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ワークライフバランス(WLB)がもたらすものは何か?

コンサルティング営業3部
髙橋督肇

■はじめに

ワークライフバランス(以下、WLB)という言葉を耳にする機会も多くなってきたのではないでしょうか。先日、訪問先の役員の方から、「自分の担当業務以外のことに対して積極的に関わろうとしない若手が多くなった」という話を伺いました。理由は、担当業務以外に関わることで業務量が増え、結果として労働時間の超過につながるからと考えるからだろうということでした。その若手の社員はWLBを考えて、業務への関わり方を制限するといった選択をしているということかもしれません。その会社は技術力の高さをコアコンピタンスとしている会社ですので、そういった若手の働き方を通じて会社の将来を危惧する役員の方のお気持ちはよくわかります。しかし、WLB導入の背景は個人の時間の創出ですから、このような考え方のすれ違いが起きるのも無理はないのではないでしょうか。

ここで、考えてみたいのは、WLB推進によってもたらされるものとは何かということです。WLB導入の背景、企業にもたらされるものを通じて、私たち個人にもたらされるものは何かということについて考えてみたいと思います。

■WLB導入の背景

日本では政府が2007年より取り組みをスタートしており、WLB導入の背景として以下のように述べています。“我が国の社会は、人々の働き方に関する意識や環境が社会経済構造の変化に必ずしも適応しきれず、仕事と生活が両立しにくい現実に直面している。誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、今こそ社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない”(注1)。

つまり、急速な技術革新や国際化の進展、少子高齢化による労働人口の減少などといった社会構造の変化に我々の働き方が追いついていない、言い換えれば従来の「労働時間の長さ=生産量」といった考えから抜け出せないために、長時間労働により仕事と生活とのバランスが取れていないということです。高度経済成長期のように経済が成長している時代には、目指すゴールが明確で、その達成に向けて仕事量を効率よくこなすことが重要な意味を持っていたかもしれません。

しかし、今日のように少子高齢化が進み、労働人口が減少していく中では、これまでの働き方を続けることで成長していくのは難しいと言わざるをえません。そこで、これまでの働き方を変革して生産効率を上げること、そしてそれによって個人の時間を捻出し、健康で豊かな生活を目指すというのが、政府によるWLB導入の主張であり背景です。

■WLBが企業にもたらすもの

このように、個人にとっては時間的な余裕が生まれるというメリットがありそうです。では、企業にとってはどうでしょうか。WLB先進国と呼ばれる北欧諸国(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド等)では、WLBにより生産性、業績、CS、社員のモラールの向上、また優秀な人材の確保と定着など、様々なメリットが報告されています。さらに、労働時間の短縮は、コスト削減という大きなメリットをもたらします。このコスト削減という側面から、まず何よりも労働時間を減らすことから始めるといった企業も多いようです。

一方で、単なる労働時間の削減を掲げるばかりで、生産性の向上に対して具体的な施策を打たなければ、企業側と従業員側の距離が離れていくのは想像に難くありません。企業にとってのメリットの享受は適切な運営が不可欠です。

■私たち個人にもたらされるもの

前述から考えてみると、適切な運営により、個人にも、企業にもメリットが期待できそうなWLB推進ですが、ここで、個人にとってもたらされる最も大きな果実は何かを考えたいと思います。もちろん、前述のように労働時間の短縮により家庭(子育て、介護等)での時間や自己啓発等の時間が取れるようになるというのは大きなメリットです。しかし、それよりも大きなメリットがあると、私は考えます。それは、どういったWLBを取るにしても、それを考える過程で自分自身と向き合うことができるようになることです。

働き方は様々です。私の経験からも、仕事とプライベートの境界が曖昧であり、それどころか分けるという発想すら持たない人もいれば(経営者や知識労働者はほとんどそうだと思います)、定時5分前からソワソワしだし、定時きっかりに帰社し、有給休暇も全て消化する人もいました。両者とも、私には幸せそうに見えました。なぜでしょうか。それは、彼らが自分の働き方はこれで良いのだと、自分自身の意思で決定していたからだと思います。私は、結果としてどういった働き方をするのかというよりも、その決定に至るプロセスこそがWLB推進がもたらす最大の果実であると思います。

自分にとってのWLBを考えるとき、まず、自分にとってのWorkとは何か、そして、Lifeとは何かを考えることから始まります。あなたにとってWorkとは何でしょうか。生活のために仕事をしている、やりたいこと好きなことを仕事としている、やりたいことや夢を実現するために仕事をしている、様々だと思います。それでは次にLifeとは何でしょうか、友人と充実した時間を過ごす、家族との時間を十分に持つ、仕事や趣味に没頭する、社会への貢献活動をする、これも様々でしょう。そして、これらのBalanceとなると、考え方や価値観だけでなく、人生の時間軸によっても大きく変化するものとなります。

つまり、WLBを考えるということは、自らの人生を考えるということに繋がるのではないでしょうか。その時その時で何を重視するのか、どんなBalanceを取りたいのか、取っていくべきなのか。それを一人ひとりが考え実現していること、言い換えると生き方や自分にとっての仕事の意味を考え、自己決定しているという実感を持つことが、企業、社会、日本にとってのメリットよりも遥かに身近で、最も本質的なメリットであり、WLBキャンペーンがもたらす最も大きな気づきであると思うのです。

■おわりに

今後、WLB推進による働き方変革の呼びかけがますます拡大していき、多くの方々が働き方について問われることが多くなると思います。その際、WLBを企業の施策の一つとして捉えるだけではなく、自らにとってのWorkとは何か、Lifeとは何か、またそのBalanceについて考えること。そして、なにより自らの生活や行動を自己決定しているという実感を持つこと。そうすることで、WLBキャンペーンは社会や企業のみならず、個人にとって気づきという大きな果実をもたらせてくれるのではないでしょうか。

<参考文献>
注1:内閣府(2007)『仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章』

(2015.12.16)

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