事業の方向性までも見誤る、といったより大きな代償として返ってくることです。

 

関連する記事

【戦略実行】「わかっているけどできない!」は本当ですか?シリーズ

 

「わかっているけどできない!」は本当ですか? ①~営業現場における「戦略実行を引き出すコミュニケーション」の活性化事例~

株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所
コンサルティング部 戦略実行コンサルティンググループ
河村 亨

目次

はじめに

「我々の事業の目的は、より良いコミュニケーションを通じて、人間社会のより良い理解をもたらすことである」

これは50年前にゼロックス創業者のJ.C.ウィルソンが残した「ゼロックス・フィロソフィー」です。私は企業コンサルティングに携わる者として、また富士ゼロックスの関連会社の一員として、日々この言葉を深く噛みしめています。なぜなら、10年以上に及ぶ成果創出に向けたコンサルティング活動においても、また戦略実行の場においても、より良いコミュニケーションによってより良い理解を促進することがいかに重要であるかを痛切に実感しているからです。 よく戦略を実行する現場では「分かっているけどできない」という表現が使われます。ただ、よほど突発的な事象が連続して発生したのならともかく、その多くは「実は戦略を分かっていない」または「戦略を実行することは日々の活動より優先度が低いと理解している」といった状態ばかりです。

戦略実行がうまくいかないのは、結局、戦略に対する理解の不足にあるのではないか。その不足を埋めるためにどういうコミュニケーションをすればいいのか……。本稿では以上のことを趣旨に、論考を進めてまいります。

戦略実行における課題 —言ったことをやらない、言った通りにしかやらない

戦略実行における課題は、戦略の発信側(経営サイド)から見たとき、大きく分けて2つあります。1つは営業現場が「言ったことをやらない」こと、もう1つは「言った通りにしかやらない」ことです。
前者の事例を1つ挙げましょう。「新製品がないから売れない……」普段そうぼやいている営業マンがいる。では、特徴的なスペックを持つ新製品が出たとき、すぐにそれに飛びつくかとういうと、そうはならない。トップから拡販指示が下りているにもかかわらず、新製品だけに初期不具合や故障があるかもしれない、サポートが追いつかないかもしれない、なにより自分自身が新しい商品知識を覚えられないなどの先入観や不安から腰が引けてしまい、販売が全く進まないというケースがよく見受けられます。その結果、単に新商品が売れないだけでなく、新領域のポジション獲得に取り組みもしないうちに失敗感が植え付けられ、その分野の販路拡大の可能性まで摘まれてしまうのです。

更にこういった場合、経営側は大抵、新商品の販売目標を上乗せしています。すると今度は、「要は売れればいいんでしょう」等と勝手な解釈をし、帳尻を合わせようとして営業マンが既存顧客への既存商品のムリな押し込み販売を行い、それによって予算は達成したものの、顧客内に翌期に響く在庫が残ってしまったり、顧客との信頼関係が損なわれてしまうということが起こります。
これらはまさに、営業マンが新商品の戦略的重要性や関連性を理解していないことにより引き起こされます。

戦略実行における「理解」と「納得」—正しく理解していないから、納得していない

ここで、戦略実行について基本的な理解の枠組みを押さえておきましょう。戦略は、まず戦略そのものを理解し、理解したものに納得し、納得したものを実行し、実行することで定着していくという段階を経て、戦略目標の完遂度が上がっていきます【図1】。

column01-fig-02
図1 戦略実行の段階

特に、戦略を最後までやり抜くためには、その納得する度合いを高めることがとても重要で、これについては我々の研究結果からも確認されていますし、どなたからも共感いただけることだと思います。ここで私が問題にしたいのは、果たしてその納得というのは、正しい理解に基づいた上での納得かということです。
「理解」と「納得」の関係について、さらに突き詰めましょう。図式的に分類すると、

