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臆病な営業担当者のための経営層へのヒアリング法 ~ カウンセリングに学ぶ営業面談の心構えとスキル ~

コンサルティング営業2部
小杉 和也

■はじめに

「営業担当者が顧客の経営層に会えていない」「購買部門や総務部門とばかり面談して企画部門やキーマンと面談できていない」。営業を統括している役員や部門長と面談したときに、このような相談をよく持ちかけられます。

企業が購買決定する際には、複数の部門にまたがる合意形成と経営層の意思決定が必要となります。このため、企業向けビジネスを展開する企業の営業担当者には、これまで訪問する必要のなかった部門や経営層へもアプローチを行い、情報収集や合意形成の支援を行う活動が求められます。

こうしたことから「トップアプローチ」や「企画部門への訪問」を営業部門の重点方針として掲げている企業も少なくありません。しかし、営業担当者にとっては容易ではありません。その理由の一つは、訪問してもどんな話をしたら良いか分からないことです。

こうした問題を解決する方法としては、MBA的な研修が思い浮かぶかもしれません。経営者目線で話せるようにするためです。もちろん、そのようなスキルも必要でしょう。ここではあえて別のスキルをお勧めします。「カウンセリング」のスキルです。カウンセリングというと、「病んでいる人の相手をするスキル」「ただひたすら相手の話を聴くだけ」という否定的なイメージを思い浮かべる人もいます。そうではありません。カウンセリングは、人と人とが向かい合って共有する時間を有意義なものにするための有効な考え方やスキルを提供してくれるものなのです。

このコラムでは、営業担当者が、お客さま、特に経営層と自信を持って接することが出来るようになるために、カウンセリングスキルの活用方法を紹介します。

■営業活動で体感した「聴く力」の効果

私は、臆病な営業担当者でした。お客さまの事業運営上の課題を解決する研修の提案を行っているのですが、いざ経営層の方々と面談する場面になると、「どんな話をしたら良いか分からない・・・」「私ごときが何か物申すのは失礼なのではないか・・・」と臆病風に吹かれておよび腰になってしまうことが多々ありました。経験不足や自分への自信のなさが原因でした。会社を代表してお客さまの経営者と面談するという行為は、漠然と分不相応な気がしていたのです。

苦手ながらも経営層との面談機会は不定期に訪れ、その度に居心地の悪い思いをしていました。ところがある時、面談後にお礼を言われたのです。それ以降、一度や二度ではなく、何度も、そしていろいろな経営者がお礼を言ってくださったのです。初めのうちは、なぜお礼を言われるのかがわかりませんでした。やがて、それはヒアリングの後に言われることが多いことに気づきました。提案内容を検討するためにお客さまに対して現状の課題などを質問するのですが、そのときに、決まってお礼を言っていただいたのです。こちらからは質問するだけで何の情報提供もしていないため、お礼を言われるのは不思議でした。実はこれは、経営者の方々にとっては、「カウンセリングを受けた」のと同じ効果が出ていたことに後になって気づきました。

カウンセリングには、「人と人との関係そのものが癒す」という考え方が根本にあります。人は本来「自ら育つ力」を持っています。しかし、人はそれぞれの置かれた環境の中で時に様々なプレッシャーを抱え、目の前の問題に心を捕らわれ、その結果、自分の本来の力を発揮しえない状態に陥ってしまうことがよくあるのです。 こうした問題を改善するために、カウンセリングでは人と人の「関わり」を使います。具体的に言うと、対話です。これによって、自分が十分に自分らしく居られる時間を過ごすことができ、現在の自分を客観的かつ肯定的に見つめ直すことができるようになるのです。

経営層へのヒアリングの例で言うと、私は中立的な外部の人間であり、かつ何かをアドバイスするのではなく聞くだけであったため、偶然にカウンセリング的な効果が生まれたのだと思います。経営者の方の混乱した考えが私に話をすることで整理されたのでしょう。同時に、日ごろ抱えていた重荷も和らいだのでしょう。

もともとは偶然だったのですが、その後、私はカウンセリングを学び、意図的にそのスキルを営業活動に活用するようにしました。その結果、お客さま経営者との面談でおよび腰になることが少なくなりました。「答えは常にお客さまが持っている」「お話しを聴くだけでお役に立てることがある」そう思えるようになったことで、気負いが軽減されたのです。

