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人と組織の無限の可能性を拓く~ICT活用で加速する企業人育成~

開催日:2017年10月25日(水)~27日(金)9:00~18:00
主催:e-Learning Awards フォーラム実行委員会 フジサンケイビジネスアイ

講演者プロフィール

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 代表取締役社長 小串記代

大手エンジニアリング会社にて海外渉外業務、人事人材開発コンサルティング会社にてアセスメント、リーダーシップ教育に従事。1996年、株式会社富士ゼロックス総合教育研究所入社。商品開発、調査、コンサルティングに従事。2016年より現職。津田塾大学国際関係学科卒業、国際大学国際経営学研究科修了MBA。

はじめに

本日は、私共が企業人への教育・コンサルティング事業を行っている立場から、昨今感じている変化やICTが成人教育に果たす役割、期待についてお話させていただきます。
最初に富士ゼロックス総合教育研究所について簡単にご紹介します。弊社は、富士ゼロックス100%出資の関連会社で、一般企業や公的機関に教育、コンサルティングをご提供する会社です。1989年に創業し、教育コンサルティング事業と学ぶ場の活性化事業という学びの場の企画運営をしております。自社開発と同時に、営業、リーダーシップ、プロジェクトマネジメント等の分野で、グローバルスタンダードのソリューションをご提供できる海外パートナーとアライアンスを組んでいます。これらの価値を総合し、お客さまの事業成果につながる実践的なご支援をモットーにしております。私自身は組織・人材に関わる仕事に就いて25年ほどになりますが、経営環境の変化、技術革新の加速が人材開発にも大きな影響を与えており、人生100年時代になるといわれますが、あらためて「人が学ぶ」ということの意味、人間にしかできないこと、を考えさせられています。
図1は、弊社が創立した30年近く前に掲載した広告です。「ひとを大切にする会社に使ってほしい会社です」、今振り返ると、30年近く前には、テクノロジーの進化がこれほど早く私たちの日常に入り込むとは想像もしていなかった時代です。同時に、働き方改革や高齢化、価値観の多様化、課題の複雑化などが、日本企業が持つ人を育てる職場に変化をもたらしていると感じています。この「大切に」というあり方が多様になり、またコミュニケーションのとり方も多様になったと感じます。

図1.弊社創業時の広告 ひとを大切にする会社に使ってほしい会社です。 あなたの会社の人材を、大切に育てるのが仕事です。

本日お話することは、三つあります。一つは、今、企業教育の場でどのような変化が起こっているのか、二つ目は、特に近年直面する3つの学びの傾向、そして三つ目は、新たな時代に、自ら自己を振り返り、内発的に成長を持続するためにICT、これからの技術進化に期待すること、です。

【第一部】今、企業教育の場で何が起こっているか

まず、パラダイム転換の時代といわれ、どの企業も事業のトランスフォーメーション、変革が余儀なくされる環境にあります。環境変化に応じて組織、人材のあり方も変化をしています。これから求められる人材像は、過去の人材像とは異なります。社会の不確実性や複雑性が増す中、変化に適応し、自発的に考えて行動できる人材が強く求められています。そして個人も多様な価値観を持ち、すべてのことが変化をしあう中で、新しい道を探っているというのが現状ではないでしょうか。

そのような変化の中、時間の制約、個人の価値観の多様化、世代間の相違が学びのあり方も多様にしています。人事制度や目標管理のあり方も、過去のままでは次第に不具合が出ていることもあります。

一方、テクノロジーの進化によってラーニングが多様化し、さまざまな学び方が選択できるようになりました。私たち教育事業に携わる者にとっても、それらをいかに組み合わせ、学びの場をデザインしていくかが重要な課題となっています。

かつて「修羅場に放り込めば人は育つ」と言われた時代がありました。しかし、今は一人ひとりの価値観も異なり、厳しい環境に置けば自然と鍛えられていくというものではありません。企業の人材教育、そして人と組織の関係は今後どうあるべきか。その方向性を探るために、これから企業の中で中核を占めるであろう24歳から35歳までの若手世代、いわゆるミレニアル世代に注目してみたいと思います。

