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新事業を生み出す世界観をデザインする ~その仕組みと人材~

開催日:2018年10月15日(月)15:00-17:00
共同主催:富士ゼロックス株式会社 関西東海支社、富士ゼロックス愛知株式会社
協賛:富士ゼロックス総合教育研究所

(FUJI XEROX Executive Seminarでの講演より採録・構成)

目次

講師プロフィール

竹林室長の画像
竹林 一

オムロン株式会社SDTM室長
GENERAR MANAGER
CENTER FOR SENSING DATA TRADING MARKET

京都、織物の町“西陣”で生まれる。デザインの道を目指していたが、ひょんなことから大学では情報心理学を専攻。“機械に出来ることは機械にまかせ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである”との理念に感激してオムロンに入社。仕事の原点は“人のやる気”を基本に、流通、駅務事業における大型プロジェクトのプロジェクトマネージャを務める。以後、新規事業開発、事業構造改革の推進、オムロンソフトウェア代表取締役社長、オムロン直方代表取締役社長、ドコモ・ヘルスケア代表取締役社長を経て現職。各種委員会の諮問委員を務める。2016年9月日本プロジェクトマネージメント協会 特別賞受賞。著書に「モバイルマーケティング進化論」(共著:日経BP企画)、「PMO構築事例・実践法」(共著:ソフト・リサーチ・センター)、「利益創造型プロジェクトへの三段階進化論」(日経ビズテック)等がある。

価値を生み出す仕組み

世の中の変化のスピードは加速し、過去の延長に未来はないといわれるほど先の予測が困難になっています。大企業であれ中小企業であれ、これまでと同じやり方では勝てなくなった今、新しい価値を生み出すことが求められています。

日本の企業はこれまで、もの(ハード、ソフト)のQCD(Quality,Cost,Delivery)という価値を提供することで戦ってきました。このうちQとDはできて当たり前。競争に勝つためにはCを下げるしかありません。QCDを守ることは必要条件ですが、それだけで戦い続けると消耗してしまいます。そこで顧客満足を高めるために、サービスを含めた仕組みとしてS(Service)を掛け合わせることが必要になります。つまり、新たな価値創造とはQCD×Sをいかに最大化させるかということです。

一方、顧客との関係性は、顧客からの作業依頼を待つ受託型から、顧客の課題を解決する提案型へ、さらには顧客と一緒に新しい価値を創り出す共創型へと進化しています。これは、どれがいいか悪いかという問題ではありません。自社がどの段階にいるのかによって仕掛け方が変わってくるということです。このうち3つめの共創型が、ここ数年のトレンドであるオープン・イノベーションです

オープン・イノベーションとは企業内部と外部のアイデアを組み合わせることで、革新的で新しい価値を生み出すことです。もともとは海外の画期的な事例から始まりましたが、日本では、東レ、味の素、大阪ガスなど、いずれも経営危機に瀕した際、そこからの挽回を図ったことが原点にあります。

そもそもなぜ今、オープン・イノベーションなのか。一言で言えば、1社ではもう勝てない時代だからです。知恵を結集し、いち早く新しい市場をつくっていかないと、変化のスピードに対応できません。もちろん、自社の独自価値を尖らせていくことも大切ですが、他社との共創によってイノベーションを仕掛けていく必要があります。

価値を生み出す世界観をデザインする

オープン・イノベーションで重要なことは、新しい世界観をデザインすることです。具体的にどのようにデザインし、新たな価値を生み出していくのか、その事例としてオムロンのヘルスケア事業を紹介します。

オムロンのヘルスケア部門は血圧計のシェアが世界トップを誇るなど、ハードウェアにおいて先行市場を獲得しています。しかし、コモディティ化によってハードウェアを売るだけでは儲からなくなっていきます。そこで「健康機器を売る」ことから、「健康であり続ける仕組みを売る」ことへの転換をはかり、NTTドコモとの共創により、新たなヘルスケア事業を立ち上げることなりました。

ヘルスケアビジネスには2つの「軸」があります。一つはメディカル(医療)、もう一つはウェルネス(健康)です。前者は病気の早期回復や再発防止、後者は健康の維持・増進と、それぞれ提供するサービスが異なります。これとは別に、サービスという顧客視点から見てみるとヘルスケアをリスクの回避と見るか、ハピネスの享受と見るかでニーズが分かれてきます。(図参照)。

