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人と人との良質な関係が強い組織を生む -今必要なのはチーム力の向上-

金融危機に端を発した昨今の環境変化は急激かつ深刻であり、経営の効率化、生産性の向上が叫ばれている。バブルが崩壊した後の混乱にも似ている。バブル崩壊後には、グローバル資本主義化が進み、規制緩和が進む中、企業内でも個の自立、自己責任が問われるようになった。そして終身雇用制や年功序列は崩れ、個人単位の成果主義が導入された。その結果、かつて日本的経営の大きな強みであったチームワークは徐々になりをひそめ、今や人間関係の希薄化、組織力の低下が多くの企業で問題となっている。再び経済の下降局面を迎えた今、私たちは何を考えるべきなのか、本稿では、今こそ真剣に組織の人間関係を再構築し、チーム力の向上に取り組む必要性があることを提起したいと思う。

インデックス



1.現場のチーム力の増大がカギ


一人ひとりは優秀なのに、組織としては成果がでていないということがある。スポーツの世界でも、スター選手を集めているのに、結果は今ひとつということはよくある話である。 バブル崩壊後の15年で、個人の自立、自己責任という考え方は普及し、業務の分業化、個人の能力開発、個人の成果の追求は進んだ。しかし、一人ひとりの能力の最大化に力を入れても、個人の伸びしろには、限界がある。また多くの企業でメンタルヘルスの問題が顕在化しているが、そもそも人は個別に分解されて無限の個人戦を強いられることに、そう耐えられるものではない。企業が生き残るためには一人ひとりの力を結集し、現場のチーム力としてそれを他社よりも大きく増大させることがカギになるのではないかと思う。

2.今後、企業のチーム力を左右する中堅社員


さて、チーム力の向上というと、とかくマネジャーの力量が問われることになるが、それは問題の半分を述べているにすぎない。もう半分は、チームを構成している一人ひとりのメンバーの問題だからだ。 とくに今、メンバー側の問題として注目されているのは、就職氷河期に社会人となったロストジェネレーションといわれる30歳前後の中堅社員層である。彼らは、5年後、10年後には会社の中核を担い、組織の要として人を取りまとめ、チーム力を高める中心にならなければならない。後輩をもたないまま管理職になり、どう人に影響力を与え、チームを束ねていけばよいかわからないというマネジャーが最近、問題になっているが、これからますますそうした問題が増えていくだろう。 ロストジェネレーション世代は入社したときから成果主義が導入されており、常に個人の成果を評価されるという環境にあった。そのため、失敗や批判を過度に恐れたり、資格やスキルを習得することで有能性を示そうとしたりする傾向にあるといわれている。また、個人としての成果にはこだわるが、他者への協力や助け合いということには、興味を示さない。バブル崩壊後の厳しい環境の中で、マネジャーが正解を示してくれるわけでもないなか、狭い範囲で早期に一人前になることを求められ、チームとして活動する経験が少なかったことが原因かもしれない。 では、そのように個別化、孤立化している中堅社員が、チームの中で相乗効果を生み出しチームに貢献する人になるためには、何が必要なのであろうか。

3.どうすればチームの相乗効果を出せるか


そもそも個人が組織に所属する醍醐味とは、共通の目標に向かって、人と関わりながらお互いの信念や価値観に共感しあい、支援しあい、一人では乗り越えられない困難を乗り越えていくということであり、それが、つきつめた問題解決やイノベーションを可能にすると筆者は考える。しかし、今では、なかなかそのようなチームにはお目にかからない。

今やITツールの普及により、直接話をしなくてもメールのやりとりで仕事が進むようになった。しかしメールだけのやりとりでは、誤解が生じたり、感情的なすれ違いが起きたりし、トラブルの元となることがある。あるいは成果主義で個人目標達成への意欲が過熱すると、情報を出し渋り、支援を受けても感謝せず、すべて自分の手柄であるかのようにアピールする、といった行動をとる人が出てくる。30歳前後の中堅社員層は、社会人になったときからこのような環境に身を置いていたといえる。他者に対する気持ちや思いが置き去りにされた、一方的で希薄化した人間関係の中では、誰もが不安や不信感に襲われてしまう。自分の見方や枠組みだけで相手を判断してしまうようになり、お互いに本当に理解しあうということはできなくなる。当然、チームの力は発揮されない。