  1. 正しく理解した上で納得している
  2. 正しく理解しているが納得していない
  3. 正しく理解しておらず納得もしてない
  4. 理解していない、あるいは間違って理解したまま納得している

という4つのパターンが考えられます【図2】。

column01-fig-03
図2 理解と納得の関係

このうち、今回私が照準を当てたいのは(3)、すなわち、間違った理解や不十分な理解によって(それゆえに)納得していないというケースです。
たとえば、戦略を説明すると、「それは前に聞きました」とか「前にやりましたが、ダメでした」と言う人のほとんどは、イメージだけで実は戦略についてほとんどわかっていないのではないか。あるいは、「うちの会社は戦略を立ててはあれこれ施策として営業現場にを落としてくるけれど、そんなのやってられないよ」と言う人は、実際に何が施策なのかすら理解していないのではないかというものです。

戦略実行における「理解」と「納得」—そもそも戦略が理解されていない

こうした仮説を検証するため、事例を提示します。
我々は戦略実行のコンサルティングに入るとき、最初にその対象組織のマネージャーとメンバーに意識調査を行います。調査のポイントは、戦略に対する「理解」「納得」「実行」の度合いを確認すると同時に、その戦略実行に向けてマネージャーはどのようなマネジメントをしているか、各メンバーはどのような営業活動を展開しているのかを確認します。
これらの要素に対して50問程度の質問項目に7段階でその実行度を自己と他者で評価します。【図3】

column01-fig-04

図3 調査の構成

この調査の、戦略の「理解」「納得」「実行」に関する部分を、ある企業に対して行い、営業所別に集計したものが【図4】です。

column01-fig-05

図4 調査結果に見る戦略理解のレベル(A社/営業所別)

各営業所の3つの棒グラフの高さを比べてください。同じように戦略が展開されているはずなのに、営業所間で結果に大きくバラツキがあります。また面白いのが、本来正しい理解をしていれば、理解→納得→実行と段階が進むに従って、歩留まりが生じるため、右肩下がりの並びになるはずですが、結果は、ほとんどがそうではなく、むしろ山型が多い。つまり、十分に理解していないけれどなんとなく納得して実行しているということになりますが、何をもって納得しているのかが不可解です。
この調査では続けて、「あなたが意識して取り組んでいる戦略は何か」という質問を行い、自由記述による回答を得ています。
そして、理解度のレベルが一番高かったG営業所の回答をまとめたサンプルが【図5】です。

column01-fig-06
図5 調査結果に見る戦略理解の内容(A社G営業所)

理解度の一番高いG営業所でも、回答内容はバラバラで共通性を見出せません。実際には重点市場に関する戦略や施策について何度も発信されていますが、キーワードすら含まれていない。そればかりか、「相互に協力し合う」とか、「成功と失敗を次につなげる」とか、標語や精神論のような、およそ戦略と呼べない記述も目立ちます。これもこの会社だけのことではなく、トップが「戦略を徹底している」と豪語する企業を含め、どの企業でもほとんど同じ傾向になります。
以上から言えることは、戦略に納得する・しないという段階の前に、そもそも戦略が正しく理解されていないという問題があるということです。

我々が「理解」と思っているもの—実は思い込みや勘違い?

もう少し「理解」について、違った角度から掘り下げてみましょう。先の意識調査で高業績チームと低業績チームをピックアップし、それぞれのマネージャーが選んだチーム内の高業績者と低業績者を対象に、定量調査を行いました。調査の内容は、マネージャーがチームに関わっているか、自分のやっていることが戦略と合致しているかの2点です。
まずは前者の調査結果から【図6】。

column01-fig-07
図6 高・低業績チーム別 メンバーのマネージャー評価

 

