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謙虚で柔軟なリーダーが、ビジネスを変え、次世代を育てる 組織変革を支えるHRの役割

アクサ生命保険株式会社さまインタビュー

アクサ生命保険株式会社
執行役兼人事部門長 山下 美砂

GEグループに16年在籍。日本、アジアパシフィックの人事部門の要職を歴任。その後、コーチ・ジャパン合同会社 アジア人事部長を務め、2017年3月 アクサ生命保険(株)執行役兼人事部門長に就任。神戸市外国語大学卒業、米ペンシルバニア大学コミュニケーション学部修士課程修了。

チェンジマネジメントにはコミュニケーションが不可欠

小串 山下さんは、現在はHR(Human Resources、人事)部門のトップを務めておられますが、HRではないところからキャリアをスタートされたとお聞きしています。これまでのキャリアをお聞かせいただけますか。

山下 私はもともとマスコミや広報の仕事をしており、2000年からHRのキャリアを歩み始めました。周囲からは不思議がられましたが、私にとっては一貫性のある転身でした。というのはマスコミも広報もHRも共通のキーワードはコミュニケーションであり、コミュニケーションの対象がマスコミなどのメディアから社員に変わるだけだからです。
広報とは、変化が起きるところで、何がどう変化したかを人に伝える仕事です。それはHRも同じで、会社の方針等の変化を社員に伝え、理解してもらい、行動変容を促して成果を出してもらうことが仕事です。ですから自分としては、キャリアを半歩ずつ前に進めて積み上げてきたと考えています。

小串 広報からHRの仕事に変わったきっかけは何だったのでしょうか。

山下 当時私は外資系企業と日本企業のジョイントベンチャーの広報部門で、社内コミュニケーションを担当していました。そのとき大々的な組織変更があり、社内がざわついたことがありました。
広報は社内で決まったことをアナウンスする立場であり、それ以前の根回しなど、変化に向けて一歩一歩進めていく仕事はHRが行います。しかし、そのときは組織変更の大きさに対し、それに見合う量や質のコミュニケーションがなかったために、組合や当事者から不満の声が出てしまいました。そのとき私は、広報よりもっとHRの上流で関わることができたら、よりうまくチェンジマネジメントができたのではないかと感じたのです。それでHRへの異動を希望しました。

小串 よくわかるお話です。人事には組織を守る機能と変革する機能の両方があり、また、人事と社内コミュニケーションの距離には難しい点もありますが、包括的なチェンジマネジメントを考えた場合、それまで広報の仕事をされていた山下さんがHRに移ることには大きな意味があったと思います。

山下 HRにおけるチェンジマネジメントでは、コミュニケーションスキルが重要な役割を果たすと思います。しかし、私には人事の知識がなく、HRに移ってからはチャレンジの連続でした。まずはHRのことを知らなくてはと勉強はしましたが、ずっと専門でやってきた人には及びません。しかし、ステークホルダーのマネジメントという点においては貢献できたのではないかと考えています。組織が激動した時期だったので、おかげさまで自分の経験をうまく活かすことができました。

リーダーの描いたビジョンに向かい皆で1つの絵を描けるように

アクサ生命保険株式会社
執行役兼人事部門長 山下 美砂

小串 それまで経験がない中で、どのようにHRのマネジメントに取り組まれたのですか?

山下 実はHRに移ってわずか2カ月ほどで、HR部門長のポジションに就くことになりました。昨日まで同僚や部下だった、人事のプロでもない私があっという間に上司になったわけで、皆がすんなり受け入れてくれるとは限りません。そこで私は自分の役割はどういうものかを宣言しました。つまり、私は人事のプロではないので皆で役割分担をしていきましょう、私は社内コミュニケーションやチェンジマネジメントにリーダーとして取り組みますが、採用や給与支払い等の重要業務をそれぞれの専門家にリードしていただきます、と伝えたのです。
リーダーだからといって、全て皆より知識があり、うまくできるということはありません。私も皆もジグソーパズルの1ピースであり、それぞれの形が異なるところが個性です。それらを一つ一つはめていくことで綺麗な絵ができるわけですね。皆がそれぞれのピースとして機能すればチームとして組織に貢献できますが、逆に、それをしなければ成果は出せません。そのような考え方を明確に示しました。

小串 そこが成功のポイントですね。ところで、ピースの形を大切にしながら全体で一つの大きな目標に向かっていくにあたっては、リーダーは一つのピースでありながら、大きな方向性を示していく必要もあると思います。その点はどのように示されたのでしょうか。

