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自ら変化を起こす営業組織が、顧客の未来を創る

株式会社セールスフォース・ドットコム様インタビュー

株式会社セールスフォース・ドットコム代表取締役会長 兼 社長 小出 伸一 株式会社セールスフォース・ドットコム
代表取締役会長 兼 社長 小出 伸一

1981年日本アイ・ビー・エム入社。ハードウェア、アウトソーシング、テクニカルサービス、ファイナンシャルサービスの各事業の責任者を務め、ニューヨーク本社 戦略部門へ赴任。2002年には取締役に就任。2005年ソフトバンクテレコム(旧:日本テレコム)代表取締役副社長兼COOに就任。2007年日本ヒューレット・パッカード代表取締役社長執行役員に就任。ハードウェア、ソフトウェア、サービスの各事業ならびに全業務を統括。
2014年株式会社セールスフォース・ドットコムの代表取締役会長兼CEOに就任、2016年11月より現職。2018年6月より三菱UFJ銀行の社外取締役に就任。

顧客優位の時代に営業は何をするべきか

小串 御社は毎年、売上成長率が毎年前年比の30%増という目覚ましい成長を続けていらっしゃいます。本日は急成長の秘訣や、企業を取り巻く環境変化についてお聞きしていきたいと思います。まず、御社の成功の鍵はどのようなところにあるのでしょうか。

小出 当社は1999年にサンフランシスコで創業し、ITによって顧客情報を一元化するCRM/顧客管理システムを、初めてクラウドというサービス形態で世に送り出しました。このとき当社が重視したのは「ITの民主化」ということでした。それまでのITシステムといえば、大企業が大規模な投資をし、数年かけて開発するものでしたが、我々はITを、いつでもどこでも誰でもが使えるように“民主化”したのです。つまり、我々が成功したのはアプリケーション自体の革新性以上に、マーケットに対するイノベーションを提供し続けてきたためだと思います。
当然ながら我々は、テクノロジーの提供側として常に進化し、イノベーションを持続的に提供しなくてはいけません。そこで、イノベーションを起こしやすい環境をつくりつつ、製品のポートフォリオも広げてきました。当初提供していた営業支援系サービスに加え、現在ではデジタルマーケティングやコンタクトセンター向けのアプリケーションなど、そしてそれらのアプリケーションを支援する人工知能(AI)の機能も提供しています。そういったことが当社の成長を支えていると考えています。

小串 現在は第4次産業革命ともいわれ、テクノロジーをはじめあらゆる環境が大きく変化している時代ですが、イノベーションを生み出し続けるにあたり、どのような変化に最も注目していらっしゃいますか。

小出 現在、モバイルやIoT、AIなどのテクノロジーによってあらゆる経済活動がデータ化され、それがビッグデータとして集積されています。そして、そのデータを分析・活用することにより、さまざまな新しい価値を創り出せる基盤が整いつつあります。私は「全てのものがつながる」ということが、この時代の最も重要なキーワードだと考えています。全てがつながった先には必ず顧客が存在しますが、ここ数十年の最も大きな変化は、企業側で起きているものよりもむしろ顧客側で起きていると考えています。
第4次産業革命の大きな特徴は、企業側が提供する情報よりも顧客側の方が保有する情報が圧倒的に多く、顧客側が有利な立場に立っているということでしょう。かつては企業が顧客をリードしていましたが、今や立場が逆転しています。このような「顧客の時代」においては、顧客側の視点に立って顧客からの要求に応えられる企業や、明確な差別化戦略を打ち出している企業でなければ生き残ることはできません。顧客の要求に応え、売上を上げていくためには、企業は営業というものの考え方から変えていかなくてはならないのです。

小串 何かを買おうと思ったら、まずインターネットで調べ、事前にあらゆる情報を入手して似た商品と比較検討する。確かに今は、そのようなことが当たり前になっています。

小出 実際、アメリカでは新車を買うとき、2000年ごろまでは顧客は7~8回ディーラーに足を運んでいましたが、現在は訪問の回数は1.5回程度にまで減っているという調査があります。ほとんどの顧客は、6 ~ 7回ディーラーに行く分の情報をインターネットから得ているわけです。
では、顧客が1 ~ 2回ディーラーに足を運ぶのは何のためかというと、試乗したり、車の下取り価格を聞いたり、ローンの相談をしたりするためです。これは何を意味するかというと、ディーラーの営業に求められるものは、新車のスペックを説明する力より、ファイナンシャルプランナー的な能力であるということができるでしょう。顧客の視点からビジネスモデルを考えると、販売方法も営業のスキルセットも変える必要があるのです。
不動産業界についても、昔は住宅情報誌や駅前の不動産屋で情報を得ていましたが、今はスマートフォンで間取りや価格を調べ、物件を確認できます。しかも、複数のサイトをまとめて検索し、全ての不動産屋を比較することさえ可能です。
とはいえ、実際にはまだ全てがつながるところまでいっていないので、企業側はお客様の情報を十分に使いきれていません。顧客側は、企業とつながっているはずなのに満足した情報がもらえないと考えています。我々はITでそのギャップを埋めることにより、お客様の成長をサポートできると思っています。