ここで、どうすれば本当にわかりあい、チーム内で相乗効果を生み出せるのかを考える一つのヒントとして、ブリーフ・セラピーについてご紹介する。 ブリーフ・セラピーとは、家族療法を創始したアメリカのMental Research Institute(MRI)で始まり、1980年代に日本に紹介され急速に浸透している短期心理療法である。その実用性の高さから、心理療法だけでなく、看護、医療、学校、産業領域においても活用されている。これまでの精神分析や行動療法では、問題を抱えている個人だけを対象としてきたが、ブリーフ・ セラピーは、人と人の間のコミュニケーションに問題があると考え、人間のコミュニケーションの相互作用のパターンを分析し、その相互作用のパターンを変えることを基本としているのが特徴である。 (注1) また、ブリーフ・セラピーでは、「現実」というものは人と人の間の認識によってつくられており、唯一の現実などなく、互いの認識を変えれば見えている「現実」が変わる、という社会構成主義を取り入れている。
簡単にいうと、ある出来事について自分はどう認識したか、相手はどう認識したか、そして、その認識を自分と相手の間でどうコミュニケーションしたか、この相互作用がコミュニケーションの質を決めている、ということである。

チームの相乗効果に話を戻すと、コミュニケーションの質を高めることによって、相手の認識や行動を変えることができ、それによりチームの相乗効果を生み出 すことができるといえる。そして、このコミュニケーションの質を高めるために必要な根本的な要素が、「受容」である。「受容」とは、自分と相手の違いを受 け入れるということである。
こうした至極あたりまえのことが、できなくなってしまっていることに、今の日本企業の根深い問題があるのではないかと思うが、まず一歩を進めなければ何も 変わらない。そこで中堅社員を職場の信頼関係醸成の核として位置づけ、彼らに深い自己認識を促しコミュニケーション上の課題を克服することを起点とした チームづくりに取り組むことをお奨めしたい。これは中堅社員自身の成長とチーム力の向上の2つの観点から、今そして将来的にも企業にとって意味のあることであると考える。

4.おわりに


ここまで、一人ひとりの相乗効果を生み出すことによるチーム力の向上について述べてきた。そして、5年後、10年後に組織の中核を成す中堅社員層が、人とのかかわりをうまく構築できないまま放置されると、今後組織力の低下はますます進み、組織の内部崩壊の危機さえ予想されることにも触れた。
また、ブリーフ・セラピーをヒントに人と人との関係性を変えるということを考えてきたが、“言うは易く、行うは難し”である。今この苦しい時期にこそ、本 質的な課題に手をつけることを怠らないことが、“急がば回れ”の格言のごとく、組織を強くし結果的に経済危機を乗り切ることにつながるのではないだろうか。それが存続し続けられる企業としてとるべき道であると筆者は考える。

【注】
(注1) Watzlawick, P., Beavin,J., & Jackson, D. D. 1967 Pragmatics of Human Communication : A study of interactional patterns, pathologies, and paradoxes. New York: W. W. Norton & Co, Inc. [山本和郎監訳 尾川丈一訳 1998 『人間コミュニケーションの語用論-相互作用パターン、病理とパラドックスの研究』 二瓶社]
家族療法以前の心理療法には精神分析と行動療法があるが、両者ともに環境の中の一個体だけに注目し、精神分析では、「人間は実存的にしか生きることができない(絶対的主観主義)」とし、行動主義では「人間は人間を操作できる(絶対的客観主義)」といったパラダイムの基に理論を展開していた。家族療法は「環境の中の2つ以上の個体の関係の錯綜から、様々な精神病理が現れてくるといった(間主観主義)考え方にたっている。

【参考文献】

朝日新聞「ロストジェネレーション」取材班著 2007 『ロストジェネレーション-さまよう2000万人-』 朝日新聞社
富士ゼロックス総合教育研究所 2008 『2009人材開発白書-他者との“かかわり”が個人を成長させる-』
若島孔文、生田倫子 編著 2005 『ブリーフセラピーの登竜門』 アルテ

(2009.4.1)

著者プロフィール

高城 晴美
高城 晴美

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 セールスイノベーショングループ コンサルタント

働く人の自立的な学びの情報環境づくりのマーケティング企画およびコンサルティング営業を経験後、2000年㈱富士ゼロックス総合教育研究所に入社。PSSなどグローバルパートナーの科学的な営業教育プログラムのローカライズ開発、オーダーメイド開発、リサーチ&アセスメントの企画・実行支援に従事。現在は、「法人営業力強化」をテーマにソリューション開発とマーケティング展開に取り組んでいる。

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