山下 リーダーとして大切なことは、皆がどこを向いて進めばよいのかわかるようにHRのビジョンを示すことです。私はHRの進む方向性をできるだけ示し、一緒に行動していくようにしました。もちろん最初からうまくできたわけではありませんが。
それに、リーダーだからといって全て知っているわけではないので、そのビジョンを実現するためのプランを作成するときには、皆を巻込み、自分たちでつくったプラン、つまり「自分ごと」として捉えてもらえるよう心がけました。共通のゴールを持つことで気持ちが一つになり、結束力が高まるからです。そして私はリーダーとして、皆がそれぞれ動いていくときに最善のアシストができるよう意識しています。

ビジネスモデルが変われば異なる能力が求められる

小串 2017年3月に山下さんはアクサ生命保険に移られました。現在のミッションについてお聞かせください。

山下 HR部門であっても大切なことは、まず個々がビジネスパーソンであるということです。HRも会社のビジネスの一部であり、ビジネスを理解し、ビジネスの目標にベクトルを合わせていくことが重要なのです。
弊社では現在、ビジネスを大きく変革しようとしています。これまでの保険会社のビジネスモデルは、例えば医療保険であれば、保険商品を購入いただき、お客さまが病気等になった時には給付金をお支払いすることで、お客さまを経済的にサポートする「ペイヤー」という立場でした。しかし、今後は、お客さまの人生に寄り添い、予防や早期発見を促すとともに、早期に適切な治療を行うことで重症化しないようサポートが行える「パートナー」になろうというコンセプトをグローバルで掲げています。
これまで社員には商品知識が一番求められていたかもしれませんが、お客さまのパートナーになるには、広く社会的課題を俯瞰して捉える視野が求められ、組織的な能力も、社員の知識やスキルも、お客さまと接する態度も大きく変えなくてはなりません。それにはまず、会社の中に、皆がそのような社員となって気持ちよく働ける新しい文化をつくる必要があります。現在はそれをHRのミッションとして掲げています。

小串 人生のコンシェルジュとして、お客さまと共に歩める人を育てるイメージですね。

山下 その通りです。それに加えて、弊社の前身の一つは昭和9年に設立された福利厚生のパイオニア、日本団体生命であり、現在でも、お客さまとして商工会議所の会員企業の方が多数いらっしゃいます。そのようなお客さまに対しては、会員企業で働く経営者や従業員の皆さまに向けた保障を提供し、また、企業の持続性を高めるために弊社の商品を活用いただくなど、企業の財務面のアドバイザー的な側面も担って貢献していきたいと考えています。
こうなると、一営業職であっても、一般的な経営知識を身につけ、個人のライフプランニングやファイナンシャルプランニングまで幅広く行う必要が出てくるわけで、単に生命保険に入っていただく仕事とはかなりレベル感が異なります。そのような状況において、HR面からどのように組織を変えていけばよいかを考えています。

小串 具体的に、どのように変革を進めていこうとしているのでしょうか。

山下 私は常に、HRは「人」「組織」「文化」のプロセスオーナーであるという考えのもと、この3点に大きなインパクトを与えるにはどうしたらよいかという観点からプランニングしています。
特に変革の時期に大切なのは人材です。会社の中も外部環境も、そしてお客さまのライフスタイルも劇的に変化している中では、言われたことだけをコツコツとこなしていく、いわゆる“指示待ち型”の社員では間に合いません。スキルを持つ自律した社員をいかに採用し、育てるかが課題です。
弊社の社員約8,000人のうち、半数は日本団体生命時代からの社員です。あとの大半は中途採用で入社した社員ですが、今日現在でも日本の伝統的な組織のヒエラルキーや、それに連動した指揮命令系統も全社的に根強く残っています。しかし、今必要なのは、課題認識にしても仕事の進め方にしても先行して提案し、信念を持って主張し、改善や変化を恐れないマインドを持つ社員、変化を自ら起こしリードしていける社員です。現在は、こうしたリーダーシップをもった社員を育成し、組織的能力を高めていこうというマインドセットの構築を進めています。
もう一つの柱は、先にも述べましたが、そのような社員を育成し、活躍してもらえる企業文化をつくることです。自分で成長していけるよう、権限移譲ができる仕組みをつくったり、部下の意見を受け入れて成長を喜べたりするような環境づくりができたらよいと考えています。

バックオフィスからビジネスパートナーへ

小串 変革の時代において、HRの役割は大きく変わっていきます。今後はHR業務にデータアナリティクスなどを用いる機会も増えるでしょう。とはいえHRの場合は、変化を進める相手が人間である点に難しさがあります。これからのHRにとって大切なことは何でしょうか。