ミレニアル世代の意識

2017年に発表された経済産業省の若手官僚による報告書「次官・若手プロジェクト」の中に、「新入社員の働く目的」に関するデータがあります(図2参照)。それによると、働く目的として最も高いのが「楽しい生活をしたい」、次いで「経済的に豊かになる」となっています。経年変化に着目すると、以前は高かった「自分の能力をためす」という意識が、ここ15年で急激に下降してきています。それとは逆に「社会のために役立つ」という意識は、若い世代ほど醸成されている傾向が見られます。ただし、それも昨年辺りから急に下降しているのが気になるところです。

図2.新入社員の働く目的

一方、弊社が行っている人材開発白書という調査・研究で、2016年度は若手のリーダー志向について調査しました(図3参照)。なお、ここで言うリーダー志向とは管理職を目指すということではなく、「自発的に他者との関わりを持ち、率先して行動をとる」ことを意味します。この調査によると、リーダー志向を持つ若手はピークでも約4割に留まり、35歳でピークアウトすることがわかりました。

図3.若手のリーダー志向

ミレニアル世代とひとくくりにはできませんが、彼らこそこれからの時代の中核になるわけです。一人ひとりが自発的に他とかかわりながらより大きなことを成し遂げることが、変革の時代に既存の枠を壊し、組織に新しい風を吹き込んでいく力になると期待せずにはおれません。

さらに、何がリーダー志向を目覚めさせるかについて分析すると、三つの意識が必要であることがわかりました。一つ目は今よりも大きな成果を上げ、次のステップへとつなげたいという「野心」です。二つ目は、部下や後輩、一緒に働く人が成果を上げられるように手助けしたいという「利他」の精神。そして三つ目が、自分が先頭に立って部下や後輩を引っ張っていかなければならないという「責任」です。若い世代には、この三つの意識を持って自分を成長させ、次のリーダーとして組織を推進する原動力になってほしいと期待しています。そして、これは当人たちの責任というよりも、このような意識を醸成する機会やしくみを組織がいかに意図的に作れるかが問われていると考えます。

学習者としての課題

次にラーニングの多様化について見ると、彼らが学習者としてチャンレンジするとき、直面する課題がいくつかあります。まず一つは、限られた時間で成果を上げなければいけないことです。たとえば教育研修であれば、昔は三日間かけていたところを、二日もしくは一日で行うということも当たり前となっています。実際に私たちのお客さまからも、「できるだけ時間は短く、ただしこれまで以上に実践的な効果を得たい」という要求が増えています。そこで少ない研修時間を補うために、eラーニングをはじめさまざまな手段を活用するようになっています。

また、この世代のマインドセットとして、あまり人と違うことをやりたくない、という意識があります。逆に言えば仲間意識が強いため、学習後の振り返りを、スマホなどを使ってみんなで共有したり、情報交換をしながら一緒に成長したいという気持ちがある。そのために新しいテクノロジーをどう使いこなしていくかが重要になってきています。 そうした中で大きな問題と感じるのは、多くの情報が氾濫する中で、学習者が自分自身の頭を使って考えることが難しくなっていることです。そのためには雑音から距離を置き、いかにして自立した思考を確保できるかが課題です。加えて、学習したことを素早く仕事に活用し、確実に成果を出すということも突きつけられています。

【第二部】進化する3つの学びの傾向

こうした課題を抱える若手世代に対して、教育事業者である私たちが急ぎ取り組むべきことは何でしょうか。それは、さまざまある教育方法や学習の機会から最適な組み合わせを提供するエキスパートになることだと考えます。クラスルームでの研修、eラーニングやマイクロラーニングといったデジタル学習、SNS等を使ったソーシャルラーニング、定着強化のためのコーチングやフォローアップなどから、個々の状況や目標に合わせてプログラムをデザインすることが求められています。最適な学習をデザインし、学習意欲を維持させるように働きかけ、刺激を与えることが不可欠です。