■カウンセリングにおける「聴き方」

では、具体的に、カウンセリングのスキルとはどのようなものでしょうか。ここでは概要をご紹介します。

カウンセリングの神様と呼ばれるカール・ロジャーズは、3つの基本姿勢を上げています(注1)。

1つ目は、「受容」です。カウンセラーが相手の話を聴く時は、自分の価値観や好みによって取捨選択せず、相手のどの側面にも、偏りなく積極的かつ肯定的な関心を向けることを意味します。たとえ相手の話の中に、矛盾する要素や同意できない内容が表現されていても、いずれも相手のかけがえのない側面として無条件に大切に受け止めて、その心に寄り添います。

2つ目は、「共感的理解」です。相手が物事をどのように見て心でどう感じているかを、その微妙なニュアンスに至るまで、あたかも相手自身であるかのように感じ取り、その感じ取ったことをていねいに相手に伝え返していくことを意味します。そのためにカウンセラーは、相手が話す「事柄」だけでなく、その裏側にある「感情」やそれらが示す「意味」まで感じ取り、言葉で的確に示して確認していきます。これは決して相手の話す「内容」に同意するということではありません。相手の心がどう感じているかを理解し、その背後の「感情」に対して共感を示すのです。

3つ目は、「自己一致」です。相手から感じ取っていることや相手との関わりにおいて、カウンセラー自身の中に生じてくる「感じ」に対して、偽りや誇張なく、忠実で誠実に反応することを意味します。相手もこちらの心の動きや感情を、敏感に感じ取ります。決して、表面的な社交辞令や一般論を口にしたり、自分を大きく見せようとしたりしてはいけません。嘘偽りない誠実な存在として、相手の感情を受け止め、感じ取った内容を忠実に伝え返していくのです。
以上の3つが、カウンセリングの基本姿勢です。この3つが揃った状態で「聴く」ことではじめて、相手に「自分が十分に自分らしく居ることができる時間」として感じてもらえる空気感をつくることが出来るといわれています。

なお、カウンセリングにおける「聴き方」の技法は、一般的な傾聴スキルの組み合わせが主流です。具体的には「うなずき」「あいづち」「繰り返し」「言い換え」「要約」「確認」などです。重要なのは技法よりも、相手がどう感じるかです。相手の話を聴く過程で、「事柄」だけでなく、その裏側にある「感情」や、それらが示す「意味」を適確に感じ取り、それを言葉で伝え返して確認するのです。

■むすびにかえて 営業活動の中でのカウンセリングの位置づけ

もちろん、営業場面で、お客さまの方から「カウンセリングして下さい」と言ってくることは100%ありません。あくまでも、カウンセリングについては、お客さまと向かい合って共有する時間を有意義なものにするために、営業担当者が勝手に「カウンセリング的なお話の聴き方をする」という位置づけになります。

一般に、営業担当者が話す時間は「お客さま:営業担当 = 7:3」が理想といわれています。話し過ぎる営業は失格です。お客さまからの情報収集に7割の時間を費やし、残りの3割を自社の商品・サービスに関する情報提供に充てるわけです。

カウンセリングスキルを意識すれば、このお客さまが話す7割の(お客さまにとっては付加価値のない)時間を、お客さまにとって価値のある時間に変えられる可能性があります。単に情報を頂戴する時間だったものが、お客さまの活力を呼び起こし、思考を活性化するお手伝いする時間へ変わるかもしれません。お客さまとの面談時間をより付加価値の高いものにする力をカウンセリングは秘めているのです。

以上、お客さまと営業担当者が向かい合って共有する時間を有意義なものにするための、カウンセリングの活用について考察してきました。もし、私のような臆病な営業担当の方にこのコラムを読んでいただけたのならば、少しでも現状の閉塞感を脱し、お客さまとの新たな関係性を構築するヒントになれば幸いです。

<参考文献> 注1:諸富祥彦(1997)『カール・ロジャーズ入門一自分が”自分”になるということ』コスモス・ライブラリー

(2015.09.30)

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