高業績チームはマネージャーの取り組み姿勢に対するメンバーの評価が高いことがわかります。高業績者と低業績者の評価に一部バラツキが見られますが、これはマネージャーの関わりが密であるがゆえに、関わり度合いに応じて個人の評価が分かれると考えられます。一方、低業績チームは、マネージャーの関わりそのものがほとんどないため、高業績者と低業績者のどちらも評価が低く、バラツキが見られません。
では、メンバー自身の、戦略実行に向けた日々の営業活動に対する自己評価はいかがでしょうか【図7】。

column01-fig-08

図7 高・低業績チーム別 メンバーの自己評価

高業績チームは高業績者も低業績者も自己評価のレベルがほぼ一致しているのに対し、低業績チームは両者の評価にかなりの開きがあります。
これは何を意味しているのか。低業績チームはマネージャーの関わりが薄いので、自己評価が客観的でなく、個人の業績を他と比べた主観的な評価になりやすい。そのため、高業績者は自信過剰になり、逆に低業績者は自信喪失になるのです。
では、高業績チームで自己評価が一致するのはなぜか。優秀なマネージャーは、人によってコミュニケーションを使い分けます。できる人にはもっと高いレベルを要求し、できない人には自信を持たせるような関わり方をする。その結果、メンバーの自己評価が高すぎず低すぎず、一定のところで安定するのです。

ここで私が言いたいのは、人の理解というのは、所詮、主観的なものだということです。つまり、低業績チームの高業績者が自己評価を高く見積もるのと同じように、自分が理解していると思っていることは、実は思い込みや勘違いだったりするということです。

以上まとめると、戦略実行がうまく行かないのは、戦略の理解という最初の段階でつまずいていることが実際に多い、というのがコラム1の結論です。
そこでコラム2では、なぜ「理解」ができないのかという理由を、学術的な観点から明らかにし、理解を促進するための基本原理について考察していきます。

 

関連する記事

【戦略実行】「わかっているけどできない!」は本当ですか?シリーズ

 

「わかっているけどできない!」は本当ですか?③ ~正しい「理解」がもたらす成果・戦略実行コンサルティング事例とフレームワーク~

株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所
コンサルティング部 戦略実行コンサルティンググループ
河村 亨

目次

「X’S-MAP(クロスマップ)」とは何か

私たち富士ゼロックス総合教育研究所が戦略実行のマネジメントツールとして提供し、富士ゼロックスの営業部門でも10年近く取り組んできた「X’S-MAP(クロスマップ)」というフレームワークがあります。これは、Xerox(ゼロックス)、Strategy(戦略)、Market(市場)、Account(顧客)、Process(プロセス)という、営業をマネジメントする上で重要な要素となるもの、それぞれの頭文字をとって名付けたものです。戦略を実行する上で、ターゲットとなる市場やお客さま、取り組む施策や活動プロセスなどを可視化し、一貫して運用していくためのフレームワークです。まずは、以下に「X’S-MAP」の骨子について説明します。

戦略を立案し、展開するためには「何を」、「どこに」、「どのように」の3つを明確にすることが重要です。これらをフレームワークで可視化したものが、【図A】になります。

column03-fig-01
図A X’S-MAPフレームワークの骨子

では、これらについて個々にご説明していきます。

(1)戦略遂行の可視化…「何を」

お客様にどんな価値を提供するのか、そのためにどんな施策を打つのかといった戦略を可視化するフレームワークです。バランススコアカードの考え方を導入し、財務の視点(売上、利益など最終的にどのような財務的成果を上げるのか)、顧客の視点(その売り上げをあげるためにどのような価値を提供し、評価されるのか)、プロセスの視点(その価値をお客様に提供するために、組織として[施策など]何をするのか)、学習と成長の視点(その施策が遂行できるよう、育成やインフラなどの仕組みをどう整えるのか)を関連付けて明らかにしていきます。更に営業部門としての戦略ですので、例えば「攻める戦略」「守る戦略」「効率化する戦略」など、(総花的で絵に描いた餅にならないよう)戦略群とターゲットを明確にし、メリハリと一貫性をもって整理・運用していく必要があります。

