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顧客ロイヤリティを獲得し顧客に選ばれ続けるために今、何が必要か ~キーワードは感性と感動!~

ソリューション統括部 コンサルタント
高城晴美


朝一番の商談に向かうために、顧客の最寄り駅付近でプロジェクトメンバーと事前打ち合わせをすることになったとする。さて、あなたはファーストフードのチェーン店と、古びた昭和の香り漂う喫茶店のどちらを選択するだろうか?コーヒー一杯の価格はファーストフードが安く、コーヒーが出てくるまでの時間も短いが、昭和風喫茶店は、中高年サラリーマンでいつも満席である。なぜだろうか?店の内装、席のゆったり感、店員の雰囲気・・・そういったものが中高年サラリーマンにとっては心地よいからだろう。これから商談に臨むにあたり、少し精神的なゆとりを持つためには、少し価格が高くても、そちらを選ぶ人が結構いるということだ。その一方で、ファーストフード店を心地よいと感じ、選択する人も間違いなくいる。

いまやモノや情報は溢れかえり、顧客には多種多様な選択肢がある。何が顧客を振り向かせ、その心をとらえるのか、どの企業においても、悩みはつきない課題である。
そこで、本稿では、目まぐるしく新製品、サービスが出ては消えていく現代において、顧客に選ばれ続けるためには、何が必要なのかを考えていくヒントを探ってみたいと思う。

インデックス
  1. 顧客との長期的な関係をつくる顧客ロイヤリティ
  2. 企業やブランドとの接点における顧客の「経験」の質が重要
  3. 顧客の感覚や感情を捉える「経験価値マネジメント」
  4. 終わりに

顧客との長期的な関係をつくる顧客ロイヤリティ
はじめにマーケティングの変遷をひも解いてみると、1970年代は新規顧客獲得による市場シェア拡大を志向したマス・マーケティングが中心であったが、1990年代後半以降になると、モノは行きわたり、市場そのものが拡大しなくなったため、市場の飽和感が強くなった。そこで、マーケティングの方向性は、顧客との関係づくりを重視し、既存顧客の維持を基本戦略とする「関係性パラダイム」が隆盛となった。これは、企業が製品やサービスを機能や便益として提供し顧客はその対価を支払うという伝統的マーケティングのパラダイムをベースにしながらも、より長期的、継続的な取引関係に焦点を当ててお互いの利益と持続的な成長を目指そうとしたものである。
また、パレートの法則や、顧客維持率を5%改善させるだけで利益を95%向上させることができるというF.F.ライクヘルドの研究成果が注目されたことから、1990年代後半以降とくに「顧客ロイヤリティ」が重視されるようになった。顧客ロイヤリティを獲得するためには、顧客満足の向上がカギとなるという考え方は、今やよく知られているが、具体的にどのようすればよいのか、という問いに対する応えは依然として明確ではない。

企業やブランドとの接点における顧客の「経験」の質が重要
これから、顧客ロイヤリティ獲得のため何が必要なのかを考えていくヒントをいくつかご紹介していきたいと思う。
K.アルブレヒトは著書「見えざる真実」の中で、顧客ロイヤリティ獲得の前提として、顧客は自社の提供しているものの中の何に価値を感じているのか、顧客が「価値を見出す要因」を捉える必要があるとした。そこで顧客の期待を軸に顧客が価値を見出す要因を4段階にわけ、顧客は、どの段階のどのような要因に価値を見出しているのかを明確に捉えることを第一ステップとし、次のステップで、その要因に新たな価値を付加することができれば自社の競争優位や顧客ロイヤリティを獲得できるとした。その4段階とは次のとおりである。


そして、顧客が価値を見出す要因を把握するためには、顧客の期待の調査が必要である。その際、顧客の期待は製品の仕様(客観的な特性)に対してなのか、あるいは製品が提供する便益(顧客の主観的価値)に対してなのかを区別して理解することが重要となる。顧客の主観的価値は、顧客が企業やブランドとの接点において感じたことや感動したことなどの「経験」によって形成される。K.アルブレヒトは、その著書の中で顧客の「経験」について次のように述べている。
「顧客の経験すべてが、そのクオリティに対する認知を決定する。しかも、その認知は、組織の提供する製品やその提供プロセス、そして顧客の期待に応えようとするあらゆる活動から影響を受ける。すなわちクオリティは、顧客のあらゆる経験と満足によって決定されるのである」
願望価値、未知価値を提供するためには、顧客の主観的価値をいかに付加できるかということが、顧客ロイヤリティの獲得を左右する重要な要因ととらえている。

