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『CHO-最高人事責任者が会社を変える』

topix_23_i_01.gif 東洋経済新報社 定価(本体2800円+税)
金井壽宏・守島基博 [編著]
原井新介・出馬幹也・須東朋広 [著]

目次より
序 章 人事の原点からCHOへ
第1章 これまでの人事からこれからの人事へ
第2章 これからの人事がもたらすべきもの:CHOの役割
第3章 人事を評価する−測定できなければ始まらない
第4章 人事の処方箋−すべては見ることから始まる
第5章 CHOの機能と役割と証言−チーフ・ヒューマン・オフィサーとは?
第6章 事業の盛衰と変革への仕掛け
第7章 CHOの育成
第8章 人材マネジメントのバリューチェーンとCHO

第7章 執筆者 出馬幹也
株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 プリンシパルコンサルタント
topix_23_p_02.jpg 「人事制度を変えても、研修を繰り返しても、それだけでは会社は変わりません。なぜ今それを行うのか、それが何に繋がるのかを明確にして、最後の最後まで、従業員の心に語りかける責任者の意志と決断、具体的な行動があって初めて会社は変わりはじめます。高い視点と広い視野をもって、”経営”と”ひと”を結びつ けていくこの”CHO”という概念は、混迷の時代にあって、もう一段の変革と成長を果たしていかねばならない日本企業に対し、示唆に富む仮説を提起してい るのではないか、と私は思います。本書をきっかけとして、志を同じくする方々と出会い、語り合う機会が得られれば、と願っております。」

第7章 CHOの育成
CHOの機能と役割

【戦略経営と人事経営】
新しい人事のプロフェッショナル、CHOを今後どのように育成していけばよいか。本章のテーマを考えるにはこれまでの章で語られてきたCHOの機能と役割を踏まえつつ、経営と人事との結びつきについて改めて考えておきたい。
私は常々、企業変革を人事の面からどう支援するか、お客さまのコンサルティングをする際に一つの包括的なフレームワークを活用している。

これは企業経営と人事の仕組みをいかに結びつけるか、を示そうとしたものであり、ビジョンからつながる戦略経営と、能力ある人材を採用・育成しプールす るという人材経営を、いかにマッチングさせていくかに力点をおいている点に特徴がある。組織の論理と人材をつなぐ部分が中央にある斜めのラインであり、そ の現実的なオペレーションを担うのがミドルを中心とした組織マネジメントである。組織ビジョンを戦略へと落とし込み、それを実行するために求められる人材 の役割期待を明らかにすることは主に経営層の役割。実際、抱える人材プールの中で誰を選抜し適材として各役割に登用・配置するのか、そして配置した人材が 生み出す成果を適正に評価し、それに見合った賃金と地位、という形での処遇を行う、これらを進めるのが企業経営と人材とを繋ぐマネジメント層の役割なので ある。
通常、多くの企業で人事あるいは人事改革という課題を取り上げると、この斜めラインの左下最後の部分、評価・処遇の仕組みばかりをどうするか考えがちで あ る。しかし、人事のシステムとは本来、先の段でたどったように、組織ビジョン・戦略から続く一連の流れに沿って確立されるべきものであるはずである。ビ ジョンに始まるこの斜めラインに基づいて人事をとらえれば、例えば、環境変化に対応した自社の新たなビジョンや戦略から考えると、現時点で設定され共通認 識されている採用要件・登用要件などの「人材要件」を変更しなくてはならない、あるいはまた能力・適性に見合った人材を登用する仕組みが自社ではうまく確 立されていない、機能していないといったことに気づき、根本から考え直していこうとすることができるはずである。しかし、現実にはこうした議論を開始し、経営層からミドルマネジメントにいたるまでが個々にリーダーシップを発揮して、人事の仕組み・システムを運用・改訂している企業はなかなか見られない。
また別の面、いわゆる組織に働く人材という観点から企業人事を見てみるならば、現在企業と個人との関係性が大きく変化していることに気づく。かつて、個 人 は企業組織の中に取り込まれており、極論すれば会社のために一生懸命働くだけであったが、今では企業も家庭も、また社会も等距離に位置づけ、それら全体の バランスをとりながら、自分の人生を善く生きようとする個人が増えている。かつてのように企業の論理を押しつけ、無言の圧力ともいうべき力で個人をピラ ミッド構造の中に押し込めるような仕組みでは、もはや個人は納得しなくなっているのだ。今や、企業と個人の関係は対等となっている。企業は必要な人材像と その要件を明示しなければならないし、個人の側も自ら確固たるキャリア意識を持って自律し、企業の示した方針にパフォーマンスで返していくという新しい関 係性が求められている。企業組織としてはこのような関係性をベースに人材の力を最大に活かすことが必要であり、それが結局は最大成果を生むのである、とい う認識は私ならずとも多くの専門家によって語られているところとなっている。
今後、組織にとっては乖離しがちな企業の論理と人材の論理をつなぐことが良き経営の実践と継続のために不可欠であり、同時に経営と個人が対話できるよう な インフラづくりを行っていかなければならない。その現実的なキーとなるのがミドルを中心としたマネジメント層であり、CHOはその最上位に位置する役割・機能の一つといえる。
ただし、ひとつ留意しなければならないのは、経営と人材をつなぐという図5-1は、あくまでも社内の構図であるという点だ。現実にはこの企業の外側には よ り広い世界があり、CHOは社内に視野をとどめることなく、さらに高い視点から自社の経営と人事を見つめていかなければならない。CHOには、企業内部だ けでなく企業を取り巻く周囲の環境を理解し、最適な人材マネジメントを通じて企業価値を最大限に高め、企業を目指す方向へと導いていく最適な意思決定を自 ら行う責任と、CEOの意思決定を最大限サポートし、望ましい企業経営へと影響力を与えていく責任が求められている、ということを銘記しておきたい。