column03-fig-02

(2)市場の可視化…「どこに」

上記で触れたように、営業戦略には、攻める戦略、守る戦略、効率化する戦略がありますが、次にどの戦略をどのようなお客さまに対して展開するのか、それぞれのターゲットを可視化し、営業としての対応姿勢を規定するフレームワークが必要です。このとき、お客さまを次の2つの軸で評価し分類します。1つはお客さまの総購買力。自社の製品・サービスをどれだけ買ってくれるかというポテンシャルであり、魅力度とも言い換えられます。もう1つは現時点での自社との取引状況、特にインナーシェアです。この2つの軸で高低を評価したとき、図のように4つのゾーンに分けられますが、それを上記の戦略群と次のように連動させて考えます。

column03-fig-03

まずは購買力が高く、インナーシェアも高いAゾーン。ここは《最重要顧客》、いわゆる「お得意さま」です。自社にとって守る市場であり、組織的関係構築(会社対会社の関係)を重視した守る戦略が必要です。
では購買力が高いのにシェアが低い、あるいはまだ取引のないBゾーンはどうでしょうか。ここは一番力を入れて関係性を強化したい《重点攻略顧客》ですので、もちろん差異化による攻める戦略が必要になります。
しかし悲しいかな、放っておくとつい足しげく通ってしまうのがCゾーンの顧客です。会社の規模は小さいのですが、自社製品の扱いの割合が大きいため、手堅く一定の売上げが見込めるからです。アポなしで会えて、取引に関して何でも教えてくれて、場合によっては決算時期の無理な“お願い”も聞いてくれる。担当する営業にとってはありがたいお客さまですが、ついつい売り上げ規模に対して過剰サービスになりがちです。ここは組織的支援と意識改革により効率化を図り、活動時間を減らし、その分を重点攻略顧客に再配分したいところです。
購買力もシェアも低いDゾーンに対しては、あえて戦略を立てるまでもありません。むしろ何もしないことを徹底させることが重要です。

(3)活動プロセスの可視化…「どのように」

(2)でお客さまを振り分けた後、それぞれに対してどのようなプロセスで活動していくかを可視化するフレームワークです。最重要顧客、重点攻略顧客、効率化顧客に対して異なる活動シナリオが必要となります。特に重点攻略顧客に関しては、これまで、普通にやって上手くいっていないわけですから、案件ごとに個別の攻略シナリオをつくり、緻密な戦略を練った上でアプローチをかけます。

column03-fig-04

戦略展開の実行手順

さて、以上のフレームワークを使って戦略策定をし、実行していくわけですが、メンバーに戦略を理解させる上で特に重要なのが(2)のお客さまの分類です。本部からの一方的な指示で動いていると、営業はどのお客さまが本当に重要な顧客なのかがわかりません。単純にたくさん買ってくれるお客さまが最重要顧客だと思っていたり、あるいは顧客に(上記のような4タイプ含め)タイプがあることさえ認識していない場合もあります。ですから、まずはお客さまの層別の段階からメンバーを参画させ、評価軸や枠組みを自分たちで考えさせるところから始めます。お客さまの層別ができると、それぞれのゾーンにどれくらいの時間を配分し、どのような基本行動を取るべきなのか、という活動リソースの最適化が見えてきます。ここまで来ると、戦略の理解がかなり進みます。
コラム2では、「重要なのは計画策定にメンバーを巻き込むこと自体が重要なのであって、一から考え、やるべきこと(戦略)を覆すことではない」。とご説明しました。したがって、マネージャーは、結果ありきではないという姿勢を示しながらも(意見を求めながらも)狙った結果に収束するようにリードしていかなければなりません。洗練された効率的なやり方によって、メンバーの負担もロスもなく巻き込むことはできますが、そのためにもマネージャー自身は十分な準備とファシリテーションのスキルが必要となります。
またこの場合は、戦略そのものの策定段階から巻き込む必要はありません。考えることが重要なのですから、ターゲットを選ぶことを真剣に考えれば、自然と実施する内容やその意義についても対話がうまれますので、必然的に戦略自体への理解も深まっていくわけです。 何を(戦略)どこに(ターゲット)が決まったわけですが、それだけで行動が生まれるわけではありません。ただ「Bゾーンの顧客には活動ウエイトを40%以上割くように設定したのだから、ちゃんと訪問するように!」と言っただけでは、訪問してどうするのか(具体的行動の理解)、訪問したらどうなるか(実施の意義の納得)、がイメージできず、行動までたどり着きません。
そこで、重点攻略顧客に対して攻略シナリオが必要となります。攻略シナリオとは、当面のゴールである受注に辿りつくまでには、いつまでに何をやるべきか(どのような合意をいただくか)というマイルストーンを受注予定日から逆算して設定し、それぞれの達成期日を明確に(明文化)することを指します。こうした攻略シナリオもメンバー自身に考えさせるようにして、自己決定を導き出します。
こうした戦略実行におけるマネジメントをマネージャーが主体的に行えるように指導するのが私たちコンサルタントの仕事です。【図B】

