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男性の育児休暇がもたらす会社のメリット

研究開発&コンサルティング部
北村直也

目次

はじめに

男性で育児休暇を取得された方は、皆さんの周りにいらっしゃいますか。

男性の育児参加は、一昔前と比べると増えています。日常生活の中でも、「イクメン」という言葉を耳にすることも増えました。しかし、育児休暇の取得となると、女性に比べるとまだまだ低調のようです。政府のデータによれば、2014年度の男性の育児休暇取得率は2.3%(女性は86.6%)しかないのが現状です(注1)。

実は私自身、2年前に3か月間の育児休暇を取得しました。休暇を取得している間、男性の育児休暇に対していろいろと考えを巡らせました。その一つが男性の育児休暇がもたらす会社のメリットです。これが整理できれば、会社にとって良い情報となるはずです。男性の育児休暇取得率が増えるきっかけになるかもしれません。

もちろん、男性の育児休暇に対するデメリットを指摘する人もいるでしょう。しかし、今回はあえて男性の育児休暇がもたらす会社のメリットを考えてみたいと思います。

インタビュー調査

会社のメリットを考えるために、2人の育児休暇取得経験者にインタビューをしました(表1)。2人とももちろん男性で、しかも比較的長期(1ヶ月以上)の育児休暇を取得した方です。この2人に、取得時の状況、育児休暇による意識・行動の変化、周囲への影響について伺いました。それぞれについて整理します。

表1 インタビュー対象者の属性
育児休暇者 A氏 B氏
業種 製造業 非製造業
従業員規模 約9,000人 約150人
職種 営業 研究・開発
職位 一般職(非管理職) 一般職(非管理職)
取得時の勤続年数 21年目 6年目
全休業期間 12ヶ月(1年) 3ヶ月

 

<A氏へのインタビュー>

1. 取得の状況

―――なぜ育児休暇を取得しようと思ったのでしょうか。

「妻が高齢出産であったため、出産時も含めできるだけ傍にいてあげたいと思ったことが主な理由です。それと、子供を育てることに0歳児から関わることは貴重な体験だと思ったこともあります。」

―――復帰後は、同じ職場に戻られたのでしょうか。

「同じ営業職に戻りましたが、別のチームに配属されました。」

―――どのくらい休まれたのでしょうか。

「子供が生まれた4月から1年間です。」

―――1年というのはずいぶん思い切ったように感じますが。

「3ヶ月未満だと逆に取る意味があまりない気がしました。もちろん、1年も休めば周りに迷惑がかかると思いましたが、人事部と話し合った結果、欠員を出さない形で調整がつきました。」

―――人事部や上司へ相談したのは、取得のどのくらい前からですか。

「子供が無事に生まれてきそうだと判断できる状態になったのが、出産2ヶ月前でした。ですので、取得2ヶ月前に相談しました。」

―――その時の反応はいかがでしたか。

「人事部は淡々としていたように感じました。また、上司はネガティブに感じていたような気がします。現場に負担がかかることを心配してのことでしょう。元々、人員に余裕のある職場ではありませんでしたので。」

2.育児休暇による意識や行動の変化

―――育児休暇後の意識や行動に変化はありましたか。

「はい。今は夕食やお風呂など家族で過ごす時間を取るために残業をしないことを心がけています。以前は月40時間以上残業することもありました。実際には毎月の残業時間を17時間以内に設定しています。そのため、総労働時間は圧縮されていると思います。」

―――具体的にはどのような工夫をされているのでしょうか。

「営業活動の移動の隙間時間を最大限活用することを常に心がけています。しかし、現実には課題も多くあります。」

―――どのあたりに課題があるのでしょうか。

「決められた訪問件数があり、それにともなって提案書の作成時間が必要です。労働時間圧縮のために提案書作成の時間を削減すると、結局は中身の薄い面談になってしまいます。そのため、現実には提案書作成に時間をかけざる得ない状況です。」

―――1件1件効率的に、かつ、品質を落とさずに業務を進めるのはとても難しいですね。

「はい。同僚の中で毎回ノルマを達成する営業もいますが、時間をかけないと達成できない状況です。成果を上げている営業は長時間労働が前提になってしまっているのは組織の課題だと感じています。」