【CHOにおける船のメタファー】
企業に限らず、組織というものは大海に浮かぶ船であると私は考えている。
船の周囲には顧客、市場、そして地域社会があり、後方には組織としての実績が波の尾を引いている。これからどの顧客・市場・地域社会を対象に焦点を定め て経営を進めるのか、船の方向性を決めるものが組織としてのビジョン・方針であり、そこへ向かうために戦略を定め実行しながら船は航海を続けていく、とい うイメージだ。
この船の乗組員には船長をはじめ、航海士や操舵士もいれば、エンジンの運転と整備を担う機関士、あるいはまた食堂の料理長もおり、それぞれに役割を分担 し あって船を動かしている。その中でマストの上ともいうべき視点、つまり船上で最も高い位置からの情報をもとに、船の進むべき航路を見定めながら意思決定を する人物がCEO、企業経営の最高責任者である。経営者は天候と海路上の変化=環境変化を見極めて将来を予測し、自ら下した意思決定について乗組員たちに 順次伝えていく。例えば、船倉でエンジンの整備に励む乗組員には、外海の様子や遠方の天候など知る由もない。したがって、船の置かれている現状や今後の方 針を言葉として明確に伝え、たとえ目的地がはっきりとは見えない乗組員でも、やる気を持って日々の仕事に取り組めるようにするのが経営者の役割である。
その経営者と同じように、CHOは高みから外界の状況を見極め、船の全体像、運行状況の全体像を把握しつつ、進むべき航路と舵取りの進め方を見通してい なくてはならない。その上でCHOは人材マネジメント上の経営判断を行うのだ。例えば、エンジンを整備する機関士が不足している場合もあるであろうし、機 関長は活躍しているがそれを支える補佐役がいない場合などもあるだろう。そして、なんらかその影響で船の推進力が弱まり、予定通り目的地にたどり着くこと が危うくなってくるかもしれない。こうした人的リスクの予兆をいち早くキャッチし、乗組員の配置転換を検討したり、機関長の補佐役を早期育成したり、ある いはまたそうした時間的余裕がなければ他の船から即戦力になる人材を中途採用する、といったこと等の大きな意思決定を行うのが、例えるならばCHOの役割 であるだろう。
ここで重要なポイントは、CHOの立つ位置はあくまでもCEOと同じという点である。CHOはCEOと同じ視点に立ちながら、その最大の関心事として人 材マネジメント上の課題を解決するのである。経営の視点で外界の風景を踏まえつつ、組織内に潜在する人材面での問題・課題を明確化し、CEOも納得する解 決のシナリオを描いて合意をとりつけ、意思決定を関係者に周知し、実践状況を確認し、船が目指す所期の目的の実現と、船そのものの市場価値向上を果たして いくのがCHOなのである。
CHOは人材マネジメント課題の解決者である。その役割に求められる遂行要件の大きな部分で、他の経営層と異なる重要な要素がある。それは、「人の気持 ち を最大限理解できる力をもつ」ということである。マストの上からはるか彼方を見つめつつ、厳しい経営判断に思いを致しつつも同時に、船室にいる乗組員の状 況とその気持ちをも深く理解していなければならないのである。天候が悪く、航海が危うい時であれば、それが勤務する乗組員にどのような影響を及ぼすのか、 例えばその嵐は乗組員を不安にさせるか、あるいは逆に全員で乗り切ろうと船内の意欲を高める一つのチャンスとなりうるのか、そうしたことを予測し先んじて 対処しなければならない。刻々と変わる状況と経営の意思決定、それらの一つひとつに対する乗組員の思い、見方、考え方を理解し、それを最終的に最適な意思 決定と成果につなげるよう、CEOに提言していくのがCHOなのである。まさしく組織経営において、極めて重要かつ困難な職責、ということが理解できる。
日本企業の現状を考えてみれば、人事部門のマネジャーの多くは通常、マストの上や、コクピットになど登らない。彼らの多くは日々、船内の乗組員とコミュ ニケーションをとりながら人事の仕事を進めている。自社のビジョンや戦略を聞いては知っているだろうが、それを自らの日常業務と直接的にリンクさせて捉え ていない。したがって、組織全体としての人材マネジメントに関する自分なりの思いや意見はあるが、経営者としての視点はなかなか持てない、という人が多い のではないだろうか。結果として、経営の視点から直結する経営人事・戦略人事を実践することができず、経営と人事が乖離することにつながってしまう。また 逆に、経営者的なものの見方や考え方は持っているが、人材に対する関心や心を理解する力が弱い人であれば、遠方を見つめてマストの上に上ったまま、まるで 船を動かすゲームをしているかのような錯覚の中で、甲板や船室に下りてこなくなってしまう。申し上げるまでもなく、このようなマネジャーが往々にして人に 対する十分な配慮を欠いた、血も涙もないとされるリストラをも断行してしまうのだ。
CHOは単なる人事のプロ、人事部門の頂点ではない。大海に浮かぶ船が順調な航海を続けていくには、外界を見て、時には過去の航跡を振り返り、そしては るか遠方にある未来を見はるかし、船の置かれている全体的な状況と船そのものの“健康度”や“健全度”を把握しなくてはならない。そして、視点を高く持つ と同時に、状況と経営からのメッセージによってさまざまに動く「人」の心を的確につかみ、最適な人材マネジメントの実践を通じて組織としての価値を最大限 に創造していくのである。

7章より抜粋

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