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人材育成担当者が考えるべきこと

ソリューション統括部 コンサルタント
元木幹雄

はじめに

 大企業の多くは、人材育成を重要なテーマとして掲げ、人事や人材開発部門に人材育成担当者を配置している。しかし、(直接的に研修担当者と称されている場合もあるが)人材育成担当者は、研修という一手段だけに関心を持ち、それ以外の人材育成の手段は、全く念頭に置いていない、あるいは関心がないのでは、と感じることがある。
通常、人材育成を考える際、その際の代表的な手段として「OJT(業務を通じたトレーニング)」「Off-JT(業務外でのトレーニング)」 「Self development(自己啓発)」などが挙げられる。しかし、多くの人材育成担当者は、人材育成と言うと「Off-JT(業務外でのトレーニング)」 いわゆる研修以外の方法は、自分たちの責任領域ではないので考慮しない、と考える傾向があるのではないだろうか(もちろん全ての人材育成担当者を指しているわけではないことをお断りしておく)。

人材育成を「研修」を前提に考えたときの問題点

ケース1

とある会社に訪問したときである。昨今の不況で教育予算がカットされたため、ほとんどの研修が延期されてしまい、今期はやることがなくなったと嘆いていた人材育成担当者に出会った。この人材育成担当者は、自らの主な業務は「階層別研修をはじめとした、各種研修を企画・実施すること」と認識しており、「教育予算がカットされているので、今期は何もできない。仕方ないので、今期は来期に向け、予算をかけずに研修を実施する方法を考えている」と言う。そして1泊2日の宿泊研修を1日の通い研修にし、講師は外部講師から社内講師に切り替え、研修会場はホテルから社内の会議室に移し、受講生の交通費は受講生の所属部門に持ってもらうことで、従来予算の3分の1以下にできると得意げに語るのだ。

ケース2

 別の会社に訪問したときは、社長から次世代の経営者(リーダー)育成を命じられていた。そこでMBA的な研修を想定し「戦略」「マーケティング」 「IT」「人的資源管理」「財務管理」等の必要なテーマを洗い出し、それぞれのテーマに応じて有名ビジネススクールの著名教授を招いて半年間に渡って実施すると人材育成担当者が言っていた。研修企画案を練りに練って、実施スケジュールを考える。社長をはじめとする経営陣に研修へ参加いただこうと、役員のスケジュールをにらみながら、多忙を極める著名教授のスケジュールをおさえる。更に、これまた多忙な次世代の経営者(リーダー)候補に研修へ参加してもらうために、対象者が所属する部門の担当役員に受講必須と命じてもらうといった根回しも含め、数ヶ月前から研修に向けて準備する姿は、本当に大変なものだった。