3.周囲への影響

―――育児休暇による周囲への影響は何かありましたか。

「私の場合、復帰後は新しいチームでのスタートでした。メンバーは皆私が育児休暇を取得していたことは知っていた様子で『おかえり』と声をかけてくれました。嬉しかったです。同期からもメールが届いたりして、ほとんどのメンバーは肯定的に受け止めてくれた印象です。お客様も肯定的な反応をしてくださいました。取得前に、当時担当していたお客様60社すべてに引き継ぎの挨拶に行ったのですが、多くのお客様が応援してくれて非常にうれしかったです。」

―――それは復帰する方も安心できますね。社内の反応には何か背景にあるのでしょうか。

「会社は今、働き方を変えようとしています。ノー残業デーの設定やモバイルワークの推奨など、生産性向上と総労働時間の削減に向けた取り組みを推進しています。ですので、私が育児休暇を取得したことは周りに影響を与えていると思います。目標を達成するには残業が前提になっているところがあります。特に若いメンバーほど、目標を達成するために多くの時間が必要だったりします。私が育児休暇を取得したことで、限られた時間でどのように生産性を上げていくのか、そのような視点で若いメンバーにとって働き方を真剣に考えるきっかけになったようです。」

―――その他何か周囲への影響という点でありますか。

「育児休暇中にファザーリングジャパン(注2)の存在を知り、賛助会員になりました。行政や新聞社から取材いただき情報発信していただきました。これは会社にとってもプラスだと思っています。後輩にとっても、1年間育児休暇を取った先輩がいることは心強いですからね。また会社のCSRや採用にも良い影響があると思うので、情報発信は会社にとってメリットがあると考えています。」

<B氏へのインタビュー>

1.取得の状況

―――なぜ育児休暇を取得しようと思ったのでしょうか。

「家事育児の生活環境を整えたいと思ったからです。妻とは別居婚でして、妊娠がわかった時は、妻は私と離れた場所で働いていました。このまま別居を続けることは難しいと思い、妻が人事に転勤をお願いしました。人事の理解もあって別居は解消さたのですが、妻の転勤と出産が重なってしまいました、慣れない環境で産後間もない妻に家事や子育てを任せることは難しいと思い、育児休暇を取得することにしました。」

―――実際に取得された期間はどのくらいだったのですか。

「3ヶ月です。家事育児を一通り回せるだけの生活環境が整うのがこのくらいかな、と思い決めました。」

―――復帰後は、同じ職場に戻られたのでしょうか。

「同じ職場に復帰しました。限定的な期間であったことと、専門職であることも影響したかもれません。」

―――育休の相談はいつ頃、どなたにされたのでしょうか。

「初めは直属の上司にしました。妻の出産の3ヶ月前くらいだったと思います。当時の上司はワーク・ライフ・バランスに非常に理解のある方で、取得しにくい雰囲気はほとんど感じませんでした。メンバーにもワーキングマザーの方や3児のパパなど先輩がいらっしゃったので。ただし、リソースに余裕のない職場でしたので、取得期間中をはじめ職場の方たちにとても苦労をかけたと思っています。人事部へのアクションは上司にとっていただきました。」

2.育児休暇による意識や行動の変化

―――育児休暇後の意識や行動に変化はありましたか。

「復帰後は仕事に対する意識は大きく変わりました。具体的には、一人で仕事を抱え込まずに周囲の協力を得ることを心がけるようになりました。また、準備に時間をかけて予測の精度を上げることが効果的だと思えるようになりました。」

―――それは素晴らしい気付きが得られましたね。帰社時間にも影響しているのでは。

「はい。私はできれば19時までの帰宅を目指したいと思っています。欲を言えば18時に帰宅したいです。家事負担が集中する18時から21時に家にいることが大切です。育児休暇中には夕食づくりをしましたが、子供を見ながら一人でしなければならないのは壮絶でした。」

