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信頼を支える感情

コンサルティング統括部 リサーチコンサルティング課長
西山裕子

「あなたは一緒に仕事をしている人を信頼していますか」―このような問いかけに、あなたはどう答えますか。
もちろん信頼している、信頼したいが現実は難しい、仕事上のつき合いだから最低限の信頼でいい、・・・さまざまな答えが浮かぶことでしょう。

共に働く人と人との信頼のメカニズムについては、組織行動学や社会心理学の分野で研究が進んでいます。本稿では、個人の感情が信頼にどのような影響を与えるのかという観点から、職場における人と人との信頼について考察してみたいと思います。

インデックス

 

1.人格と関係からみた信頼

誰かを信頼することは、ある種のリスク・テイキングだという考え方があります(注1)。裏切られるリスクも考慮したうえで、あえて「信頼しよう=リスクを 取ろう」とする、その意思を信頼と呼びます。そして、人が人を信頼するかどうかを決める際には、次のような判断が働いているといわれています。

自分が信頼しようと思う誰かは、自分を裏切ることもできる。
しかし、その人は自分を裏切らないだろう。
なぜなら、その人は・・・だから。


・・・は、相手を信頼する理由です。・・・には、どのような言葉が入るでしょうか。

たとえば、
約束を守る誠実な人だから、
他人を騙すような悪い人ではないから、
必ず結果を出してくれる人だから、
私とは長いつきあいだから、
私とは持ちつ持たれつの仲だから、
といった言葉が考えられます。


相手を信頼する理由には、相手が自分の信頼に応えてくれるかどうかを判断するための視点が含まれています。上記に5つの例を挙げましたが、これらは相手の人格特性の合理的な判断によるものと、相手との関係性における感情に基づく判断によるものの2つに分けられます。

●人格特性の合理的な判断
相手の信頼を判断する視点として、メイヤー(Roger C. Mayer)らは、「誠実さ、能力、善意」の3つを挙げていますが、それらは相手の人格特性に関するものです(注2)。

上記の例でいえば、

約束を守る誠実な人だから、(→ 誠実さ)
他人を騙すような悪い人ではないから (→ 善意)
必ず結果を出してくれる人だから、(→ 能力)

となります。

このような人格特性についての判断には、信頼する人の性質(たとえば、もともと人を信頼しやすい方かなど)ももちろん影響しますが、ある程度は合理的に、すなわち信頼する人にとって妥当なリスクを取るように判断しているといいます(Mayer 1995)。

●関係性における感情に基づく判断
相手の信頼を判断する視点には、相手との関係性も含まれます。

上記の例では、

私とは長いつきあいだから、
私とは持ちつ持たれつの仲だから、

が、これに当たります。

そして関係性についての信頼の判断には、お互いの感情が影響するといわれています(山本2006)。

誰かを信頼するかどうかを考えるときには、相手の能力や人格をある程度は合理的に評価する側面と、相手と自分の関係性、特にその関係性における、お互いの感情に基づいて判断する側面があるということです(注3)。

2.合理的な評価をこえる感情

現実の場面を思い浮かべると、一緒に仕事をする誰かを信頼できるだろうかと考えるときには、相手の能力や人格を合理的に評価することと、相手と自分の関係性について感情も含めて考えることの、両方を行うことは、当たり前のように感じられます。また、合理的な評価とはいえ、その判断基準は、その人なりの主観的なものなので、理論的な分類はあるとしても、合理的な評価と感情が入り混じっていて識別することは難しいと思われます。

それでは合理的な評価と感情は、信頼を判断するときにはどちらが大事なのでしょうか。この点について、職場での上司と部下の信頼、同僚間の信頼について、研究成果をもとに考えてみます。

2.1.上司と部下の信頼

山本(2006)は、上司による部下のOJTに関して、上司(教え手)が部下(学び手)に任せる仕事のレベル、すなわち、部下にどの程度の仕事なら任せても大丈夫か(=部下がどの程度信頼に応えてくれるか)を判断する際に、部下の能力ややる気の合理的な評価をこえて仕事を任せることがあることに注目しています。このように、より高いレベルの仕事を任せ成長の機会を作ることは、上司から部下への、ある種の贈り物(=Gift)であるとも言われています。そして、上司が合理的な評価をこえた大きなリスクを負担する背景には、部下に対して、成長する一人の人間として強い共感の感情を抱くというような、感情の存在を指摘しています。

また、OJTにおいて大切なことは、上司が部下を信頼しているというシグナルを出すことであり、上司から信頼されたと感じることが、部下の人格的成長を促すとしています。一方で、上司が部下を単に教育しようとして期待をかけることは、ある種部下を操作するような結果を招いてしまうといわれています(山本 2006)。

仕事であれば、決められた成果を出すことや納期を守ることが最優先されます。そのため、合理的な評価を感情よりも優先させることが必要な場面もあるでしょう。特に上司が部下に仕事を任せる場合には、部下が失敗すれば上司として責任を取ることも求められます。それでも、あえて部下により高いレベルの仕事を与え支援しようとする、そう判断するときには、人としての成長を願う、感情に基づいた信頼関係があるということでしょう。

そしてまた、上司が、部下への信頼のシグナルを示すことの難しさ、部下の成長のためという意識を持つことの難しさも想定されます。教育という言葉の下に一方的に部下を操作したり統制したりしようとしていないか、一度振り返ってみることも必要かもしれません。