上記の2社のケースは、一見全く異なるものだが、共通することは人材育成を「研修」を前提に考えていることである。予算が厳しいのであれば、研修予算をできるだけおさえるのではなく、研修以外の手段で人材育成を考えることはできなかったのであろうか。次世代の経営者(リーダー)を育成するのであれば、そもそも研修ではなく、経営幹部として必要な知識・スキル・経験を身につけられるポジションに抜擢する、という発想はなかったのか。客観的に見ると「何かおかしいぞ」と感じてしまうことでも、人材育成担当者になると、知らず知らずのうちに「人材育成担当者は研修によって人材育成を行うのだ」という前提をもってしまうようだ。
 言うまでもなく人材育成を考える際、その手段は研修だけにとどまらない。上記にも挙げたが「上司からのOJTを通じて育成を図る」ということもあれば、 「自らに欠けていると感じている知識・スキルを身につけるために通信教育講座などを通じて自己啓発に取り組んでもらう」ということも考えられる。ある程度の社会人経験を積むと「業務そのものを通じて成長できる」ということを多くの人は悟るだろう。その意味では人材育成を考える際、人事ローテーションそのものも育成機会となる。社内公募制度やFA(フリーエージェント)制度といった仕組みを検討することも、人材育成を考える上で重要なことだ。あるいは人事評価の中で実施される「目標設定」や「評価」も、単に処遇を決定するためのものではなく、上司が人事評価を通じて、部下を育成する機会となりえる。そう考えると上司と部下が面談する機会を設ける、あるいはその機会を強化するということも、人材育成の手段の一つだ。つまり、挙げればきりがないほど、いろいろな 人材育成の手段が考えられる。
 こうした議論を人材育成担当者に対して投げかけると、極めて冷静に「その通りだ」と受け止められる。分かっているなら、もっと発想を広げて人材育成の手段を考えようと言いたいところだが、決まって、人材育成担当者からは、私の担当は研修の企画と実行で「人事ローテーションや各種人事制度の企画・設計は、 他の人が担当しているので、私の役割ではない」「人事評価についても、私ではなく、他の人が担当しているので、口を出すことができない」といった回答が戻ってくる。
大企業の人事・人材開発部門の多くは、人材育成の手段を分解し、人事制度の担当、昇進・昇格及びローテーションの担当、人事評価の担当、研修の担当、といった具合に、それぞれ担当者をアサインしている。更に人材育成に力を入れている企業になると研修担当の中でも、新人研修担当、中堅社員研修担当、管理職研修担当と、一層細分化が進む。このように細分化が進むと、担当者の集中すべきことは明確で効率は格段に上がるだろう。一方で、人材育成担当者に限ったことではないが、大企業の人事・人材開発部門に所属する担当者は、限られた領域の中で最高の成果をだしてやろう、というような部分最適で物事を考えていることが往々にしてあるのではないだろうか。結果、全体で見ると、おかしなことが起こる。
 もちろん、人事・人材開発部門全体を統括する責任者が全体を俯瞰し、全体最適を目指した組織編制や業務配分、そして本来の人材育成担当者が考えるべきことを、きちんと伝えられれば、これらのことは解決されるかもしれない。これらの問題は人事・人材開発部門全体を統括する責任者の問題とも言える。しかし、人材育成担当者自身も一度、冷静になって普段、自分自身が言っていることを思い起こしてほしい。「部門間に壁を取り払うために、横のコミュニケーションを促進してほしい」「視点を高く持ってほしい、視野を広げてほしい」「部分最適ではなく、全体最適を考えてほしい」「物事の本質を追求し、やるべきことを考えてほしい」などと、社員に期待することを自ら考え、研修を企画しているのではないだろうか。

ひとつ上のレベルの課題を理解する

 そこで、人材育成担当者ならば、いきなり全社経営課題を考えるというのは無理があるので、まずは自分のレベルより、ひとつ上のレベルの課題をきちんと理解することを提案したい。例えば、新入社員研修の企画・実施を主に担当しているのであれば、新入社員研修後の新入社員の育成プランについて考える。「職場に配属された後のOJTの展開」「半年後、1年後のフォロー研修」「フォロー研修までに実施してもらいたい自己啓発内容」等々についても、視野にいれるのだ。新入社員の育成に関して、全ての施策も視野にいれた全体像を描いた上で、新入社員の研修の企画・実施を考えると、自分がやろうとしていることの位置づけがわかり、場合によっては優先順位を変えたり、一部の作業が不要になることも多いはずだ。特に、仕事を与えられてすぐに作業をはじめてしまうタイプの人であれば、1時間でも良いので全体像から考えてみるようにすべきだ。
 最初は、自分のレベルよりひとつ上のレベルの課題を考えることは難しいはずだ。しかし、人材育成という会社の中でも極めて重要なミッションを担うためには、是非ともマスターして欲しいことである。

(2009.4.1)

著者プロフィール

元木 幹雄
元木 幹雄

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 研究開発&コンサルティング部 コンサルティンググループ マネジャー

人事教育コンサルティング会社及び遠隔通信制(オンライン)ビジネススクールにて営業や企画スタッフを経験後、2001年に富士ゼロックス総合教育研究所に入社。人事制度及び人材育成制度の導入・定着に向けたコンサルティング、人事情報システムやタレントマネジメントシステムの導入支援、リサーチ&アセスメントの企画・実行支援に従事し、現在に至る。産業能率大学大学院経営情報学研究科(MBA)修了。

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