最近、教育ICTに関して、特に顕著に感じている傾向は次の3つです。

  1. 加速する教育の民主化
    ゼロックスは、複写機による「情報の民主化」を実現してきた会社ですが、我々は、教育ICTの進化は、「教育の民主化」の機会ととらえています。反転学習による集合研修の時間短縮や多忙な社員がeラーニングで自分のペースで学習し、場所を問わずWebシステムで誰とでも対話できるようになりました。多様な雇用形態の人も幅広く学ぶことができます。働き方を問わず、いつでもどこでも学べること、すき間時間を活用したり、自宅でも職場でも同じように学習できたり、時間と場所の制約を超えることが新しい可能性を引き出すだろうと考えます。もう1つは、Face to Faceでなくても、誰とでもつながれる状態をつくること。組織を越えていろいろな人とフィードバックや情報共有ができる環境を整えることで、学びをより自由にします。
    ただしその前提として、一人ひとりの学習意欲、主体性や継続性を確保することが必要です。それらが衰えると、教育の民主化もその効果を十分に発揮できなくなります。
  2. 学びは教室から職場へ
    教育が成果を上げるには、現場での実践が鍵となります。学びが教室から職場に移ってきたことで、要するに「知った」「わかった」から「できる」レベルへと変わっていかなければなりません。これを定着させるには、教育ICTによる相互学習支援や学習コミュニティをつくること、さらには職場自体を学習する組織に変えていくことが必要です。
    特に、ミレニアル世代は、タイムリーで頻繁なフィードバックを欲しているように感じます。ICTを生かすことで、やり方の定着だけでなく、どうあるべきかを考える場をつくることも可能になります。
  3. 個を生かす教育
    人材を一つの型にはめる教育は終わり、多様な人材を生かし育成することが求められています。人は振り返りがないと成長しません。一人ひとりに対応した内省支援が必要です。HRテクノロジーも進化し、個人のデータを蓄積することで、個々の持ち味に合わせたより精緻な振り返りや学習が可能になっています。一人ひとりを見ているという「いいね」を押す感覚で、すぐに反応を返すことも重要になってくるかと思います。学習履歴やビッグデータ、AIの進化で、この点は益々進むと思います。弊社の米国パーソナリティテストのパートナー会社でも、SNSでの発信データを含め、一人ひとりに合わせたアドバイスが出せるのも遠くないということです。
    一方でこうした個別の教育に加えて、組織として共通の教育をしていくことも重要です。ひいては、これからの個人と組織の関係はどうあるべきかを議論する必要性を感じています。組織としては、個人として何を共通に、何をポータブルスキルとして持たせるか、新たな課題に直面しそうです。

【第三部】ICTが拓く人材育成

人は何をもって学び成長するのか。企業人教育に関する研究では「仕事経験から学ぶ」のが7、「他者から学ぶ」が2、「研修から学ぶ」が1であると言われています。ここで重要なのは、その比率よりもつながりです。研修で学んだことを他者からのフィードバックで振り返り、それを仕事に活かして経験を重ねていく、というサイクルが回ることで、人は成長していくと考えられるからです。そして私たちは、このサイクルを促進するのが教育ICTだと思っています。今は、じっくりと考える時間を持たない時代です。このそれぞれのループがテクノロジーによって、促進されると同時に、ICTを駆使して、内省する際にはこれまでより丁寧に、まさに「ひとを大切に」育む機会が提供されると期待します。

図4.経験と学習環境をデザインするICT

教育学者のジョン・デューイは、経験についてこう語っています。「経験の範囲はどこまで及び、その限界はどこにあるか」と。私たちがそれに答えるとしたら、「テクノロジーは、それに挑戦するものであり、バーチャルな経験も含めて新しい経験を可能にしていく、新たな世界を拓く機会をくれるもの」と信じております。

教育ICTによって新しい学びがデザインできるのではないか。私たちはそのことに大きな期待を持つと同時に、それを生かすためにも、原点である、学びの本質、人間にしかできないことを考えつづける責務が私たち教育に携わる者にはある、と思わずにはいられません。

(2017年10月25日eラーニングアワード2017 フォーラム基調講演を基に構成)

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