column03-fig-05
図B 現場支援イメージ

まずは勉強会で戦略展開の基本フレームワークを共有し、次に現場で実際に戦略実行のマネジメントをしてもらいますが、私たちはそのパートナーとして、マネージャーが自走できるようにマネージャーに個別のコーチングを行います。

戦略展開の実践事例

これらのコンサルティング施策は通常、まず選抜チームを対象に試験的に実行し、活動実績を作り成果を確認した後、全社展開をします。
その実践例として、ある製薬会社のMR(医薬情報担当)を対象に行ったコンサルティング事例を紹介しましょう。

注記
本事例は秘匿性を確保するために、意味合いを考慮した上で、内容・表現を変更しております。
まずは先ほど説明したように、本部戦略をマネージャーレベルですり合わせた後、現場勉強会での戦略確認やお客さま評価軸の検証によるゾーン別の活動指針を決めました。重点となるBゾーン顧客に関しては、個別の案件攻略シナリオを策定しました。攻略シナリオはマネージャーとメンバーですり合わせを行い、メンバーの退出後に、マネージャーに対して私たちが質問や指導を行う、という要領で施策を実施しました。

今回は全国展開する営業所の中から2つの営業所を選抜し、施策を実施しました。
効果はどう現れたか。まずゾーン別活動比率の変化を見てみましょう【図C】。

column03-fig-06
図C 活動ウエイトの推移

施策開始後、活動が経過するにつれて、Cゾーン顧客への訪問が減り、Bゾーン顧客への訪問比率が大きくなっています。Cゾーンの効率化と、それに伴うBゾーンへの活動時間の充当という、狙い通りの結果です。 次に各ゾーンに対する活動プロセスの内訳はどうか【図D】。

column03-fig-07
図D 活動プロセスの推移

縦軸の(1)~(7)は活動プロセスの段階を時系列で示しています。Bゾーンはこれから攻略する顧客なので、プロセスの前段活動(アプローチや課題共有)の時間が増えることが望ましいと言えます。実際、Bゾーンの活動プロセスの変化を見てみると、プロセスの前段活動の訪問が増え、特に(2)の課題共有での訪問に関しては3ヶ月目に劇的な増加が見られました。
面談時間の変化はどうでしょうか【図E】。

column03-fig-08
図E 活動レベル(面談時間)の推移

他業界の方にはイメージし難いかもしれませんが、製薬会社のMR(医薬情報担当)にとって、ドクターとの面談は時間が勝負です。Bゾーン顧客への面談時間の変化を見ると、1ヶ月目より2ヶ月目、3ヶ月目の方が1回の面談時間が長くなっていることがわかります。挨拶程度、または歩きながらの周知の段階から、足を止めて話を聞いてもらえる状態になり、次第にアポイントを伴うきちんとした面談になっていく、という攻略シナリオに沿って事前準備をきちんと行うことでの効果が出てきたことが読み取れます。
では、どんな商品を提案できているかについて見てみましょう【図F】。