2.2.同僚間の信頼

マカリスター(Daniel J. McAllister)は、定量調査をもとに、同僚間の信頼について、次のようなことを発見しました。それは、相手を感情的に信頼すると、相手が職場でど のようなニーズを持っているかに関心を持ち、その人のニーズが満たされるように、仕事を支援する行動や親和的な行動をとる傾向が強まり、その人の仕事上の成果にもプラスの影響を及ぼすというものです。また、日頃からどれくらい交流しているかという頻度と、相手が自分に対してどれくらい役割にこだわらず親和的な行動を取ってくれているかが、感情的な信頼に影響することも確認しています。そして、このような結果は、効率よく自己利益を追求する行動だけでは説明できない、すなわち合理的な評価とは必ずしも一致しないことを指摘しています(McAllister 1995)。

なお、ここでいう「親和的な行動」とは、「誰かが問題や心配ごとを抱えているときには、時間をとって話を聞く。個人として関心を持つ。役に立つ情報は伝える。」といった行動をさします。

合理的な評価と感情のどちらを優先するかという点については、個人間の関係の質と時間的な長さ、さらに意思決定の質とその影響の大きさによって決まるといいます。

マカリスターの研究は、職場において、誰かが自分に対して親和的な行動を取ってくれていると、その人への自分自身の感情的な信頼が高まり、今度は自分がそ の人に対して親和的な行動を取るようになるという、循環的な構造があることを示しています。これはまた、職場の同僚との信頼を、その関係性や感情の面で深 めていくためには、日頃から交流し、互いの仕事範囲にこだわらずに助け合うことが必要であることを示唆しています。さらに合理的な評価をこえて、感情の面 で信頼し合える仲間が同じ職場にいることが、互いの成果を高める、充実したよい信頼関係をもたらす可能性を示唆していると言えるでしょう。

3.おわりに

本稿で取り上げた研究成果は、共に仕事をする人と人との信頼について、相手の能力や人格の合理的な評価よりも、相手との関係性における感情に基づいた判断の方が、互いの信頼関係を充実させ、ひいては互いの成長や仕事の成果向上につながる可能性を示すものでした。

もう一度、合理的な評価と感情は、信頼を判断するときにはどちらが大事かという話に戻ると、やはり両方が大事ということになるでしょう。特に仕事に関わる意思決定の質によっては、合理的な評価を優先すべきだと思います。たとえば、緊急性を求められる、失敗したときのリスクが大きすぎる、といった場合には、 仕方の無い判断である場合もあります。そして、感情だけに流されることの無い、相手の能力や人格的なものを合理的に見極める賢さを身につけることも必要です。

ただ私たちは、仕事だからという理由で、誰かの能力や人格だけを取り上げて、その合理的な評価だけで信頼できるできないを判断してしまってはいないでしょうか。仮に、互いに相手を気遣うような感情を関係のなかで育んでいくことができれば、共に仕事をする人との信頼ももっと豊かなものになるではないでしょうか。私たちは、人との関係や、そこに生まれる感情にもっと敏感になった方がいい、あらためてそう思います。

【注】
注1:詳しくは以下の文献、山岸(1998)、または、FXLIフォーラム 『人への信頼を考える ―社会心理学からの考察―』を参照ください。
注2:メイヤー(Roger C. Mayer)らは組織で共に仕事をする人同士の信頼について、信頼の統合モデルを作成しました。そのモデルでは、相手が信頼に値するかどうかを判断する視点として「誠実さ、善意、能力」をあげています。「誠実さ」は「他人や仕事に対してまじめに責任を果たしていくこと」、「善意」は「善良な心、他人のためを思う心、他人の行為を好意的に見ようとする心」、「能力」は「仕事を遂行するために必要な能力を有していること」です。さらに、メイヤーらは、この統合モデルを発展させていくうえで、感情にも注目すべきだという意見も述べています(Schoorman 2007)。
注3:山岸(1998)では、信頼の対象を能力と意図に分けたうえで、意図についての信頼を「人格的信頼」と「人間関係的信頼」に分類して整理しています。「人格的信頼」とは、相手の人格特性についての情報から判断する信頼です。「人間関係的信頼」とは、相手と自分の人間関係や、相手が自分に対してもっている感情についての情報から判断する信頼です。

【参考文献】
Mayer, R.C., Davis, J.H. and Schoorman, F.D.  (1995), “ An Integrative model of organizational trust.”, Academy of Management Review 1995, Vol.20,pp.709-734
McAllister, Daniel J. (1995), ”Affect-and-Cognition-Based Trust as Foundations for Interpersonal Cooperation in Organizations.”, Academy of Management Journal, Vol.38, No.1, pp.24-59
Schoorman,F.D., Mayer,R.C. and Davis,J.H. (2007), “An Integrative Model of Organizational Trust: Past, Present, and Future.”, Academy of Management Review 2007,Vol.32,pp.344-354
山岸俊男(1998)、『信頼の構造─こころと社会の進化ゲーム』,東京大学出版会
山本 茂(2006)、『職場における信頼と信頼性―上司部下関係の観点からOJTに注目して―』、日本労働研究雑誌、NO.555

(2009.6.1)

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