―――なるほど、それは大変でしたね。残業についてはいかがですか。

「以前は帰宅が22時を回ることも多く、月残業時間は40時間を超えることも多々ありました。今は残業の曜日をあらかじめ夫婦間で協議し、仕事の負荷をコントロールしながら月20時間以内に抑えるように試行錯誤しています。その結果、前年の総労働時間は約1900時間でした。育児休暇取得前は2100時間ほどありましたが、パフォーマンスを下げずに200時間ほど短縮できました。これは職場内のメンバーの協力が最も大きいです。」

3.周囲への影響

―――育児休暇による周囲への影響は何かありましたか。

「3ヶ月間という限られた期間ではありましたが、事前に業務を引き継ぐ必要がありました。担当業務のうち難易度の高いものは上司に、比較的簡易なものは職場の派遣社員に担当してもらうなど、現有の人員で業務を割り振りました。負担をかけることにはなりましたが、良い影響もあったと思っています。」

―――具体的に、良い影響とはどのようなことでしょうか。

「業務を引き継ぐ過程で業務を棚卸ができ、職場の業務が見える化されました。そうすると、従来の私のやり方に工夫の余地があることがわかりました。その点を上司からフィードバックしてもらい、改善のきっかけをいただきました。短期的には周囲に負担をかけましたが、中長期的には職場の効率化やしくみの整備など、良い影響もあったと感じています。」

インタビューのまとめ

ここまでのインタビュー結果を簡潔に整理します(表2)。

表2 インタビュー結果の整理
項目 小項目 A氏 B氏
取得時の状況 取得の理由 高齢出産なので妻の傍にいてあげたいため子育てに参加したいため 別居から同居の新生活なので家事育児の生活環境を整えるため
相談先 直属の上司、人事部 直属の上司 (人事部には上司から相談)
相談時期 取得2ヶ月前 取得3ヶ月前
復帰の状況 復帰は同じ職種。別組織へ異動 復帰は同じ職種、同じ組織
育休中の代替要員 代替要員なし 代替要員なし
意識・行動の変化 意識・行動の変化 家族と時間を過ごすため、残業をしないように心がけるようになった 家事育児をするため、19時帰宅を目指すようになった
総労働時間の削減効果(毎月の残業時間変化) 効果あり(以前は40時間を超えることもあったが、現在月17時間) 効果あり(以前は40時間を超えることが多々あったが、現在月20時間)
生産性向上に向けた業務上の工夫 隙間時間の活用 周囲の協力を得る 準備に時間をかけ、予測の精度向上
周囲への影響 周囲の受け止め 職場のメンバー(復帰異動後の組織)・お客さまは肯定的 職場のメンバーは業務の負担あり(受け止めの印象は不明)
社内への影響 若手メンバーは働き方を真剣に考えるきっかけになる 業務の棚卸により職場の業務が見える化。従来業務の改善
社外への影響 行政や新聞社から情報発信(会社のCSRや採用、会社の後輩へ間接的影響) 特になし

 

考察:男性の育児休暇は会社にとって役立つのか

今回のコラムでは、男性の育児休暇がもたらす会社のメリットについて焦点を当てています。この限られたインタビューからはっきりわかった男性の育児休暇のメリットは、2つあります。本人の意識変革と、その結果として表れる周囲への良い影響です。

<本人の意識変革>

メリットの1点目の意識の変革は、より具体的にいえば、働き方に対する考えが変わったということです。2人のインタビューからは、効果的・効率的な仕事の進め方や仕事の見える化に意識的に取り組んでいることがうかがえます。これは2つのことが関係していると思われます。

1つ目は、時間的な制約です。もちろん、育児休暇を取得せずとも時間を意識して仕事に取り組んでいる人も多いでしょう。しかし、時間をかけることができないという物理的な制約が、その意識をより強くしているものと思われます。インタビュー対象者から共通して見られるのは、就業時間を明確に意識し、家庭も仕事も両方を大切にするという強い意志の中で、さまざまな工夫を試みていることです。

2つ目は取得に必要な労力の大きさです。男性の育児休暇取得者数は非常に少なく、また取得しにくい雰囲気があるのが特徴です (注3)。こうした中で育児休暇を取得しようとした場合、上司や周りの人に対して、簡単な説明で済ませることはできません。相応の準備をして臨むことになります。こうしたことが、自分の働き方について深く考えるきっかけになり、ひいては、現状を変えていこうと自発的に意識を変革する原動力になると思われます。