column03-fig-09
図F 活動内容(情報提供分野)の推移

魅力度の高いお客さまに対して、わざわざシナリオを練って新規取引を拡大するわけですから、これまでの商品を同じようなやり方で紹介するのでは意味がなく、やはり戦略商品や新商品などの新しい価値をそれに見合ったやり方で紹介しなければなりません。結果は狙い通り、活動が経過するにつれてBゾーン顧客に対する戦略商品の提案が増え、それに引っ張られて他の新商品の提案も増えていきました。
以上は行動の変化ですが、それによって営業成果は上がったのか。Bゾーン顧客における対前年比の実績(売上ベース)の伸びを比較してみます【図G】。

column03-fig-10
図G 営業成果I「Bゾーン顧客における売上伸張率」の推移

施策を実行した2営業所(E、I)のいずれも6ヶ月で実績が伸び、特にE営業所では上期(4月~9月)でマイナスだったのが、下期(10月~3月)で倍以上の大幅な伸びになりました。

Bゾーン以外も含めた全体実績の伸長率を見ても、施策開始前の2営業所の平均伸長率は他営業所のそれを下回っていたのに、時間が経過するにつれて上回るようになってきました【図H】。

column03-fig-11
図H 営業成果II「全顧客における売上伸張率」の推移

この結果から、Bゾーンに活動を集中させたことで実績の総量が伸び、また活動を効率化しても実績が落ちないことが読み取れるかと思います。

以上の事例は医療業界ということで特殊な成功例だと思われるかもしれませんが、一般の企業でも同じような結果が得られます。もちろんいきなり売上増というわけにはいきませんが、たとえばある装置メーカーでも、戦略新製品の拡販計画で同様の施策を展開したところ、対象営業所では、活動を始めてから3ヶ月後辺りから新規案件の発生数が上がり、最後は飛躍的に増加するようになりました【図I】。

column03-fig-12
図I 営業成果III「その他業界における新商品新規案件発生数」の推移

ここはサポートやメンテナンスの仕方がわからないという理由で新製品が動かなかった会社ですが、戦略策定での巻き込みにより「やってもムダ」という営業担当者の意識(スキーマ)が変わり、営業活動にきちんと取り組むようになったことが成果として現れたのです。

さいごに

さて、コラム1から3回にわたって、戦略実行における戦略の正しい理解と、それを促進するための効果的なコミュニケーションについてお話してまいりました。伝え方ひとつで理解が進み、理解が進むことによって行動が変わる。そして行動によってさらなる理解が促進されるというサイクルが回り出す。そうしたサイクルこそが戦略実行をやり抜くための推進力となっていくわけです。
そのための仕掛けとして、私たちが戦略実行のコンサルティングで展開しているフレームワークと施策についてご紹介しました。「とにかく動け」といった命令ではなく、自己決定によるコミットメントを引き出すことで自律的に行動させること。そうしたコミュニケーションやマネジメントの重要性をご理解いただければ幸いです。

関連する記事

【戦略実行】「わかっているけどできない!」は本当ですか?シリーズ

臆病な営業担当者のための経営層へのヒアリング法 ~ カウンセリングに学ぶ営業面談の心構えとスキル ~

コンサルティング営業2部
小杉 和也

■はじめに

「営業担当者が顧客の経営層に会えていない」「購買部門や総務部門とばかり面談して企画部門やキーマンと面談できていない」。営業を統括している役員や部門長と面談したときに、このような相談をよく持ちかけられます。

企業が購買決定する際には、複数の部門にまたがる合意形成と経営層の意思決定が必要となります。このため、企業向けビジネスを展開する企業の営業担当者には、これまで訪問する必要のなかった部門や経営層へもアプローチを行い、情報収集や合意形成の支援を行う活動が求められます。