顧客の将来ビジョンをともにつくるパートナーになれ

株式会社セールスフォース・ドットコム代表取締役会長 兼 社長 小出 伸一 株式会社セールスフォース・ドットコム代表取締役会長 兼 社長 小出 伸一

小串 1990年代にも、カスタマーロイヤリティを獲得する顧客関係プロセスが話題になった時代がありました。しかし現在はお客様の方がより多くの情報を持っているという点で、当時とは大きく状況が異なりますね。日本企業の営業変革については、どのようなことをお感じになっていますか。

小出 変化の中にあるのは事実ですが、まだ発展途上だと思います。私はよく営業に、考え方を変えていかなくてはならないと話しています。というのは、経済成長期には、営業は顧客が経済効率性を追求するための製品やツールを売っていればよかったわけです。製品は黙っていても売れ、売上は右肩上がりに伸びていきました。時代が変化すると、ソリューション営業が流行しました。顧客の経営課題を分析し、その解決策を世界のベストプラクティスなどから見つけて提供するものです。それがしばらく主流の手法でしたが、現在の顧客は情報面で圧倒的に優位に立っており、自社の課題も把握できています。そのような状況でお客様に経営課題を聞きにいったところで、今さら何をいっているのかと思われて終わりでしょう。企業はもうそろそろソリューション営業を脱却しなくてはなりません。
これからの営業は、先の見えない状況にいるお客様に対し、明るい未来を一緒に創っていくような「ビジョンセリング」に変えていくべきなのです。ソリューション営業をしている間は新しいイノベーションは起こせません。見えない未来をナビゲートしながら、顧客のビジョンを一緒につくり込んでいくことで、顧客から信頼される営業となれるのではないでしょうか。

小串 お客様を満足させる明確なソリューションが見えない時代ということで、まさに当社も、顧客のパートナーとしてビジョンを一緒に考え、発見していくような営業に変えていこうという教育に取り組んでいます。顧客と一緒に話し合い、考えていけるプロアクティブな営業人材を育成するためには、考える力や質問する力、またそれを気づきにつなげて新しいものを顧客とともにつくっていける力が重要だと痛感しています。

営業組織を有効に機能させるSales Enablement

小串 御社では教育面、人材開発を重視し、「Sales Enablement」の仕組みをつくって取り組んでいると伺っています。具体的な取組みをお聞かせいただけますか。

小出 当社の成長の源泉は革新的な営業支援サービスですが、やはり営業が強くなくてはここまで成長を続けることはできません。当社の強い営業力を支えているのが、Sales Enablementという考え方です。当社ではこの言葉を「営業組織/担当者を会社が期待する動きができる状態にし続けること」という意味で用いており、グローバルでは創業当初から、日本法人では2008年からこの機能を持つ組織を置いています。
その仕組みはある程度プロセス化されており、対面型の研修もありますが、製品や当社の販売方法などについては各自e-learningで学ぶ仕組みができています。営業部門の人材育成プログラムは、基本的知識を学ぶトレーニングである「Learn」、営業の立ち上がりを確実に行えるようにするためのフィールドコーチングを提供する「Apply」、自分で動ける営業に、より効率的に活動してもらうたの営業ツールやナレッジを提供する「Leverage」という3つの柱で構成しています。トレーニングなどの受講履歴は社内システムに記録され、誰でも閲覧することが可能です。また、受講履歴には、各研修の合格者に付与されるバッジを表示して学習状況の可視化を行うなど、ITを活用してモチベーションを維持する仕組みをつくっています。

小串 ゲーム感覚で受講を進められる工夫がなされているのですね。そのような仕組み作りは現場の方々がリードしているのですか。

小出 グローバルのEnableの担当者とも話しながら進めています。また、当社の営業のキャリア開発のプロセスは、とてもシンプルです。まずは電話セールスを担当しますが、最初はインバウンドのお客様にお応えし、そこで実績を積むとアウトバウンドのお客様にセールスを仕掛けられる。次に中堅企業のお客様を担当して実績を上げると、大企業のお客様を担当できるようになる。このような明快なプロセスも、次に自分がどこを目指すべきかがわかりやすく、モチベーションを上げやすい仕組みの一つだと思います。