山下 歴史的にはHRは単なるバックオフィスでしたが、現在はビジネスパートナーとして位置付けられつつあります。バックオフィス機能ももちろん重要でHR部門の基盤でもありますが、それと戦略的ビジネスパートナーとして直接ビジネスにインパクトを与える機能とのバランスをうまくとって、リソースを配置していく必要があると思います。自社のビジネスの課題を理解し、ビジネスパートナーになっていくことは、HRにとって大きなチャレンジです。弊社のHRにもまだ従来型の管理業務が多いですが、今後に向けてパートナーの役割を果たせる体制の構築を積極的に進めています。
実は、昨年10月の組織変更の際、私は「HRをビジネスパートナーとして戦略的に位置付けられる部署に変える」と宣言しました。組織的能力を高め、ビジネスの課題を特定して戦略的に実行していくパートナーになることを目指すと、明確に示したのです。

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所
代表取締役社長 小串 記代

小串 HR部門がそのような位置付けを明確にしたことは、変革を推し進める力になりますね。実現していく過程ではご苦労もあると思いますが、特にどのような点で苦労されていますか?

山下 個人的に現在大変なのは、ビジネスを深く理解し、HRの戦略に組み込んでいくことです。保険業界が初めてなので知らないことばかりなのです。しかし、ビジネスの課題をHRで変革していくには、ビジネス自体を知らないと始まりません。知るための近道はないので、お客さまやビジネスパートナーの皆さまに会ってお話をお聞きしたり、社員とのタウンホールミーティングから学んだり、本を読んだりすることを続けています。
特に現場の声を聞くことは重要で、今日も商工会議所を担当する営業部門の部長から1対1で話を聞き、とても勉強になりました。他の部門についても、お客さまに近い社員や現場の生の声をできるだけ聞くようにしており、現在は各地で行われる組合の労使協議会などにも足を運び、現状の問題点を速やかに把握できるよう努力しています。
というのも、HRの仕事というのは、社長の話だけを聞いていても不十分です。現場がトップの方針をどう理解しているか、つまり、現場に伝わっているのか、現場がきちんと動いているかを見る必要があるのです。HRはビジネスパートナーであると同時に、社員の声を代表する立場でもあり、その両方を見ていくことが大切です。

変化の時代のリーダーには柔軟さ、謙虚さが必要

小串 これからのHRリーダーにはどのような能力が求められるのでしょうか。後進に向けてのアドバイスをお願いします。

山下 いくつかは繰り返しになりますが、第1に、会社のビジネスを理解する「ビジネスパーソンたれ」ということ。第2に、その視点から、HRをビジネスの目標達成に貢献できる組織とするべく、ビジネスの課題をHRの課題に戦略的に落とし込んでアクションをとっていくこと。第3に、「チェンジ・エージェントであれ」、第4に、リーダーはさまざまな意味でコーチ(指導者)であることを意識し、人の可能性を信じて、皆が成長するのを見守ることに情熱を持ってほしい。
第5に、科学的ではないとされてきたHRも、これからはビッグデータの時代になるので、データを読み、活用していく能力が必要だということ。採用についても過去の応募者や採用者のデータを読み込ませて、ある程度までの絞り込みができるようになっていますが、将来的には、採用プロセスの多くの部分で人間が面接する必要さえなくなる可能性もあります。そのような時代に向け、データを読む力を身につけておくことは大切でしょう。しかし、それ以上に大切なのは、そこにハートがあるかどうかです。採用にAIの力が活用できたとしても、最後は人と人であり、人間が愛を持って育てていかなくてはいけないと思います。
そしてもう一つ、トップマネジメントは、利益を生み出すために、数字を前提とした厳しい判断をすることもあります。そのときHRはビジネスパーソンとして賛同する場合もありますが、どうしても譲れないことであれば、勇気を出してノーということも大切な役割だと考えています。

小串 人の可能性を信じて見守れること、愛を持って人を育てられること、譲れない点は譲らない強さを持つこと-それはあらゆる立場のリーダーに大切なことかもしれません。最近、企業のトップから次世代リーダーの育成に関する悩みをよく聞くのですが、次世代の人材開発についての考えをお聞かせください。