さて、ここで問題になるのは、目に見えない「顧客の主観的価値」をどのようにして理解するのかということである。

顧客の感覚や感情を捉える「経験価値マネジメント」
そのひとつのヒントとして、バーンド・H・シュミットが提唱する「経験価値マネジメント(customer experience management=CEM)」をご紹介する。
経験価値とは「製品・サービスの価格、機能にではなく、顧客の感覚や感情を通した経験や体験、感動。つまり顧客の感性や感覚に訴えかける価値のこと」としている。
最近では、顧客の「体験」は、店舗やマスメディアでの広告ばかりではなく、ホームページはもちろん、web上の口コミサイトやコミュニティサイトでの書き込みなど、企業との間に多様な接点を持っている。経験価値マネジメントでは、そのあらゆる顧客接点における「経験」をマネジメントし、顧客との関係性を築き、顧客ロイヤリティを獲得しようとするのである。その際、顧客の感覚や感情を通した体験に焦点を当てて、顧客との関係性を築くという点がユニークである。

経験価値についてもう少し詳しく見ていこう。経験価値には、五感に直接訴えることで感覚的に生み出される「感覚的経験価値」、顧客の内面にあるフィーリングや感情に訴えることで情緒的に生み出される「情緒的経験価値」、顧客の知性に訴える「創造的・認知的経験価値」、ライフスタイルや他人との相互作用に訴える「行動的経験価値」、集団社会における個人の自己実現への欲求に訴求する「(準拠集団や文化との)関係的経験価値」の5分類がある。
シュミットは、これまでの顧客志向アプローチとして普及しているCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)との違いについては次のように述べている。CRMは実務的にはコールセンター内で使われるデータベースとソフトウェアを指すことが多く、部分的な成果を生むにとどまっている。またCRMは企業側からみた取引に役立つ情報で構成されており、顧客との関係性を築くことは実は重視していない。その点で、経験価値マネジメント(CEM)とは全く異なるとしている。

終わりに
顧客ロイヤリティを獲得し顧客に選ばれ続けるためには今、何が必要なのかという問題意識のもとに、いくつかのヒントとなる理論やコンセプトを紹介してきた。ここで言えることは、製品やサービスそのものによる提供価値だけでは、顧客の評価は「当たり前」に留まり、「すばらしい」という評価を得るためには、自社との接点において顧客にできるだけ多くの感性、感動に訴える「経験」をしてもらうということが、不可欠であるということである。
企業との接点における顧客の「経験」をよりよいものにするために、とくに小売・サービス業の企業では心をこめた応対やクレーム対応などフロントラインのトレーニングに熱心である。だが、常に顧客の期待を上回り、顧客ロイヤリティを獲得するためには、顧客のよりよい「経験」のためにという視点で、バックヤードも含めた組織全体の業務プロセスを構築することが必要となると考えられる。また、そのために経営戦略としてのビジョン策定とその方針浸透の徹底が前提となるだろう。

最後に、企業にとっては、マス・マーケティングの時代に比べて今はとても複雑でやっかいになったと感じる向きもあるかと思うが、逆に複雑でわかりにくい時代だからこそ、感性や能力をフルに発揮し、顧客との関係を築いていくことができる面白い時代になったともいえると筆者は感じている。

【注】
・嶋口充輝「マーケティング・パラダイム・キーワードで読むその本質と革新」有斐閣、2000年
・K.アルブレヒト「見えざる真実」(和田正春訳)、日本能率協会マネジメントセンター、1993年
・バーンド・H・シュミット「経験価値マネジメント」(嶋村和恵/広瀬盛一訳)、ダイヤモンド社、2004年
(2010.10.8)

著者プロフィール

高城 晴美
高城 晴美

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 セールスイノベーショングループ コンサルタント

働く人の自立的な学びの情報環境づくりのマーケティング企画およびコンサルティング営業を経験後、2000年㈱富士ゼロックス総合教育研究所に入社。PSSなどグローバルパートナーの科学的な営業教育プログラムのローカライズ開発、オーダーメイド開発、リサーチ&アセスメントの企画・実行支援に従事。現在は、「法人営業力強化」をテーマにソリューション開発とマーケティング展開に取り組んでいる。

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