小串 そのように仕事をする中で、営業はCRM/SFAツールを使い、テクノロジーによる支援も受けるわけですね。

小出 はい。Sales Enablementのプログラムに基づいた営業活動を通じて、当社のCRM/SFAツールを徹底して使いこなしていくうちに、営業現場のビッグデータが蓄積され、精緻化されていきます。それをAIツールが解析して、売れている営業の行動パターンなどを見出し、成果の出ていない営業に対して適切なタイミングでガイドしていくシステムも用意しています。例えば、スマートフォンなどに「予算の確認のため、このタイミングで経理部長に話をした方がよい」「自分でできなければ上司にヘルプを求めなさい」とアドバイスが出るなど、AIがサポートするのです。
そのようにツールを使いこむことでデータが蓄積され、かつ、そのデータは誰にでも使えるようになっています。それが当社の売上に最も貢献していると思います。そもそも我々の業績が伸びていなければ営業支援システムは売れません。我々は実際に製品を使い、業績が上がることを証明し続けなくてはいけないわけです。

イノベーションは平等な企業風土から生まれる

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 代表取締役社長 小串 記代 株式会社富士ゼロックス総合教育研究所
代表取締役社長 小串 記代

小串 御社がイノベーションを生むための風土づくりや人材開発の面で、特に取り組んでいることはございますか。

小出 イノベーションを継続するために重要なのは、ダイバーシティだと思います。我々は「イクオリティ」といっていますが、ジェンダーも民族も全て区別なく「平等」だと見ることで化学融合が起こり、大きなイノベーションを起こせると考えているのです。
私が社長に就任した2014年から4年間で社員は大幅に増えました。このうち新卒採用は約1割で、残り9割はどこかのDNAを持って来ています。これらの多様なDNAがよい方向に化学反応することを意識し、オープンで自由な文化、皆が平等で、家族のように話し合える環境づくりを意識しています。

小串 ハワイ語で「家族」を意味する「Ohana(オハナ)」が御社を象徴する言葉だとホームページで拝見し、情報を扱う新しい仕事の中で、そのようなつながりを重視されていることに新鮮な印象を覚えました。先進的な発想と、家族的な人と人とのつながりを融合させる中から、新しいイノベーションを起こしてこられたのですね。
ところで、テクノロジーを使って顧客の価値をより高めていくには、どのような人材開発の方法が有効だと考えられるでしょうか。

小出 社員全員がスペシャリストやエキスパートであることが理想ですが、実際はそのようなことはないので、質を底上げしていくためにAI等のテクノロジーを用いるのがよいと考えています。例えばお客様相談窓口でも、顧客満足度の高いやりとりができるコミュニケーターのスキルセットを、AI等を使って他のコミュニケーターに展開していくことで、営業力や社員の質が向上し、重要な差別化につなげられるでしょう。

小串 さまざまなことがテクノロジーによって自動化されると、差別化が難しくなる面もあると思います。テクノロジーが発達しても、なおかつ残る人間の力、営業において必要とされる力とはどのようなものだとお考えですか。

小出 一人でできる仕事には限界がありますが、できないことは誰かの力をかり、チーム力を最大限に発揮してカバーできればよいわけです。ですから組織として営業力を発揮できる力、もしくはそういうことを受け入れる能力が重要だと考えています。
営業に限らず、これからは全てのビジネスパーソンにチーム力を発揮する力が求められるでしょう。チーム力といっても、飲みながら会社や上司の不平不満をいうようなことではなく、こうすればもっとよくなるという提案型の議論ができるかどうか。それができる人材を育てなければなりませんし、そういうDNAを持った人を採用する必要がありますね。

小串 そのときには自ら前向きに動ける人材であることも、とても重要になってくるでしょう。

変化を生み出す営業になれ

小串 ご自身の経験から、組織全体を変革するためにはどのような点が大切だとお考えですか。

小出 ダーウィンの進化論では変化に対応できるものが生き残るといいますが、「変化に対応する」のでは遅く、営業こそ変化をつくり出す側に回らなくてはいけません。自分たちが変化を生み出す側だという意識に変えるには、人事制度を含めた働き方そのものを変えていくことも重要だと考えています。
これまでは機能ごとに部署が分かれ、その中にヒエラルキーがある組織が主流でした。しかし、イノベーションを起こそうという場合には、人事もエンジニアもR&Dの人間も一つのプロジェクトに集まり、さまざまなDNAを持つ人間が議論できるプロジェクトタイの働き方が望ましいでしょう。特に、顧客ベースのプロジェクトで働ける仕組みをつくるべきだと思っています。
そのためには、会社が営業に対してもっと権限委譲する必要もあるでしょう。常に上司にお伺いを立ててから決めるのではなく、自分の能力と委譲された権限を使い切って、自分の判断で最高の顧客体験を提供する。そのような人材になることが求められています。