山下 まずは、次世代リーダーを育てようとしているその人自身が、しっかりとしたリーダーシップを持っていることが重要ではないでしょうか。リーダーシップのあるリーダーなら、何をもってリーダーというかを理解し、各人の強みや弱みも把握できるので、リーダーシップのある次世代の人材を見つけられると思います。
また、常に自分が完璧でないことを自覚し、どんなに上の立場になっても学ぶ力と謙虚さを忘れないリーダーや、リスクをとって部下にチャンスを与え、難しそうでもやらせてみるけれども、一方で失敗しないようサポートも行えるリーダーのもとでは、部下は育っていくと思います。
自分自身もチャレンジの連続の中で、仕事を通して成長してきたと実感しています。自分が上級職になり、人を採用し育成する経験、すなわちその人に賭けてリスクもとる経験をするようになって、当時の上司の顔が浮かぶようになりました。それだけのリスクをとって私にやらせてくれたのか、と。そうしたエキサイティングな仕事を提供してくれた上司や周囲の方々に今は感謝しています。現在、私が採用した人には、リスクをとり、ストレッチもかけて成長してもらえるようにと考えていますが、人は自分が育てられたように人を育てるのだと思っています。

小串 変革の時代にあっては、自分が全てを知っていると思わず、人からも学ぶことのできる力は重要ですね。安定した自信がないと、本当に謙虚になるのは難しいものです。そのような人を社内外から見つけ、育てていくことがリーダーの課題なのかもしれません。

山下 謙虚さの裏には真の意味での強さがありますね。自信がなければ反対意見に対しても、そう冷静ではいられず、受け入れることも難しいですから。
それから、成功した人は自分の成功体験が誰にとっても成功する道だと信じ、過去の意識のまま人を育てようとする傾向があります。しかし、それでは人は育ちません。環境は激変していますし、世代が変われば人も変わるのですから。例えば、かつては飲み会が有効なコミュニケーション手段だったとしても、今の若者は飲みに行かないわけです。では、どう伝えるのか。飲み会に来るのが当たり前と考えるのではなく、新しい方法を考えることが必要でしょう。過去の自分をある意味で否定し、上から新しく書き換えていくことの重要性を実感しています。

小串 「書き換え」というのはよい言葉ですね。「リセット」とは異なり、自分を更新していくイメージがあります。リーダーには変化を受け入れ、書き換えていく柔軟性が求められるということは、実感としてよくわかります。実際、次世代のリーダー像は現在のリーダー像と同じではありません。ですから現在、その像を明確に描くことは容易ではなく、手探りで探している段階であるのだと思います。

山下 そうですね、それに強さに裏打ちされた謙虚さといった内面は、一生かけて培っていくものなのかもしれません。
先日、アクサではグローバルで大きな組織変更があり、長く会社で活躍し、日本にも駐在経験のある役員が退任することになりました。先ほどその方からメッセージが届いたのですが、そこには「私は20年間ここで学ばせてもらった。自分はよりよいマネージャーになり、よりよいプロフェッショナルになり、よりよい人間になった」というようなことが書いてありました。この方に限らず、リーダーシップを極めていくと、「社長として」「リーダーとして」ではなく、自分は「人間として」どうあるべきかを問うようになります。私はそのような方々にこれまで何人も出会い、その姿から人生に大切なことを学んでいます。

小串 素晴らしい方々に出会った経験を、山下さんはご自身の中でワインのように熟成させ、次のステージに向かっていると感じます。人生の多くのことは自分の力で勝ちとったのではなく、それまでの多くの「出会いの輝きの余光のようなもので成り立っている」という哲学者今道友信先生の言葉が好きなのですが、今のお話からは同じようなニュアンスを感じました。

山下 私自身も出会いに恵まれてきたと感じています。もちろん、そうではない出会いもありましたが(笑)、今思うことは、自分が成長しようというとき、何の学びもない出会いはないということです。現在は、どのような出会いに対しても感謝できるようになりました。

小串 私も山下さんと出会ったことが、よりよい人生に向かう一つのきっかけになったと感じています。本日は幅広く奥深いお話をありがとうございました。

インタビューを終えて

自然体で相手を包み込む笑顔、さまざまなチャレンジを学びの楽しみに転換する適応性、そして強い使命感を持ったリーダー。インタビューを通して感じた山下役員の印象です。周囲の気持ちをオープンでポジティブにする爽やかな空気に包まれた時間になりました。
変革の時代に企業の経営戦略実現に人事の果たす役割はますます大きくなってきています。組織変革には、戦略実現に向けた人、組織、文化の変革と同時に、多様な働く人の気持ちを理解し寄り添える人間のスペシャリストとしてのコミュニケーションが求められます。その前提には深いビジネス理解があるという山下役員の言葉からは、ビジネスリーダーでありピープルリーダーであるという二つの側面のバランスを改めて考えさせられました。リーダーシップは、一生かけて人間として成長することで、よりよく生きるための旅にたとえられます。自分の内なる声を聞き続ける山下役員の生き方が、多くの人を鼓舞し、組織を前進させる活力になっていることを感じました。

株式会社富士ゼロックス総合教育研究所
代表取締役社長 小串 記代

取材日:2017年11月
広報誌xchange135号より

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