<周囲への良い影響>

メリット2点目の周囲への良い影響は、2人のインタビューから見られました。A氏の場合は周りの人にも問題意識が芽生え、B氏の場合は職場全体の業務改善につながりました。 ただし、育児休暇制度を取りさえすれば周囲に良い影響を与えるというような単純な話ではありません。

A氏は、目標達成のためには残業が前提となっている雰囲気の中、極力残業をしないスタイルで仕事に取り組んでいます。早く帰宅することを最優先にした取り組み姿勢が周囲に影響を及ぼしていると推察されます。周囲の雰囲気に流されない強い意思をインタビューからも感じられました。 B氏は、周囲の協力を得ることを心がけて総労働時間の圧縮に努めています。

B氏の周囲には心温かいメンバーに恵まれているのかもしれませんが、少なくともメンバーの理解や納得が必要です。メンバーとのコミュニケーションを重視する姿が見られました。 周囲への良い影響は、取得者本人によるこのような努力が伴ってのことだということを見逃してはいけません。

確かに、男性の育児休暇取得にはマイナスの影響もあることは事実です。A氏B氏ともに余裕のない職場であったことから、休暇取得中は業務の負荷がかかったメンバーがいたことが推察されます。現在はどの企業も人手不足で悩んでおり、人的リソースが十分な職場はほとんどないでしょう。

しかし、マイナスの影響があるからといって、何もしないままでは成果を上げることはできません。男性の育児休暇をきっかけに、職場の働き方を考え、限られたリソースで生産性を上げることができれば、会社にとって大きなプラスの効果になります(注4)。

従業員の働き方を見直そうとする企業が増えている昨今において、育児休暇の取得経験がある社員は貴重な存在です。自律的な意識の変革と周囲への良い影響を考えると、男性の育児休暇取得は企業にとって十分メリットがあるといえるのではないでしょうか。

最後に

私たちは高齢化社会に入っています。労働力が不足する中、生産性を高めていかなくてはなりません。そのような時に、男性が育児に参加するために会社を休むということは、一見矛盾するような取り組みに思われるかもしれません。確かに、短期的には生産性を落としてしまうケースもあるでしょう。しかし、中長期的に見ると、取得者はもとよりその周囲を含めて働き方を変革し、職場の生産性を見直す良いきっかけになります。それは、やらされ感ではなく、強い内発的動機からの意識変革がきっかけになり、周囲へ伝播する可能性があります。男性の育児休暇取得は、そのひとつの方法なのではないかと私は考えます。今回のコラムで、男性の育児休暇取得率が今以上に向上し、会社や個人が相互に良い影響を受け取れる一助になれば嬉しく思います。

<参考文献>

注1:厚生労働省「平成26年度雇用均等基本調査(速報版)」

注2:ファザーリング・ジャパンとは、「Fathering(父親であることを楽しもう)」の理解・浸透を目的として2006年に設立された特定非営利活動法人(NPO法人)

注3:厚生労働省「平成25年度育児休業制度等に関する実態把握のための調査研究事業報告書」

注4:あるアンケート調査でも、男性の育児休暇取得は職場にとってプラスの影響の方が大きいという結果が出ている。「男性の育児休暇取得に伴う職場への総合評価として、プラスの影響とマイナスの影響どちらが大きいか」という5件尺度の調査(N=272)から、以下の結果が得られている。 1.プラスの影響の方が大きかった(11.0%) 2.どちらかというとプラスの影響の方が大きかった(31.6%) 3.どちらともいえないは(44.9%) 4.どちらかというとマイナスの影響が大きかった(9.6%) 5.マイナスの影響の方が大きかった(2.6%) 出所:佐藤 博樹・ 武石 恵美子(2014)『ワーク・ライフ・バランス支援の課題: 人材多様化時代における企業の対応』東京大学出版会。107ページ。

(2016.03.15)

著者プロフィール

北村 直也
北村 直也

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 研究開発&コンサルティング部 コンサルティンググループ

2007年 富士ゼロックス総合教育研究所に入社。従業員満足度調査(ES調査)やお客さま満足度調査(CS調査)を担当。

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