小串 要望に応えて最高の顧客体験を与えられる営業になるには、感性も必要になりますね。変化の大きい時代にはさまざまなチャンスもありますが、生き残るには本当に新しい取組みをしていかなければならないと感じます。

小出 そうですね。今や顧客との接点は、営業だけではなく、サービス、マーケティング、eコマースと多様化しており、顧客満足やパフォーマンスを高めるには、これらの接点をシームレスに連携させて全社員で共有する必要があります。今は昔ほど時間をかけずに、テクノロジーを使っていろいろな顧客接点を調べられ、営業は全ての情報を管理することで、お客様の要望や最適な対応を判断できるようになってきています。そのようにテクノロジーが営業をサポートする仕組みもまた、Sales Enablementの施策の一つです。
最初にお話ししたように、新しいテクノロジーは常に民主化されなくてはいけません。そういうテクノロジーをエコシステムとして、いつでもどこでも誰でも使えるようにしていくのが、我々テクノロジーを提供する側の使命ではないかと思っています。

小串 民主化というのは印象的なキーワードですね。現代は社会で 分断が進んでいますが、分断を埋めていくためにはそのような エコシステムが必要だと実感します。

リーダーの仕事は明るい未来を示すこと

小串 御社のこれからの事業展開の方向性をお聞かせください。

小出 当社は「トラスト、カスタマーサクセス、イノベーション、イクオリティ」という、4つの普遍的な価値をコアバリューとしています。特に当社の存続にとっては、お客様、社員、パートナー全てと「トラスト」という関係性を保つことが重要だと考えており、今後もトラストを中心にした事業展開を進めていきます。営業は顧客から変革のアドバイザーとして信頼されてこそ、顧客のビジネスの成功も実現できるでしょうし、イノベーションも継続できるでしょう。
また「イクオリティ」も、当社が多様なDNAを持つ人材を受け入れ、新たなイノベーションを起こしていく礎ですので、この価値に基づく経営を継続していきます。

小串 最後に、読者であるリーダーの皆さんにメッセージをいただけますか。

小出 やはり、先の見えない状況を明るい方向に導くような人が、良いリーダーになれるのではないかと思います。CEOの仕事というのは、実は2つしかありません。まず、見えない将来に対する判断をすること。いつ回収できるかわからないが、今ここで投資をする、というようなことです。もう一つは、この事業から撤退するなど、誰もがしたくない判断をすることですね。そういったときに重要なのは、辛い中でも、社員が明るい未来を信じられる仕事をつくれるかどうか。私自身のこれまでの経営者としての経験からも感じることですが、リーダーの究極の仕事はそのようなナビゲーターの役目なのではないかということです。
また、ゴール設定も大切です。ゴールは10年後20年後に設定し、そこから逆算して、今何をするかを考えていかなくてはなりません。そのとき、小さな目標だと多忙な中ではすぐに見失ってしまうので、できるだけ大きく、チャレンジングなゴールを設定します。例えば、「社長になる」をゴールとすると社長になった瞬間に目標達成となりますが、「社長になって成功する」をゴールとすると、その後もチャレンジすべきことがあるわけですね。

小串 本日お話をお伺いして、営業の変革には、何のためにその事業をするのかという根本を見失ってはいけないと感じました。イノベーションを生み出しやすい環境や仕組みづくりについて、実例も豊富に挙げていただき、変革に向かう大きなヒントをいただいたと思います。本日はどうも有難うございました。

インタビューを終えて

小出さんと代表小串の画像

テクノロジーの進化がもたらす「全てのものがつながる時代」には、顧客は営業に何を求めるのでしょうか。セールスフォース・ドットコム社は、顧客の成功(カスタマーサクセス)を経営の核に置き、社会の変化に対応するのではなく、自らその変化を創るイノベーティブな価値を企業に提供し続けています。今回のインタビューでは、これからの営業のあり方、営業を支えるSaleEnablementの仕組みについて伺いました。小出社長が目指す「ビジョンセリング」の背景には、テクノロジーの活用が組織のさまざまな部署や機能の垣根を無くし、顧客の成功に向けてシームレスな連携協働と情報共有を促す姿が伺えます。新たな時代の営業変革は、営業や営業組織だけの取組みではなく、組織全体が顧客側の視点に立って機能連携してこそ実現するものであることを実感しました。顧客を成功に導く出発点は営業であり、営業という仕事は企業の成長の源泉であること、営業こそが企業の変革を牽引しなければならない、真の「顧客の時代」の到来に、私たち自身の意識の変革が急がれます。

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所
代表取締役社長 小串 記代

取材日:2018年10月
広報誌xchange137号より

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