グラフの画像

オムロンの新しいヘルスケアビジネスはどこに「軸」を置くのか。私たちはウェルネスとハピネスにフォーカスしました。健康を楽しむことにお金を払うユーザは多いと考えたからです。さらにターゲットを女性に絞りました。こうした軸をベースに開発したのが、オムロンの婦人用体温計をスマホアプリに連携させ、楽しみながら日々の健康管理ができる女性向けの健康支援サービスです。さらに東京海上日動とも提携し、データから体の変調を検知したときに受診を促し、お見舞い金を支払うというサポートを加えました。こうしてそれぞれの得意とするものを掛け合わせることで実現したサービスは大ヒットし、2016年に日本サービス大賞を受賞しました。

もう一つ紹介したい事例が、センシングデータの活用です。オムロンは匿名加工処理をした大量の血圧データを所有しています。血圧は気温との相関があり、気温が低いと血管が収縮して血圧が高くなることがわかっています。そこで温度計を入れた血圧計を患者さんに使っていただき、患者さんから主治医の先生に室温データと血圧データが送信される仕組みをつくりました。このデータをもとにして、主治医の先生が冬場、高齢者に降圧剤を多く処方するのではなく、エアコンのタイマー設定の仕方を教えることで、朝目覚めたときに部屋が暖まっているようにして血圧を安定させるようアドバイスされていました。ところで、すべての血圧計に温度計が入っているわけではありません。室温のデータは住宅会社やエアコンの会社が持っていたりします。これらのデータが業界を越えて連携すると新しいサービスが生まれてくると思っています。

実は私たちが構想しているのは、こうしたセンシングデータを自由に活用できる世界、「IoTの楽市楽座」です。必要なユーザが必要なときに必要なセンシングデータを引き出せる仕組みを構築することで、企業・業界を越えた共創が生まれるのではないか。そこで、まずはセンシングデータ流通市場を立ち上げるために、メディアや政治への働きかけを始めました。2017年11月には「データ流通推進協議会」が発足し、現在117団体が参加、いまでも毎月、会員が増加しています。

世界観をデザインする上で大切なことは、まず多くの事象を観察することです。自分の業界だけでなく、他の業界にも目を向けて何が起こっているかを知る。そこから全体像をつかみ、自社のビジネスをどう活かせるかを考えながら、事業の軸を探します。この軸をどう立てるかが新規事業の成功に大きく関わってきます。

価値を生み出す人材とマネジメント

では、新しい価値を生み出す人材はどのように育てるか。私は「起承転結」人材モデルを提唱しています。「起」は0から1を仕掛ける人、「承」はそれをN倍化し、全体の構造をデザインする人、「転」は「承」の過程で効率化やリスクの最小化を考える人、そして「結」は最後に仕組みに落としてそれを回してくれる人です。「起承」の特徴は、望遠鏡的な視野を持ち、創造力があってトライ&エラーを恐れず、クリエーションが得意。それに対して「転結」は、顕微鏡的視点と実行力があり、QCDとオペレーションに長けているといえます。どちらが優れているかではなく、重要なのはそれぞれがどれだけ会社の中にバランス良く存在しているかです。

実は日本企業の発展の多くも、起承の人である創業者と転結を担う番頭のコンビネーションによって成し遂げられました。起承が新規事業を立ち上げ、転結がそれを効率良く回して収益を上げてきたのです。しかし、創業当時は活躍が目立っていた起承人材も、事業が成功するにつれ転結人材の比重が増し、社内での存在感がなくなっていきます。新しい価値を生み出せと言われても、なかなかビジネスにつながらない。今、起承人材が多いのはベンチャー企業です。ならば、ベンチャー企業とコラボレーションをすればいいのではないかというと、そう単純ではありません。起承と転結ではマネジメントスタイルが違うため、既存企業側に起承と転結をつなぐ「承」の人材が必要になります

では、承を担う人材とは誰なのかを複数の企業に聞いたところ、それは部長以上のトップマネジメントの仕事ではないかとか、転結人材の中から承の資質があるものを指名・育成するといった答えが返ってきました。いずれにしても、起承転結すべてを束ねるビジネスプロデューサー的な役割がキーになると考えます。

最後にイノベーションを生み出す人材育成のために考えるべきことをまとめると、起承転結の各人材におけるコア能力と育成方法、起承(クリエーション)と転結(オペレーション)をうまくマッチングさせる組織やマネジメント体系、人事制度のあり方、そしてビジネスプロデューサーやトップマネジメントの役割を明確にすることが大切です。価値創造の原点となるのは、やはり人。もう一度人を育てるところから丁寧にやっていかなければイノベーションは生まれないと思います。

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