こうしたことから「トップアプローチ」や「企画部門への訪問」を営業部門の重点方針として掲げている企業も少なくありません。しかし、営業担当者にとっては容易ではありません。その理由の一つは、訪問してもどんな話をしたら良いか分からないことです。

こうした問題を解決する方法としては、MBA的な研修が思い浮かぶかもしれません。経営者目線で話せるようにするためです。もちろん、そのようなスキルも必要でしょう。ここではあえて別のスキルをお勧めします。「カウンセリング」のスキルです。カウンセリングというと、「病んでいる人の相手をするスキル」「ただひたすら相手の話を聴くだけ」という否定的なイメージを思い浮かべる人もいます。そうではありません。カウンセリングは、人と人とが向かい合って共有する時間を有意義なものにするための有効な考え方やスキルを提供してくれるものなのです。

このコラムでは、営業担当者が、お客さま、特に経営層と自信を持って接することが出来るようになるために、カウンセリングスキルの活用方法を紹介します。

■営業活動で体感した「聴く力」の効果

私は、臆病な営業担当者でした。お客さまの事業運営上の課題を解決する研修の提案を行っているのですが、いざ経営層の方々と面談する場面になると、「どんな話をしたら良いか分からない・・・」「私ごときが何か物申すのは失礼なのではないか・・・」と臆病風に吹かれておよび腰になってしまうことが多々ありました。経験不足や自分への自信のなさが原因でした。会社を代表してお客さまの経営者と面談するという行為は、漠然と分不相応な気がしていたのです。

苦手ながらも経営層との面談機会は不定期に訪れ、その度に居心地の悪い思いをしていました。ところがある時、面談後にお礼を言われたのです。それ以降、一度や二度ではなく、何度も、そしていろいろな経営者がお礼を言ってくださったのです。初めのうちは、なぜお礼を言われるのかがわかりませんでした。やがて、それはヒアリングの後に言われることが多いことに気づきました。提案内容を検討するためにお客さまに対して現状の課題などを質問するのですが、そのときに、決まってお礼を言っていただいたのです。こちらからは質問するだけで何の情報提供もしていないため、お礼を言われるのは不思議でした。実はこれは、経営者の方々にとっては、「カウンセリングを受けた」のと同じ効果が出ていたことに後になって気づきました。

カウンセリングには、「人と人との関係そのものが癒す」という考え方が根本にあります。人は本来「自ら育つ力」を持っています。しかし、人はそれぞれの置かれた環境の中で時に様々なプレッシャーを抱え、目の前の問題に心を捕らわれ、その結果、自分の本来の力を発揮しえない状態に陥ってしまうことがよくあるのです。 こうした問題を改善するために、カウンセリングでは人と人の「関わり」を使います。具体的に言うと、対話です。これによって、自分が十分に自分らしく居られる時間を過ごすことができ、現在の自分を客観的かつ肯定的に見つめ直すことができるようになるのです。

経営層へのヒアリングの例で言うと、私は中立的な外部の人間であり、かつ何かをアドバイスするのではなく聞くだけであったため、偶然にカウンセリング的な効果が生まれたのだと思います。経営者の方の混乱した考えが私に話をすることで整理されたのでしょう。同時に、日ごろ抱えていた重荷も和らいだのでしょう。

もともとは偶然だったのですが、その後、私はカウンセリングを学び、意図的にそのスキルを営業活動に活用するようにしました。その結果、お客さま経営者との面談でおよび腰になることが少なくなりました。「答えは常にお客さまが持っている」「お話しを聴くだけでお役に立てることがある」そう思えるようになったことで、気負いが軽減されたのです。

