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【シリーズ】PMが磨くべき対人関係のスキル③

筆者は、某メーカーのシステム部門に採用されてから、紆余曲折を経て、現在は人材育成や組織開発の仕事に携わっています。様々な失敗を経て、今思うのは、もっと早く対人関係のスキルや知識を知っておけばプロジェクトや仕事もよりよい成果が出せたのではないかということです。

さて、第三回目は筆者の経験から考える「交渉の本質は‘日頃の行動’の中にある」という点についてお伝えします。

PMこそ交渉を勉強せよ

交渉と言われて身近に感じる人は多くないのかもしれませんが、調整や会議や打ち合わせという言葉であれ身近に感じる人は多いと思います。交渉の本質は相手との合意形成であり、打ち合わせであろうが会議であろうが合意形成という意味の交渉は常に行われているのです。実際、多くの時間を交渉に割いているPMも多いはずです。

しかしながら、PMの交渉力がどの程度なのかは、本人次第であるのが現実ではないでしょうか?交渉を戦いに例えるとすると、多くの人が戦い方も知らず練習もせず、ただ自己流で戦っているのが現実です。経験を積む事も大切ですが、PMという立場であれば自ら交渉を体系的に学び、そして後進を育成する必要があるのでは無いでしょうか?
 
WIN-WINの本質はテーマの再定義にある

交渉の基本的な考え方は書籍「ハーバード流交渉術」をベースとするWIN-WINと言われています。プロジェクトの交渉事も当然WIN-WINが求められるわけですが、案外その意味を理解してない方が多いようです。WIN-WINとは、交渉するテーマについて、お互いの主張や要求の裏にある狙いや思惑や懸念を知ることで、テーマを再定義して交渉することです。テーマを再定義からこそ、お互いの合意の可能性が開けてくるのです。前述した書籍の中に一個のオレンジをめぐって言い争いをしている姉妹の話が出てきます。「そのオレンジは私の物だ」と主張を譲らない姉妹に対して、なぜオレンジが欲しいのか理由をたずねることで『食べたい』と『ジャムのために皮がほしい』という互いの狙いが分かるのです。そして「『食べたい』と『ジャムのために皮がほしい』を満足させる」と再定義して交渉するのがWIN-WINなのです。テーマを再定義するからこそ、お互いの合意の可能性が開けてくるのです。決してお互いの主張に基づいて半分に分ける事ではないのです。

交渉は日頃の行動の積み重ねでしかない
 
WIN-WINと言葉で言うのは簡単ですが、実際はそんな簡単ではありません。なぜなら役割や立場を背負って交渉している以上、交渉するそれぞれに、思惑、懸念、本音などは、交渉のテーブルには上げにくい事があるからです。そうなると結局はお互いの主張や要求に基づいて交渉が進むことになります。ちなみにこうした交渉の進め方を対立型と言ったりするのですが、この対立型の交渉はどちらの立場が強いのかといった力関係で結果が決まってしまうことが多いのです。 ‘交渉のテーブルについた時点で勝負はついている’と言われたりしますが、自分の情報も出さず、相手の思惑や懸念や本音も知らずして、WIN-WINを交渉のテーブルで実践するのは容易ではありません。WIN-WINの交渉をしようするのであれば、日頃の相手とのやり取りの中で、信頼関係を築き、そして相手の思惑、懸念、本音を知っていくことの方が、交渉のテーブルでどうやるかより重要になってくるのです。交渉はテーブルの上で行われるものではありません。日頃の行動の積み重ねでしかないのです。

自ら仕掛ける。そして愚直に行動する。

こうした信頼関係を築き、相手を知るという行動は書籍「7つの習慣」の時間管理で言うところの第二領域(重要であるが緊急ではない領域)にあたります。そして第二領域こそ意識的計画的に取り組む必要があるのです。この第二領域は実際に行動に起こせる人は実は少ないのです。だからこそ、チャンスとも言えます。信頼関係は理屈では成立しません。行動あるのみです。挨拶、メール、コミュニケーションを取る、相手に関心を持って接する、相談にのってもらう、貸しを作る・・・信頼関係や相手を知ることに結び付く
行動を、成果を期待せずに愚直にやることが肝心です。

戦わずして勝つ、これが究極の交渉の狙い

最後に、こうした信頼関係や相手を知ることは実は時間がかかります。しかし信頼関係ができて相手の事をよく知ってくると、実は交渉にかかる労力は少なくなっていくのです。孫子の「兵法」では、戦わずして勝つことが最上の策とされています。交渉は戦いとは違いますし、勝ち負けではありません。しかし交渉にかかる労力を減らして合意形成するという意味では実は同じではないかと思います。交渉せずに合意形成するためにPMは日頃の行動を仕掛けて行く必要があるのです。

次回はPMとして「チーム」を導くと言うことについてお伝えします。

著者プロフィール

大坪 タカ(おおつぼ たか)

富士ゼロックス総合教育研究所 契約講師 資生堂において、ITの企画開発から運用まで幅広く経験。その後、ITコンサルティング会社を経て独立。IT企業をはじめ、多くの企業のリーダー育成や組織変革に携わる。PMP、交渉アナリスト、ORSCC(CRRGlobal認定システム・コーチ)などの資格を保有。関係性開発協会の代表理事も務める。

※本コンテンツは、株式会社富士ゼロックス総合教育研究所配信のメールマガジン 「PM MASTER’S NEWS<2016年10月号>」に掲載されたものです。

(2016.10)