■カウンセリングにおける「聴き方」

では、具体的に、カウンセリングのスキルとはどのようなものでしょうか。ここでは概要をご紹介します。

カウンセリングの神様と呼ばれるカール・ロジャーズは、3つの基本姿勢を上げています(注1)。

1つ目は、「受容」です。カウンセラーが相手の話を聴く時は、自分の価値観や好みによって取捨選択せず、相手のどの側面にも、偏りなく積極的かつ肯定的な関心を向けることを意味します。たとえ相手の話の中に、矛盾する要素や同意できない内容が表現されていても、いずれも相手のかけがえのない側面として無条件に大切に受け止めて、その心に寄り添います。

2つ目は、「共感的理解」です。相手が物事をどのように見て心でどう感じているかを、その微妙なニュアンスに至るまで、あたかも相手自身であるかのように感じ取り、その感じ取ったことをていねいに相手に伝え返していくことを意味します。そのためにカウンセラーは、相手が話す「事柄」だけでなく、その裏側にある「感情」やそれらが示す「意味」まで感じ取り、言葉で的確に示して確認していきます。これは決して相手の話す「内容」に同意するということではありません。相手の心がどう感じているかを理解し、その背後の「感情」に対して共感を示すのです。

3つ目は、「自己一致」です。相手から感じ取っていることや相手との関わりにおいて、カウンセラー自身の中に生じてくる「感じ」に対して、偽りや誇張なく、忠実で誠実に反応することを意味します。相手もこちらの心の動きや感情を、敏感に感じ取ります。決して、表面的な社交辞令や一般論を口にしたり、自分を大きく見せようとしたりしてはいけません。嘘偽りない誠実な存在として、相手の感情を受け止め、感じ取った内容を忠実に伝え返していくのです。
以上の3つが、カウンセリングの基本姿勢です。この3つが揃った状態で「聴く」ことではじめて、相手に「自分が十分に自分らしく居ることができる時間」として感じてもらえる空気感をつくることが出来るといわれています。

なお、カウンセリングにおける「聴き方」の技法は、一般的な傾聴スキルの組み合わせが主流です。具体的には「うなずき」「あいづち」「繰り返し」「言い換え」「要約」「確認」などです。重要なのは技法よりも、相手がどう感じるかです。相手の話を聴く過程で、「事柄」だけでなく、その裏側にある「感情」や、それらが示す「意味」を適確に感じ取り、それを言葉で伝え返して確認するのです。

■むすびにかえて 営業活動の中でのカウンセリングの位置づけ

もちろん、営業場面で、お客さまの方から「カウンセリングして下さい」と言ってくることは100%ありません。あくまでも、カウンセリングについては、お客さまと向かい合って共有する時間を有意義なものにするために、営業担当者が勝手に「カウンセリング的なお話の聴き方をする」という位置づけになります。

一般に、営業担当者が話す時間は「お客さま:営業担当 = 7:3」が理想といわれています。話し過ぎる営業は失格です。お客さまからの情報収集に7割の時間を費やし、残りの3割を自社の商品・サービスに関する情報提供に充てるわけです。

カウンセリングスキルを意識すれば、このお客さまが話す7割の(お客さまにとっては付加価値のない)時間を、お客さまにとって価値のある時間に変えられる可能性があります。単に情報を頂戴する時間だったものが、お客さまの活力を呼び起こし、思考を活性化するお手伝いする時間へ変わるかもしれません。お客さまとの面談時間をより付加価値の高いものにする力をカウンセリングは秘めているのです。

以上、お客さまと営業担当者が向かい合って共有する時間を有意義なものにするための、カウンセリングの活用について考察してきました。もし、私のような臆病な営業担当の方にこのコラムを読んでいただけたのならば、少しでも現状の閉塞感を脱し、お客さまとの新たな関係性を構築するヒントになれば幸いです。

<参考文献> 注1:諸富祥彦(1997)『カール・ロジャーズ入門一自分が”自分”になるということ』コスモス・ライブラリー

(2015.09.30)

戦略実行・営業力強化

戦略を実行するのはなぜ難しい?戦略を実現するチームとは?セールスとは?ご支援の実績から考えていきます。


コラム



レポート

お問い合わせはこちら

お問い合わせ